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昨晩でだいぶ打ち解けたらしい二人は今日も一緒に出ていった。
ユーフェミア様が友達と一緒に出ていく姿を見られるなんてミラは感激です。ナタリーさんじゃないけど涙流して壁を叩きたい。
二日目ということで、昨日はのんびり買い物していた外進生たちも今日はぼちぼち魔物退治に挑戦するらしい。それは別に魔術師見習いとしての訓練を意識してのことではなく、セシルに褒められたくてのことだそうで。
人気者だねえ。
当の本人は「男にモテてもうれしくない」と言っていたけど。
おかげでアイリスとレイス君は、男が優勝するのだけは絶対阻止しろという命令を今日も遂行しに行っている。レイス君の優勝はいいのか訊いたら、「レイスは僕のこと好きじゃないからね」と返された。
でもさあ、「かわいいって言われるの好き。ちやほやされるの大好き。でも僕を好きになる男は嫌い」って、ちょっとどうかと思うよね。
今日は女の子の頭なでたいそうだけど、レイス君負けず嫌いだから今日もレイス君の頭をなでることになると思うな。水増し要因に負けず嫌い一号のユーフェミア様もいることだし。
退治した数は自己申告制なんだから、そんな真面目にしなくてもって思っちゃう私は心が汚い?
ま、ユーフェミア様が楽しそうならなんでもいいんだけど。
さてさて見送りも終わったことだし、今日は留守番中何してようか。授業と授業の合間ごとにユーフェミア様と会える学園生活と違って暇な時間が多いんだよね。
他人の心配する前に、私も仲いい人つくっとかないとだな。
生徒とは時間をずらして朝食をとる付き人さんも多いみたいだから、生徒が出ていった今の時間に食堂に行けば知り合いたくさん作れるかも。
と思って食堂に来てみたら、幼馴染が両手に女の子を侍らせていた。
「えー、それって僕より?」
「マジだって」
「ふーん」
いや、片方はセシルだから女侍らせてるわけではなかった。でももう片方は本当に女の子で、親睦会で会ったウェンディだ。
宿泊学習中の生徒捕まえて何してんだか。
北橋たちのところへ行き、声をかける。
「おはようございます、セシル様、ウェンディ様」
「おはよう」
「おはようございます」
私が挨拶をすると二人はそれぞれ返してくれた。なんか見られてるような気がしたけど、気のせいかな。
朝食時に顔を合わせた北橋は、見送りご苦労とばかりに私に話しかける。
「三浦も一緒に話そうぜ」
「いいけど、何話してたの?」
「三浦のこと」
「いい話? 悪い話?」
「普通の話」
じゃあ顔の話だな。
自慢じゃないけど境遇は割と非凡な自覚がある。
「それより、なんで北橋がお二人と一緒なの?」
「気にならねーの、どんな話してたか?」
「聞いてほしいの? 変な話じゃないなら気にしないよ」
いい話ならぜひお聞かせ願いたいし、悪い話なら逆に言ってみろって感じだけど、普通の話なら別に聞かなくてもいいかな。聞かれても困らないような当たり障りのない話なんだろうし。
そこんところは幼馴染君を信用してる。
「ふーん……。じゃあ今度はウェンディの悩み相談な」
「えっ、ウェンディ様、何かお困りごとがあるんですか!」
それは大変。
よく見たらなんだか元気なさそう。
「悩みってほどじゃないんですよ。ただ……テーブルマナーがわからなくて、でもクラスの友達に馴染めるようお嬢様を装った手前今更庶民ですと言い出すこともできなくて、今もこうしてぼろが出ないよう人がいなくなってから食事に来たんですけど、私がいない間クラスの子たちはどんな話をしているんだろうと不安になってしまって」
「十分悩んでいらっしゃいます」
そういえば地元の幼年学校出身って言ってたっけ。
元気なさそうな一因はお腹すいてるからってのもありそうだけど、人間関係で思いつめちゃってるなあ。
「僕は気にすることないと思うけど。仮病使って朝食時間ずらせるふてぶてしさがあるなら他の人にもそれを発揮すればいいんだよ」
「ふ、ふてぶてしい……」
ああっ、セシルの言葉でもっと落ち込んじゃった。
ウェンディは空気読んで周りに合わせられる子だから、周りが合わせてくれるセシルとは違うんだよ。
北橋はともかくセシルは相談相手には向いてないんじゃ……?
「セシル様も仮病ですか?」
「そうだよ。魔物退治に行ってもよかったんだけど僕が一番になって『僕すごい、さすが僕』って自分で自分をほめたたえるのってちょっとどうかと思ってね」
「そうですね」
一番になること前提のその態度もどうかと思うけど。
「私もそれだけ自信があったら……」
ウェンディがぽつりとつぶやく。
「ソウタさんのお話もセシルさんのお話も自信にあふれてるです。ミラさんもそうです。自分がいないところで自分の話されてるなんて私なら耐えられません」
「あ、私の場合は北橋を信用してるというか」
「私は友人を信用できていないんでしょうか」
「え、そういう意味じゃ……」
人を慰めるのって難しい。
「あの、テーブルマナーでしたら、ユーフェミア様に教えてもらいましょう」
「ユ、ユーフェミアさんに、ですか……?」
怯えた顔された。ダメ?
北橋に肩をポンと叩かれる。
「ユーフェミアサマは気が強すぎる。もっと話しやすいところからいかないと」
「っていうか、重要なのはテーブルマナーじゃなくて友達と合わせられるかどうかでしょ」
セシルにまで呆れられてしまう。
ウェンディが悩んでる箇所はちゃんとわかってるけど、なんて声かけたらいいかわからないんだもん。
セシルは興味なさそうにしながらも、放り出すつもりはないようだ。
「君の友達は生まれで人を判断するような人たちなの?」
「そんなことないですっ! みんないい人たちなんです。多分、私が深く考えすぎてるだけで」
「じゃあ浅く考えなよ」
「それができたら苦労しません……。どうしたらセシルさんみたいに浅く太く生きられますか?」
「けんか売ってる?」
「あう、すみません」
「まーまー、二人とも」
北橋が二人の間を取り持つ。
「とりあえずいつ友達に本当のこと言うか決めようぜ」
「い、言わないといけませんか?」
「言わない?」
「今更嘘でしたというのは怖くて。できれば卒業までごまかせたら、と」
「僕はお勧めしない」
セシルが言う。
「僕らは卒業したらサヨナラの関係じゃないんだ。魔術師として生きてくなら絶対どこかでつながる。そのとき嘘がバレるより今ばらしたほうがいいよ。ずっとつき続けられる自信があるなら別だけどね」
「それは……」
「じゃあ早いうちに言ったほうがいい。いっとくけど、魔術師の関係って本当に根深いよ、特にアザンツ学園なら。魔術署の上層部なんてほぼアザンツ学園出身だし、学校行事で親が集まると同窓会状態なんだから。しかも、誰々さんが来てないけどどうしたんだろう、あそこの子供は入学してないよ、みたいな会話ばっかり」
ヤダヤダと、煩わしそうにする。
そんな話、されたほうはいい思いしない。例えば、アザンツ学園幼等科に入学できなかったレイズコットさん家のユーフェミア様とか。
アザンツ学園にこだわっていたのは、陰で話す人たちを見返す意味もあったのかもしれない。
「ユーフェミア様も噂されたことあるのでしょうか?」
「ん? んー、まあ、あそこも代々アザンツ学園の生徒だからね。ユーフェミアと会ったことはなかったけど、話くらいは聞いてたよ。ま、あそこは事情があったから表立って話に出す人は少なかったけど」
「事情とは?」
「入試直前に母親が亡くなったんだよ」
ウェンディの息をのむ声が聞こえた。
「ま、そんな感じだから、今日にでもいうことをお勧めするよ」
「はい……、……きょ、今日ですか!」
セシルの言葉を聞きしおらしくうなずいたウェンディはバッと顔を上げる。
「さすがにそれは」
「僕、うじうじしたの嫌いなんだよ」
ついに本音が出た。
「ミラとソウタもついてくってさ」
「え!」
「俺たちも⁉」
二人同時に声を上げる。
いや、だめってわけではないよ、心情的には。
ただ、校則的にダメなんだよ。
「授業中ってことだから俺らは外について行けないぜ」
「皆様が戻ってくるまで待ちますか?」
「今すぐ行く」
セシルの意志は固い。ウェンディよりも。
ていうか無理だっていうのに。
どうするつもりなのか眉を顰める私たちを見て、セシルがニッと笑う。
「僕は、成績優秀な内進生代表のセシル・デトアール様だよ。成績に応じて多少の無茶が許されるこの学園で、僕以上に無茶できる奴なんていない。付き人二人連れ出すぐらいわけないね」
堂々と、胸を張って、そう宣言する。
そういえばこの学園、一か月以上の休みを神様捕まえてチャラにした生徒がいたな。
何をすればどのくらいの無茶が許されるのかはわからないけど、それを今、ウェンディのために使うらしい。ウェンディのためか、自身のためか、それもわからないけど。
これで私たちの問題は解決したわけだ。
三人で、ウェンディを見る。
「っ……」
『天使』の言葉に逃げ場がないことを悟ったウェンディは、胸の前でグッとこぶしを握った。
「────やります!」




