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自由時間終了後、二百人以上が一斉に会する広間の真ん前でセシルがレイス君を褒め称えていた。
「お疲れ、よく頑張ったね。明日もこの調子でたくさん魔物倒してね」
「ありがとうございます」
片膝ついて頭を差し出すレイス君。
レイス君の頭をなでるセシル。
うらやましそうに見ている内進生たち。
一番魔物を倒した人がセシルに褒めてもらえるという例のお遊び企画はレイス君が優勝したらしい。
明日もあるんだって、頑張れレイス君。
内進生たちの視線とは裏腹にレイス君はたいしてうれしそうなそぶりも見せず席に戻って行く。
あとは先生による諸注意があって食事の時間となり、各々自由に食堂に向かう。
特に何もしてないけれどお腹はすいてるので早速ユーフェミア様たちと食堂に受かってるんだけど、なんだろ、なんだかやけに視線が集まっているような……。
何か目立つものでもあるのかな────。
いたわ、ショウだ。
王子が歩いてりゃ、そりゃ見ますわな。
私と北橋が一緒にいる関係でショウも一緒にいることが多いけど、そもそも授業時間外で北橋といる必要はないのでは? ユーフェミア様に味方がいない現状、ショウを近くに置いておくと都合がいいという打算もあって何も言えないけど。
この二人、本当に中悪いからなあ。
まずユーフェミア様がショウを毛嫌いしている。
そんでもって、ショウもわかっていながらあえて一緒にいるというレベルの高い仕返しをする。
ユーフェミア様がいらだちを募らせ、ショウに悪態をつく。
以下悪循環。
離しておくか、間にハワードを置くかしないとだめだな。
ハワードは呼び出せないので、離しておくしかない。
「ユーフェミア様、今日の校外学習はいかがでしたか?」
「別に。買い物して、魔物を退治しただけよ。学校で新しい術の一つでも学んでいたほうがよほど有意義だったわ」
「ユーフェミア様も魔物退治されてたんですね」
「レイスに協力するように言われてね。レイスの討伐数には私たちの分も含まれてるわ」
なんだよレイス君、水増しかよ。
セシルに一番になれって言われたからって必死だなあ────って、待って、私、たち?
「もももしかして、ショウ王子と一緒に行動されてたんですか?」
尋ねる声が少し震えてしまう。
「一緒じゃないわよ! たまたま、偶然、やることが同じだっただけ! 私が一緒にいたのはナタリーよ」
「びっくりしました。ナタリー様と一緒だったんですね」
ユーフェミア様が改心したのかと思って驚いちゃったよ。ユーフェミア様の根性はそう簡単には直りませんよね。
「ナタリー様とは、ユーフェミア様が誘われたんですか?」
「いいえ、向こうからよ」
入学式の日、教室に入れず困っていた女子生徒を思い出す。
たびたびこっちを見てくるなとは思ってたけど、ユーフェミア様を誘ってくれるなんて感謝感激だ。
本格的に友達になってくれると嬉しいんだけどな。
「せっかくですし、ナタリー様と一緒に食べましょう」
「いいんじゃない、別に。呼んできなさいな」
「いやだなあ、ユーフェミア様が行かないと意味ないじゃないですか」
ユーフェミア様ったら、面白いこと言うんだから。友達になるのはユーフェミア様なんですよ。
あ、眉間にしわ寄ってる。
照れてるんだ。
そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。でも緊張してしまいますよね。
仕方ありません。不肖このミラ・ヴェスタが背中を押して差し上げましょう、────物理的に。
「ささ、ナタリー様はまだ講堂と思われます。戻りましょう」
ぐいぐい押し出す。
「ちょっと」
「大丈夫です、ユーフェミア様ならきっとできます。では、行ってらしゃいませ」
背に向かって手を振り見送る。
ユーフェミア様は何か言いたげな顔をしていたけど、しぶしぶ歩き出した。
がんばってくださいね、ユーフェミア様。
満足する私に、横から声がかかる。
「三浦、強いな」
北橋に褒められた。
「何よ、急に、照れるじゃない」
「正直、ユーフェミアサマに友達なんて無理だと思ってたんだけど、お前本気だったんだな」
「当たり前でしょ」
別に、突き詰めていけば友達出来なくても生存ルートは確保できるよ。手段はいっぱいあるし。
でもどうせなら幸せな人生歩んでほしいじゃん。
友達いっぱいのほうが楽しい。
「ミラはハワードはと同じ考えなんだな」
ショウが言う。
え、何? 私がハワードと同じ? つまりユーフェミア様に愛されてるってこと?
「ま、ユーフェミアがいいというならいいんじゃないか」
「はあ……」
詳しく聞く前に話を打ち切られてしまった。
何が言いたかったんだろ。
「あー、ユーフェミアサマが女子連れてくるなら、俺ら邪魔?」
北橋が意外な気遣いをみせる。
あんまり気にしたことなかったけど、よく見たら周りは男同士、女同士で集まってるし、ナタリーさんも女だけのほうが落ち着くかも。
あと、全然関係ないけど、北橋の様づけは無理してる感満載だ。
北橋にはともかくショウ相手に「そうだね、邪魔だね」なんて茶化せないな。お言葉に甘えるていでいこう。
「じゃあせっかくだし、今日は女子だけで楽しくさせてもらおうかな。そっちも────」
ヤバッ! そっちは友達いないメンツだ。
「おいっ、今、失礼なこと考えてんだろ」
ヤバヤバッ! 北橋にばれた。
北橋はショウの斜め前に立ち、ババンとショウを指し示す。
「ここにおわすお方のご友人をどなたと心得る‼」
急な時代劇風。何がしたいんだ、こいつ。日本が恋しいのかな。
で、ショウの友人?
「ハワード様?」
それ以外知らない。あ、北橋本人か。セシルやレイス君は……、どうだろ、話しかけたら応対してくれそうだけど、あの二人は、周りに人はいるけど友人はいないみたいな典型っぽいしな。
「そう、ハワード様だ」
最初ので正解だった。
それはそうと、ユーフェミア様の時より様付けが流暢だな。つけたいか、つけたくないかの差だったら怒るぞ。
「ハワード様が何?」
「あれは入学前のことだった。ショウと一緒にハワードの家に遊びに行った俺はふざけて『今度アザンツ学園初等科に入学する生徒の中に何人友達いますか』って尋ねたんだ」
「ハイハーイ。男ばっかり二十人ちょい」
ハワードからもらった紙にそのくらい名前書かれてた。
「残念! 男女合わせて四十三人だ」
「!」
ふ、増えてる。
一クラス分以上いるじゃん! 学年の五人に一人がハワードの友達とか怖っ。しかも男女合わせてって、女の知り合いがいるなんて聞いてないぞ。ここ一か月の間で新たに友達になったとかいいだんじゃないだろうな。
もう一種の怪談話な気がする。
「つまり、ハワードという共通の話題をもとに友達なんていくらでもつくれるんだよ!」
「なんという説得力……!」
「いや、まずユーフェミアと友人になれない時点で無理だな」
ショウ本人から冷静な否定が入る。
「アレが一番ハワードに詳しいだろう。だが、あれと友達なんて絶対嫌だ」
嫌、ときましたか。否定の仕方が力強すぎる。しかもアレに降格されたし。
北橋がポンポンとショウの肩をたたいた。
「ユーフェミアサマと友達なんて大概のやつがなれっこない。大丈夫。アレが特殊なだけでショウにはちゃんと友達出来るよ」
「おい。私の前で何て発言するんだ」
「友達か……」
ショウが私を見る。
「……無理だろ」
「諦めんなって。三浦、お前もなんか言ってやれ」
「えー……。────友達できますって! ショウ王子が笑いかけりゃ友達百人なんて余裕ですから。よっ、色男!」
ドンッ
「!」
北橋につられて調子乗っていたら大きな音が鳴った。
その場にいた全員がシンとし、音の出どころへと目を向ける。
「設定が、設定が……!」
そこには壁をたたきながら謎の言葉を発するナタリーさんがいた。
小柄で巻き毛の大人しめ女子、ナタリー・ネンウッドさん。
現在非常に取り乱していらっしゃいます。
「つれてきたわよ」
戻ってきたユーフェミア様が告げる。
「はい。さすがです。ユーフェミア様ならきっとできると思っておりました。────ところで、あの方は本当にナタリー様なのでしょうか」
ちょっと、いや、かなり様子がおかしいようなんですけど。
ユーフェミア様も困惑しているようで、ナタリーさんを遠巻きに見ながら答える。
「……さっきまでは普通だったのよ」
「急にこうなったと」
ナタリーさんは、目に涙、口元に笑みを浮かべをたたき続けている。
放っておくわけにもいかないこの状況。勇気を出して声をかけることにした。
「あの、ナタリー様……?」
「フフッ、フフフ────ハッ!」
ナタリーさんは我に返ったようで、慌てて姿勢を正し口元をぬぐう。よだれまでは出てないので大丈夫ですよ。
涙をぬぐうようハンカチを貸すとお礼を言われた。
「ありがとうございます」
「お加減はいかがですか?」
「だいぶ落ち着きました。すみません、お見苦しい姿を」
「いえ、少し驚いてしまいましたが。────何か原因があるのでしょうか?」
「原因……」
ナタリーさんは、視線をわずかに下に動かし静かに答える。
「────私、持病がありまして」
「持病……!」
「時々こうして発作が起きるのです」
「それは……。お辛いですね」
「不治の病なので楽しく付き合ってますわ」
微笑を浮かべて言う。
その儚げな姿にこっちが泣いてしまいそうだ。
ユーフェミア様も、深くは聞くなという顔をしているし、これ以上この話を続けるのはよそう。私ができるのは、ナタリーさんが少しでも落ち着いて暮らせるよう受け入れていくだけだ。
「では食堂に向かいましょうか」
五人で食堂へと向かう。
歩きながら、ナタリーさんは昼間のユーフェミア様の様子をいろいろ教えてくれた。ユーフェミア様が眉間にしわを寄せていくものだから、ナタリーさんは少し萎縮しているようだったけど、かまわず話を続けてもらう。
照れてるだけ、照れるだけ。
食堂には壁際にずらっと机が並んでおり、その上にこれまたずらっと料理が並んでいた。ここから好きな料理をとっていく方針だ。席は食堂の真ん中に用意されているので好きなところで食べていい。
「じゃ、俺ら向こうの席に行くから」
「ん、またね」
北橋たちと別れる。
「えっ」
離れていく男たちを見て、ナタリーさんから異論の声が上がった。
「みんなで食べるんじゃありませんの?」
「何か不満?」
ユーフェミア様が冷たい口調で封殺する。
あー、あー、ナタリーさん完全に委縮しちゃったよ。
通訳の出番ですね。
「ナタリー様。ユーフェミア様の言葉を翻訳しますね」
「翻訳?」
「はい。さきほどの言葉は『女子だけで食べようと思ったのですが、ショウ王子たちと一緒が良かったでしょうか?』とのことでした」
「は、はあ……」
疑ってますね。ちゃんと本当のことなんですよ。
「で、どうするの」
「『ショウ王子たちを呼びましょうか?』」
「い、いえ。みんなで食べるものだと思っていたので驚いただけです。不満なんてあるはずありませんわ」
「なら、さっさと行くわよ」
「『楽しみましょうね。ナタリー様は何がお好きですか』」
「私はあっさりしたものが。ユーフェミア様はいかがですか」
「好き嫌いはないわ」
「『好き嫌いはないです』」
ほら、本当でしょ。




