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入学式から二か月。
この時期に行われる重要行事といえば、そう、試験。
試験内容は筆記と実技で、一週間かけて行われる。普段授業以外で使われることのない演習場も今は実技練習を行う生徒でいっぱいだ。
ユーフェミア様も昨日は演習場に行った。
今日は筆記対策の放課後特別授業に参加する。
放課後時間が許す限り学校で試験対策をしているものだから、最近下校時刻が遅い。
「ミラは先に帰ってていいのよ」
なんて仰るけれど、そうもいきませんよ。
「ユーフェミア様と一緒に帰りたいので待ってます」
「そう。じゃあ待ってる間、一つ頼まれてちょうだい。薬学室で眠気ざまし薬を売ってるそうなの。一本買ってきて」
「わかりました」
ユーフェミア様から財布を預かり、早速薬学室へ向かう。
眠気覚まし薬を一本、眠気覚まし薬を一本、っと。
でも、ユーフェミア様、寮に戻ってからも夜遅くまで勉強してるみたいなのに、眠気覚まし薬にまで手を出して大丈夫かな。ただでさえ少ない睡眠時間がさらに少なくなってしまう。根詰めすぎて当日倒れるとかならないといいけど。
この試験の結果で二学期から内進生クラスに入れるかどうかが決まる。ユーフェミア様はこれに命かけているといっていい。
だからこそ失敗してほしくない。
薬学室につき扉を開けると、フワッと甘いにおいが漂ってきた。
中には赤髪おさげのアイリスが問題集広げて座っている。
「こんにちは、アイリス様。こちらで眠気覚まし薬を売っていると聞いたんですが」
「何本?」
「一本です」
「わかった」
アイリスは戸棚から透明な液体が入った透明な瓶を持ってくる。
お金を払い、瓶を受け取ってお使い完了。
瓶を受け取ったとき甘いにおいがしたから、先ほどのにおいの元は多分これだ。
「アイリス様は売り子ですか? 試験前なのに大変ですね」
「試験前じゃないと売れない商品だからね」
まあ、確かに。意味もなく好き好んで徹夜する人なんてほぼいないわな。
「他にはどんなものが置いてあるんですか?」
「今はこれだけ。何かほしいものがあるなら作るけど」
「えっ、アイリス様が作るんですか⁉」
「そうだよ。ユーフェミアから聞いてない?」
「お使いを頼まれただけなので詳しくは聞いてなかったです」
単なる売り子さんだとばっかり。
作るところからしていたとは。
でもお菓子つくって友達にプレゼントっていうのとはわけが違うと思うんだけど。大丈夫なのかな。
「あの、内進生の方はもう薬学の授業があってるんですか?」
「薬学は四年生からだけど────、ああ、私のは独学だけど先生の許可は下りてるし、摂取量さえ間違わなければ問題ないから」
私の不安を察し、アイリスが弁明する。
うーん。
不安は残るけど、ユーフェミア様がいいっていうならいいの、かなあ? 勉強のしすぎで判断力低下してるとかないよね。
「あー……、これで信用上がるかはわからないけど、セシルも使ってる。あとレイスも」
「あのお二人もですか。ちゃんと試験勉強するんですね」
「一応この学年の一位と二位だから」
おっと意図せず二人をバカにする言い方してしまった。
徹夜してまで試験に臨む二人が想像できなかっただけなんです。
「あの二人は涼しい顔して一位になるのがかっこいいと思ってるから。周りに必死な姿はは見せないよ」
「ではここで聞いたことは秘密ということですね」
「そうだね」
あの二人も使ってるのなら大丈夫かな。
「アイリス様も使うんですか?」
「私は睡眠時間削るとダメだから使わない。決まった時間に寝て決まった時間に起きるのが一番うまくいく」
健康的だ。
「それに私はレイスみたいに直前にあたふたするような、おざなりな授業の受け方してないし」
「レイス様、おざなりなんですか?」
「すぐ休むよ。気づいたら一か月以上いない」
「あ、ああ……。そういえば学期ごとに一回しか来ない生徒もいると聞きました。本当なんですか?」
「いるね」
「なぜ皆様休みたがるのでしょうか」
「面倒だから、学校が」
なるほど。
これ以上ないほどの正論がとんできた。
そういや、私も学校行きたくない派だったわ。勉強も嫌いだったけど、ずっと行動を縛られてるってのがどうもね。
授業中だろうと眠いもんは眠い。
休めるもんなら休みたい。
自由に過ごしたい。
もしかしたら私もレイス君のようになってたのかも。
そう考えると────。
「そう考えると、ユーフェミアは偉いよね」
私の考えを読んだようにアイリスが言う。
「授業真面目に出るし、宿題もちゃんとする。最近のユーフェミアに触発されて勉強する人も増えたって、先生褒めてたよ」
「え、え。と。アハハ、何か私が照れてしまいますね」
ひゃっほう! ユーフェミア様が褒められた!!!!!!
「成績良い人はどうしても目立つから、先生たちもどうせなら模範となるような人に目立ってほしいんだよ」
模範ですってよ! フォォオオ‼
そうなんだよ。ユーフェミア様は口だけじゃないんだよ。ちゃんと努力して結果出してる。
見てくれてる人がいるって、うれしいね。
「ち、ちなみにですよ、アイリス様から見てユーフェミア様は外進生一位取れると思いますか?」
外進生と内進生は試験内容が違うので、順位争いのことも内進生になら気軽に聞ける。これが北橋相手だと「ショウが勝つ」の一点張りで会話が進まない。
アイリスは逡巡し、口を開いた。
「そこまでは何とも。王子もすごいと思うし」
くそー、断言はしてもらえないか。
まわりもユーフェミア様とショウのどっちかが一位だろうけど、どっちが一位になるかはわからないって感じなんだよね。
「外進生の順位争いは予想難しくて注目の的だよ」
「内進生は違うんですか?」
「こっちはセシルが一位」
言い切った。
迷いなくはっきりと断言した。
「レ、レイス様も頑張ってらっしゃるみたいですけど」
「でもセシルが一位」
すがすがしいほどまでに信じ切っている。
「絶対ですか?」
「絶対」
「根拠は?」
「名門デトアール家の威信を背負ってるから、……っていうのと、セシルは立ち向かってくる相手を屈服させて勝つことに快感を覚えるやつだから」
「あー……」
後半の理由は聞きたくなかったなー。前半だけなら格好良かったんだけどなー。
負けても負けても一番に執着して挑み続けるレイス君は格好の的じゃん。
ユーフェミア様も気に入られそー。
アイリスのことも気に入ってるみたいだけど、意外と負けず嫌いだったりして……。
「アイリス様も一位を狙ってるんですか?」
「まさか。作った薬を売る許可もらえる程度にしか頑張ってない」
なんだ。そうなのか。
お手製の薬を売りさばくっていう目的がはっきりしてるから、あえて一位狙う必要もないのかも。……薬を売りさばくって、なんかよろしくない想像をしてしまう表現だな。
そんなヤバイものは作ってないはず。
あ、魔術、薬、不思議な効果とくれば、あれは売ってないのかな。
定番の惚れ薬。
「惚れ薬も言えば作ってもらえるんですか?」
「え」
「好きな人ができたとき使いたいんですけど」
「……」
あ、あれ、何か考えこみだしたぞ。
「惚れ薬……、一位になってセシルに材料」
「アイリス様?」
「……レイスを実験体に……」
「アイリス様⁉」
「……あ、ごめん。惚れ薬なんて作ったことないから、どうかなと思って」
「そ、そうでしたか」
なんか、いらんことを言ってしまった気がする。
内進生の順位争いに余計な火種をまいた、なんてことなってないといいなと願いつつ、薬学室を後にする。
執筆時間の確保が難しくなってきたので、少し間が空きます。
6月中には復帰する予定です。これからもよろしくお願いします。




