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夏休みも残すところあとひと月。
本日、青の月六日はセシルの誕生日だ。
名門魔術一族の跡取りどうしながら今まで交流のなかった二人だけど、今年は同じ学園の生徒ということで誕生会にお呼ばれしました。
「セシル君と仲良くなったんだね。ユーフェミアが楽しく過ごしてるようで良かったよ」
デトアール宅に向かう馬車の中でレイズコット家の現当主、つまりユーフェミア様のお父様が温和な笑顔を浮かべて言う。
三十代前半。攻撃的なユーフェミア様と違って人当りがよく、いつも笑っている方だ。屋敷を開けることが多くて、実は私もまだ数えるほどしかお会いしてない。
だからこの状況、とても緊張する。
馬車の進行方向側に当主様。向かい合うように私とユーフェミア様。
なぜか私までついて行くことになりました。使用人の分際で夏用ドレスをいただき、そういただいたんだよ、あまつさえパーティーに参加するなんて、でしゃばりすぎてるんじゃないかと体を縮こまらせる。
そんな私を見て当主様はにこりと笑った。
「ミラはもう学校には慣れた?」
「は、はい。皆さまによくしていただいて」
「そっか」
当主様はにこにこと笑う。
「じゃあユーフェミアのそばにいて楽しい?」
「もちろんです!」
「そっかそっか。それは良かった」
なんだか当主様の機嫌が頗る良い。いいこと、だよね?
「実はね、ミラもアザンツ学園に入学させようと思うんだ」
「はあ……ええっ!」
な、なんだって? 学校? 聞き間違いかな?
「正式な手続きをしないといけないからすぐというわけにはいかないけど、どうかな入学?」
うわー、やっぱり入学って言ってた! 私の耳ちゃんと機能してた。
驚きすぎてしどろもどろになってしまう。
「う、え、あの、なんでそんな話に……?」
「慈善事業の一環だよ。富める者が恵まれない者に手を差し伸べるのは義務であり……あー……」
当主様はわずかに眉尻を下げてつづけた。
「生々しい話になってしまうんだけど、どれだけ慈善事業できるかで家の状況が量られるからしないわけにはいかなくて、あ、嫌々ミラを引き取ろうというわけじゃないんだよ。ただ都合が良かったというか、ミラはいい子だから安心して引きとれると思っただけで」
嘘がつけない人だなあ。
私のためって言っておけばよかったのに。
大変ありがたい申し出だけど、ありがたすぎて恐れ多い。
本当に受けちゃっていいのか?
ユーフェミア様をちらりと見ると、ユーフェミア様は窓枠に肘ついておざなりな態度で言った。
「うちとしてはあなたに給金を払うか学費を払うかの違いよ」
そ、それもそうか。
私が学生になって未来が変わるとして、ユーフェミア様に悪影響与えるとも思えないし、あの学校心に余裕のある人が多いからいじめられる心配もなさそうだし、お言葉に甘えてしまってもいいのかも。
「あ、でもね、入学するにあたってうちの養女になる必要があって」
「養女ですか⁉」
「やっぱり元の家族のこととか気にするよね。一度挨拶に行って」
「いえ、家族のことはいいですけど」
問題はそこじゃない。
「養女となると卒業後もレイズコット家にお世話になるわけですよね。さすがにご迷惑では……」
「ミラは遠慮しいなんだね。迷惑だったらこんなに強く誘ってないよ」
当主様の笑顔には一点の曇りもない。
学校、養女、すごくすごくありがたい話だ。
「えっと、その────よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
当主様は嬉しそうに笑い、ユーフェミア様もニコッと口の端を上げた。
「ずっと一緒ね、ミラ」
ユーフェミア様は惚れ薬争奪戦事件以来、私に対してかなり素直だ。
ユーフェミア様はふと思い出したように、当主様を見た。
「お父様、私当分学校行かないから」
「ええっ⁉」
当主様が驚きの声を上げる。
「ど、どうしてだい? 何か嫌なことでも?」
ワタワタと手を動かしてめったに会えない娘のことを心配する当主様。
「学年一位の私じゃなく二位のショウ王子を内進生クラス編入者に選んだのよ。ひどい侮辱だと思わない? だから学園に歯向かうことにしたの、ああ、安心して。ショウ王子とは和解したから王家とのいざこざはないわ」
矢継ぎ早に説明していく。
惚れ薬が完全に抜け切った後、改めてちゃんと禍根が残らないよう話し合った。
首にかけられたショウのネックレスもその時ちゃんと返しました。「やる」って言われたけど、代々伝わる秘宝なんでしょ、もらえないよ。そもそも誕生日ですらなかったんだし。
当主様はうーんと、悩み、
「あ、だからいろんな大会に出てるのか」
と、アザンツ学園の卒業生らしい理解力を発揮した。
「一度休み癖が付くとずるずるいっちゃうからおすすめはしないけど」
経験談かな?
「うちが金を出すだけの家と思われるのは癪だし、二学期の間くらいならいいよ。学期頭に予定していた寄付金も取りやめよう」
当主様は意外と気が強くていらっしゃる。
ユーフェミア様のお父様なんだから当然といえば当然か。
ユーフェミア様が休むことで学校側に不信感を持つ層は一定数現れるだろうし、寄付金止められるのは目に見える痛手となる、校風、慣例通りに判断していればこんなことにはならなかったろうに。
当主様はユーフェミア様の頭をポンと叩いた。
「でもいいかい。うちの立場を悪くしてはいけないよ。味方はたくさん作っておきなさい」
「わかっているわ、お父様。今日もそのために来たのだし」
上流階級の人たちが催すパーティーは様々な思惑が飛び交ってる印象だったけど、その一端を垣間見た気がする。
デトアール宅につき案内された広間にはすでに人が大勢いた。
見知らぬ人の間にはちらほら学園で見かけた生徒もいる。
「まずはセシル君に挨拶に行くよ」
当主様に促され、部屋の中央で人に取り囲まれているセシルの元へと向かった。
セシルの隣には強面のおじいさん。
ユーフェミア様にこそっと耳打ちする。
「セシル様のお隣の方はどなたですか?」
「クロネオ・デトアール様。デトアール家の現当主でセシルのおじい様よ」
なるほど。
「……おじい様なんですか?」
セシルは自身を次期当主って言ってたから、てっきり親が現当主なんだと思ってたんだけど。
「無意味な詮索は危険の元よ」
ユーフェミア様にくぎを刺され口をつぐむ。
そうこうしている間に前にいた人たちがいなくなり、ようやく私たちの番となった。
「お誕生日おめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
当主様が言い、私とユーフェミア様もそれに続く。
セシルは相変わらず嫉妬すら起きないほどかわいらしい顔でお礼を言った。
「ありがとうございます」
「今年もどうも、レイズコット殿。ユーフェミア嬢も来てくれたんだね。セシルがお世話になってるそうで」
デトアール当主様はお顔に似合わず落ち着いた優しい話し方をしていた。
「ところでそちらのお嬢さんはどなたかな」
あ、でも、視線を向けられるとまだ怖い。
「この子はミラといいまして、今度我が家で引き取ろうと思っているんですよ。セシル殿とは知り合いということで連れてまいりました」
「ミラと申します。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
……さっき馬車の中で「どうかな」なんて聞き方してたけど、私をパーティーに連れてきた時点で当主様の中では決定事項だったんだろうな。聞いたのはあくまで形式。私が固辞してたらどうしてたんだろう。
断るはずがないってことなのか、断らせるつもりはないってことなのか。
デトアール当主様は迫力ある笑顔を浮かべた。
「うちの孫をよろしく頼むよ、ミラ」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「パーティー楽しんでいってね」
セシルに笑顔で見送られ、その場を離れる。
私たちが退くとすぐ次の人との挨拶が始まり、セシルは笑顔で対応していた。主役は大変だ。
「じゃあ父さんは他の人に挨拶してくるから、二人は友達のところに行っておいで」
こっちも大変そうだ。
一緒についてまわらずにすんで助かったと安心しながら、生徒が集まってる場所へユーフェミア様と向かう。




