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途中他者視点はいります。
努力に勝る天才なし。
「僕、いっちばーん!」
「チッ、三位」
「っぶねー! 変な薬の実験体にされるところだった」
登校一番、学年掲示板の前に立ち、内進生たちの悲喜交々な感想を聞きながら外進生用の順位表を見る。
一 ユーフェミア・レイズコット
二 ショウ・アメストリ
ユーフェミア様の努力が報われたということです。
「ミラ」
「はい」
「一位よ」
「はい。おめでとうございます、ユーフェミア様」
「────やったわ!」
喜びの声を上げ、ユーフェミア様が私に抱き着いた。
「やったわ、やったわ! 私、すごく頑張ったの!」
「知ってますとも。ミラはちゃんと見ていました」
頭をなでると満足そうに眼をすがめる。
とっても頑張ってましたもんね。盛大に喜びましょう。ひがみをひがみだと一蹴できるくらいユーフェミア様は努力なさったんですから。
ひとしきり順位表を眺めて満足したユーフェミア様は、教室へと入って行く。授業時間ではないので、私も一緒に。
「おはようございます。順位表見ましたわ。私、感動してしまいました。さすがですね」
教室に入るなり、ナタリーさんからお褒めの言葉をいただく。
先ほどめいっぱい喜んだので、ユーフェミア様は落ち着いた余裕のある対応をした。
「おはよう。さすがだなんて、照れくさいわ」
「謙遜しないでくださいまし。私もせめて名前が載るくらいは、と思っていたのですがなかなか難しかったですわ」
名前が載るのは、内進生二十名、外進生三十名のみ。
「今度勉強教えてくださいませ」
「私でよかったら、ぜひ」
「ありがとうございます」
ナタリーさんはニコッと笑って席に戻って行った。
その後もこの二か月の間にぼちぼち話すようになったクラスメイトに声を掛けられ、その都度笑顔で返していく。普段そっけない態度なだけに笑顔あふれる今のユーフェミア様は非常に話しかけやすいらしく、話したことのないクラスメイトにまでおめでとうと言われるほどになった。
そんな中、満を持していよいよ始まるこの二人の会話。
ユーフェミア様とショウ。
本来なら互いに健闘を称えあうものなんだろうけど、二人の場合はどうなるのか。仲が良くないことを知っている私やクラスメイト達はハラハラしながら見守り体勢にはいった。
先に口を開くは、学年順位二位のショウ。
「順位表を見た。おめでとう」
「おめでとうございます」
おまけの北橋とともに健闘を称える。
後攻、ユーフェミア様。
「ありがとうございます。たまたまヤマが当たっただけですのに、こうして皆様にお褒めの言葉をいただいてなんだか恥ずかしいですわ」
一位になった手前、二位のショウをむやみにほめることはしないけれど、たまたま、という言葉を使って謙遜し次はショウが勝つかもしれないと暗に伝えることで、ショウのすごさを称える。
普段なら勝ち誇っていただろうに、今は無駄に勝ち気な態度が鳴りを潜めるくらいユーフェミア様は心満たされていた。
この分なら険悪な雰囲気になることはなさそう。
争いにはならないとわかったんだし、もう先攻も後攻もないんだけど、ユーフェミア様の言葉を受けて再びショウが口を開いた。
「謙遜する必要はないだろう。あれはお前の実力だ」
「────」
ユーフェミア様が押し黙る。
ショウの言葉はまだまだ続く。
「お前が頑張っていたことはみんな知ってる。だからこうして祝ってるんだろ」
ユーフェミア様が教室に入ってから今の今まで、誰一人としてユーフェミア様をねたむ生徒はいなかった。皆、純粋にユーフェミア様に声をかけていた。
それは、試験範囲が発表されてからずっと、昼夜問わず試験に向けていそしむユーフェミア様をみんな見てきたから。
できなかった時の言い訳なんて考えてない。
全力で挑んで、最高の結果を出した。
クラスメイト達の言葉が、視線が何よりの証拠だ。
「おめでとう」
ショウがもう一度言う。
ユーフェミア様はギュッと眉間にしわを寄せ、フイっと顔をそらしながら小さな声で言った。
「────ありがと」
かわいくないかわいい姿に、クラスメイト達はほおを緩ませる。
これ以上真っ赤な顔は見られたくないと、ユーフェミア様はショウに向かって犬でも追い払うかのようなしぐさをした。はっきりわかる照れ隠しに、ショウは苦笑しながらユーフェミア様の頭をポンと叩いて、
「次は負けないから」
と、席に戻って行った。
教室の端で持病の癪を発動させたナタリーさんが胸を押さえて苦しんでいる。
最近気づいたけど、ナタリーさんの持病は放っておいてもいいやつだ。
二人のやり取りが終わったことで、クラスメイト達もそれぞれの活動に戻っていく。私も先生が見えたから教室から出ようと思うんだけど、その前に一つ。
……あの、今、頭触る必要あった?
格好いい人は何しても格好いいから今のも大変様になっておりましたね。で、え、もう一度聞くよ、頭触る必要あった?
こわいわー。
これがユーフェミア様じゃなかったらショウに惚れてたんじゃないでしょうか。
下手したらハワードを敵に回す行為だったんじゃないでしょうか。
軽率な行動は控えるよう北橋伝手に注意しよう。
ショウとくっつくのは『花咲く国のティナ』の主人公、ティナなんです。
先生が教室に入ってきたので、ショウティナ以外のカップルを見て体調不良を起こす北橋の手を引き、教室の外へと出る。
☆★☆
【ある教師の悩み】
試験結果発表の日はとても良い光景が見られた。クラス中で成績一番の彼女を称え、彼女もまた笑顔でそれに応じていた。二位の子とも次の話をしており胸が熱くなった。
ユーフェミア・レイズコット。
レイズコット家といえば名の知れた魔術師一族で、この学園の卒業生にもレイズコット家の人間は多くいる。かくいう私の友人もレイズコット家の傍系だ。
本家の長女として生まれた彼女もまたアザンツ学園に入学するため幼等科の入試を受けた。だが、入試一週間前に母親が亡くなっており、心の平穏を取り戻せないままの受験だったので落ちてしまった。
これは仕方ない。
五歳の女児に母親の死をすぐ受け入れろだなんて辛すぎる。
それでも同時期に入試のあったシフォール学園には受かっていたそうなので大したものだ。
初等科の入試は彼女が一位だった。
親戚、親族に魔術師がいない一般家庭出の女子が二位になったことでそっちにばかり注目がいっていたが、私はユーフェミア・レイズコットの功績をちゃんと知っていた。
だが勘違いしないでほしい。
私はひいきなどしない。
生徒には平等に接する。
たとえ王子であってもだ。
ショウ王子。
一応学校にはショウ・アメストリとして申請してあるが、アメストリとは本来王家の祖となった一族の家名であり、便宜上苗字として使っているにすぎない。
ともかく王子が入学するとなり、学園は慌てた。
打診していたものの本当に来るとは思わなかったのだ。
打診していながら受け入れ態勢は万全ではなかった。
新入生代表を彼がしていたことがまさにその証明だ。
あれは、王子に花を持たせないわけにはいかないという浅はかな考えのもと行われたのだ。まったく、生まれではなく魔術師としての素質を重視した校風が聞いてあきれる。
いや、反対する声もあったのだよ。
国一番の名門魔術一族の後継者を蔑ろにするのはまずいのではないか、というものだったが。
理由はともかく、慣例通り内進生の成績優秀者が代表を務められるよう彼らとともに戦った。
そして負けた。
セシル・デトアール本人が任を拒否したのが大きい。
おかげでデトアール家にも王家にも面目がたったわけだけれども、セシル・デトアールはあのまま育って大丈夫なんだろうか。面倒なことを放り出す癖がつきすぎてやしないだろうか。
結果に応じて生徒のやりたいことを応援する仕組み、『あだ名付き』という制度。
私も学生時代はありがたく使わせてもらったが、最近、ともすれば真面目な生徒を堕落の道に誘い込むものではないかと危惧するようになった。
────ああ、いかん。
これでは若いころ嫌っていた口うるさい年寄りと同じではないか。
我々にできていたことが若い者にはできないなどと思いあがってはいけない。
その証拠に、ほら、五年ほど前にいたデトアール家の者は非常に優秀だった。能力もさることながら『あだ名付き』として生徒たちを正しいほうへ導き、まとめあげ、アザンツ学園の生徒とはかくあるべきという理想形のような行動をしていた生徒だった。高等科へ進学しなかったのがとても惜しまれる。今は王都特別治安維持署にいるといっていたかな。
彼が世話をしていた生徒たちは今や────、問題が多々ある、というか『問題児』そのものがいるわけだが、うん、老いも若きも関係ない。個人の資質だ。あの彼に面倒を見てもらってああなったのだから、年齢など本当に関係ないんだ。
特に『問題児』。一番、デトアール家の彼に懐いていたはずなのに、いかんともしがたい存在になっている。あまりにも『問題児』が問題児なので、この前とうとう『問題児』の妹に愚痴をこぼしてしまった。妹は薬学に興味を示す至って真面目で普通の生徒なんだが。
そのときユーフェミア・レイズコットの話もしたなあ。
おっと、そうだ。ユーフェミア・レイズコットだ。
セシル・デトアールや『問題児』ではなく、ユーフェミア・レイズコットだ。
私は彼女を内進生クラス編入者に推薦した。
何の不思議もない。
毎年毎学期ごとに選ばれる編入者は、学期末の成績最優秀者なのだから。慣例に従ったまでのこと。
おかしいのは学園側なのだ。
先ほどの職員会議で決まった内容を思い返しため息をつく。
渡された書類の名和えは何度見ても変わらない。
「ショウ・アメストリ。
上記の者を内進生クラスの編入者に決定する」
素質重視の校風が聞いてあきれる。
☆★☆
試験は前はあれほど生徒であふれかえっていた演習場も、今は貸し切り状態。
ユーフェミア様は術の練習台用に置かれた丸太の前に立ち、ひたすら叫び続ける。
「ムカツク、ムカツク、ムカツク!」
ひたすら丸太を殴り続ける。
「ムカツクムカツクムカツクッ」
ひたすらその怒りをぶつける。
「ムカツクのよっ!」
魔力を帯びた強烈な一撃を受け、丸太は粉砕した。
「ハアッ、ハアッ」
淡い光とともに再び現れる丸太を、泣き出しそうなほど顔を歪ませてみているユーフェミア様の拳には血がにじんでいた。
「ユーフェミア様、お手を。────『レ・ナ・ドーレ』」
ユーフェミア様の手を取り治癒術をかける。
元通りきれいになった手に、ぽつりと滴が落ちた。
「ミラ」
「はい」
「ミラァ……」
「はい」
ユーフェミア様に手を伸ばし、そっと抱きしめた。私の肩に顔をうずめたユーフェミア様は、最初は小さな声で徐々にはっきりと嗚咽を上げる。
つい三時間ほど前。
内進生クラスにいくのはショウだと告げられた。学年集会でのことだった。
ユーフェミア様は説明を求めたし、ショウ自身も異論を唱えたし、その場にいた多くの生徒がこう思った。
成績最優秀者が選ばれるのではないのか。
疑問にたいし告げられたのはたった一言。
決まったことだから。
納得のいく説明はなくうやむやのまま集会は終わり、ショウにあたりちらすことも、教師に逆らうこともできなかったユーフェミア様は、こうして泣くことしかできなかった。
悔しいと声を漏らすユーフェミア様に、私は何もしてあげられない。
そんな自分が情けない。
泣いて、泣いて、泣いて、ひとしきり泣いた後、ユーフェミア様は私からゆっくり離れ、虚ろな目でつぶやいた。
「ミラ」
「はい」
「結局努力何て無駄なのね。重要なのは生まれで、権力なんだわ」
「そんなことっ────」
ないなんて言えない。
ユーフェミア様は生まれと権力に負けてしまったんだ。
出かかった言葉が消えていく。
非情な現実。
二人だけの静かな演習場に、目標を砕かれた少女の憎悪が渦を巻く。
「権力さえあれば」
ドロリ、
「力があれば。誰も私に逆らえないぐらいの」
ドロリ、ドロリと、
「すべてを従わせる、絶大な力がっ」
澱み、他の感情を汚染し嵩を増していくその悪意を、私は────、
「いけませんっ、その道は危険です!」
────叩いて止めた。
パンッという小気味よい音が鳴り、ユーフェミア様が目をぱちくりさせる。
「ミラ……?」
叩かれた頬を押さえながら、何が何やらわからないという表情で私を見る。
そんなユーフェミア様の肩を、ガシっとつかんだ。
「ダメです。怒りに任せて権力を持つなどユーフェミア様が最もしてはいけない行為です」
経緯も感情を何もかもすべてわかったそのうえで、それでもあなたを引き留めます。
それが私の使命です。
ユーフェミア様は叩かれたことや私が言っていることを徐々に理解していき、目を吊り上がらせた。
「私に逆らおうっていうの!」
グッ、怖い、迫力がある。
よく考えたらユーフェミア様の怒りが直接私に向かってきたことってなかったかも。別の誰か、おもにショウに向けての怒気をそばで見ていただけだった。
はたから見ているだけでも怖いのに、直接向けられている今の状況といったら。
────いや、ここでひるんじゃんだめだ。
この方の運命を変えるって決めたろ、私!
バキッ
「……」
「……」
ふー……、いい拳だった。
おかげで震えが止まったし、目も覚めた。
ちょっと右頬が痛いけど、殴った拳のほうがもっと痛いんだ。被害者と加害者は同一人物。けが人は私だけ。問題なし!
「話を続けますよ、ユーフェミア様!」
逃しません。
「ミ、ミラ、あなた口が切れて……」
「ユーフェミア様に比べればこんな傷何ともありません!」
「私は軽くたたかれただけだからケガは……」
「心の傷です! そして私の得意分野は治癒術です!」
目に見えない傷は治したことないけどねっ。
何を隠そう治癒術は、体表面<体内<越えられない壁<精神≒不老不死で難易度だ上がっていくわけだけど、私はまだ体表面の怪我しか治せません。
つまりおたわ言にお付き合いくださいということだ。
ユーフェミア様は胡乱げに私を見る。怒りが収まったようでなにより。
「こういっては何ですが、学期ごとに一回編入の機会があるんですから、次を狙えばいいではありませんか」
「一番に選ばれたかったのよ。だいたいっ、……次も選ばれなかったら、どうするのよ」
「行かなきゃいいんですよ」
「は?」
ユーフェミア様が地を這うような低い声をだした。
「あ、いえ、完全にやめるというわけではありません。学校通ってないと不便なこともありますしね」
多分、理想的な生徒といわれるのは今回のことで悔しい思いをして泣くこともあったけれど決してあきらめず勉学に励み再び目標に向かって突き進んでいく人なんだと思う。ユーフェミア様がその方向で頑張るなら応援する。
たとえ、個人的にくそくらえだと思っていても。
でも諦めないように破滅への道筋ができてしまったら阻止する。
たとえ、気持ちがわかったとしても。
私はあなたの命を優先に考えます。そのためなら────。
「ご存知でしたか、ユーフェミア様? この学校、神一柱捕まえると一か月は休めるんですよ」
目的のためなら主を多少不良にすることだっていとわない女なんです。




