【他者視点】一方そのころ②
魔術が得意だった。
幼年学校入学前には簡単な術を出せてたし、幼年学校に入ってからも魔術の授業で常に一番だった。
だから将来絶対魔術師になると決め、全寮制のアザンツ学園に入学したわけだけど、
「自信なくすなあ……」
ウェンディ・ウォールズ、絶賛落ち込み中です。
自由時間になったからこうしてクラスの友達と歩いてるんだけど、行く先々で内進生が魔物退治してるのを見かけ、力の差を思い知らされる。
あー、あれ親睦会で一緒だったアイリスさんとレイスさんだ。
バンバン魔物倒してるよ、すごいなー。
あっちにいるのはショウ王子とユーフェミアさんだ。
うわー美男美女。絵になるー。
「どうかなさいましたか?」
ボーっと現実逃避をしていた私に友達が気づかわしげに尋ねてくるので、
「いえ、何もありませんわ」
と、首を横に振る。
……「何もありませんわ」だって。
うぅ、平民生まれ平民育ちの私が、お貴族様のマネしちゃってる。
だってこの学校お金持ちばっかりなんだもん。入学して、周りの育ちの良さに驚愕した。幼年学校の時みたいに気楽に過ごしてたら絶対浮いてしまう。
そんなの絶対に無理。
アザンツ学園は、生まれではなく魔術師としての素質を重視した校風ってことだけど、入学金や授業料で足切りあるし、奨学金がなかったら私も入れてない。
だいたいっ、王子がいたり付き人がいるようなお金持ちの子がいたり、本当に素質重視? 結局はお金じゃないの?
……違うの。外進生として一緒に入学したあの二人が将来有望な魔術師見習いだってことはちゃんと理解してるの。浮いてるんじゃないかって不安になってる私の、単なるひがみ。
ほら、今だってユーフェミアさんが魔物をぶっ飛ばした。やっぱり優秀だ。
アイリスさん、レイスさん、ユーフェミアさん、王子。
親睦会で一緒だった彼らがなんだか遠くに感じるよ。『天使』の笑顔にやられてしまった凡人の私とは格が違うんだ。
ハア。
心が死んでいく。
せめてありのままに話せる人が欲しい。こんなことなら無理にでもあの子を入学させとけばよかった。入学式直前に辞退なんて……。
ハア。
「あの、やはりお加減が悪いのでは?」
あ、友人たちを不安にさせてしまった。
「大丈夫ですわ。お気になさらずに」
「なら、いいのですけど」
「辛ければすぐ仰ってくださいな」
「ええ、ありがとうございます」
友人たちがとても優しい
ただこの優しさが、同じくらいの身分の人限定なんじゃないかって疑心暗鬼になる。
「あら? あれ、ショウ王子ではありません?」
いい感じに別の話に移った。
級友たちは魔物を倒す王子をうっとり眺める。
格好いいもんね、王子。早くも王子に告白した人がいるなんて話も聞いてる。玉砕したらしいけど。もう少し学園生活に慣れたら『天使』の存在も認知されて、王子派と『天使』派で女子の人気が二分したりして。
「ショウ王子の隣にいる方、どなたなのでしょうか」
級友の一人が王子に話しかける女子に目を向ける。
「ユーフェミアさんですね」
反射的に答えてしまった。
「ユーフェミアさん?」
「王子と同じクラスの方です。親睦会でお会いしました」
「まあ、そうでしたの……」
「とても仲がよさそうですわね……」
あ、今のは裏があった。
お嬢様たち、いつも余裕たっぷりでおっとしてるから私の心の狭さが目立つけど、そうじゃないときだってあるよね。
人の焦りを喜ぶ私を許して。
お詫びに二人の関係聞いてくるから。どうせ、たまたま会ったとかなんだろうけど。ユーフェミアさんは好きな人がいるというようなこと言ってたし。
「私、ちょっと挨拶してきますね」
「まあ、王子様に挨拶なんてさすがウェンディ様ですわね」
「私たちここで待ってますわ」
級友に見送られ王子たちの元へ行く。
……今のは含みないよね
でしゃばりすぎじゃないよね?
人の言葉にいちいち一人反省会をしてしまう。でも今更引き返せないし声かけなきゃ。
ちょうどアイリスさんとレイスさんも合流したから、まとめて挨拶することにした。
「こんにちは、皆様」
私が言うと、みんなも口々に返してくれる。
「魔物退治されてるの見ました。すごいですね」
「セシルに命令されて仕方なくね」
レイスさんが答える。隣でアイリスさんがため息をついた。
『天使』が自分で退治すればいいのに。人に魔物退治させて何の意味があるのかはわからないけど、この人たちは『天使』に逆らえないから仕方ない。
「ユーフェミアさんたちも『天使』さんに言われたのですか?」
「まさか。魔物がいたから退治してただけよ」
「店から出たら内進生が活躍してるのが見えてな。ユーフェミアの負けず嫌いが発動したんだ」
「そうだったんですね」
王子はユーフェミアさんのことよく知ってるんだ。
ユーフェミアさん、見るからにお嬢様だし社交の場とかで会ってたのかも。庶民にはよくわからないけど。
それと、今の王子の言い方だと二人でお店にいたように聞こえた。
「お二人は仲がいいんですね」
「ハアッ⁉」
思ったことをそのまま言ったら、ユーフェミアさんにすごい形相でにらまれた。
ユーフェミアさんはお嬢様だけどおっとりしてない。
「たまたま一緒にいてたまたま一緒に出てきただけ! なんでショウ王子と仲いいことになるのよ!」
「え、でも……」
「ウェンディ。あなた目が腐ってるんじゃないの」
「す、すみません……」
そんないい方しなくても。
話しかけるんじゃなかった。辛い。泣きそう。
「ユーフェミアさん、言い方気を付けないと友達なくすよ」
呆れたようにレイスさんが注意する。
「余計なお世話よ」
「ミラが心配するよ」
レイスさんのその一言で強気なユーフェミアさんが押し黙る。
よくわからないけどもう責められることはなさそう。レイスさんがいてくれて本当助かった。
「そんなことより、ちょっと魔物退治の件でお願いがあるんだけど」
えっ、そんなこと、なんだ……。
友達なくすって結構重要なことだと思うんだけど。
レイスさんもやっぱり私なんかとは違うんだ。
同意できる人が誰もいない。
レイスさんのお願いは私は関係なさそうだし級友たちのところに戻ろ。
みんなに一言告げてこの場を離れ、待っててくれた友人たちに謝る。
「すみません、お待たせしました」
「いいえ、お気になさらず」
「もういいのですか?」
「はい。皆様、魔物退治に行かれるそうで」
「では私たちは引き続きお買い物を楽しみましょう」
「────はいっ!」
魔術師学校の生徒としては間違ってるような気もするけど、人の輪に入れているからそれだけで十分。
私にとって重要なのは誰かと一緒にいることだから。
仲間に入れてくれる人たちのところでぬくぬくやっていこう。
こうしてのんびりおっとりすごしていけば、お嬢様言葉にだっていつかは慣れて、本当の仲間になれるハズ。
それまでの我慢だ。
歩きながら、友達の一人がポンと手をたたく。
「そういえばわたくし、屋台を発見しましたの。一度買い食いというものをしてみたいのですが、皆さんいかがでしょうか?」
「いいですわね」
「行ってみたいですわ」
「ウフフ、お父様にばれたらはしたないと怒られてしまいそう」
「寮生活の醍醐味というやつですわ」
すごい。発言に理解が追い付かない。
このお嬢様たち、買い物するのも初めてとかだったらどうしよう。その時には、私もわからないってあわせたほうがいいのかな、それとも買い物くらいはできるお嬢様を装ったほうがいいのかな。
どちらにしろ嘘なんだけど。
でも誰かと一緒の食事は久しぶり。
寮でも学校でも一人で食べてるから。
食事のマナーなんて知らなくて、食べ方で育ちがバレてしまうのが嫌で、常に一人になるより食事だけ一人になるほうを選んだ。
……あ、今晩の食事どうしよう。どこでいつ食べてもいい、とかならないかな。クラスごととかじゃないといいんだけど。
ハア。
嘘に嘘を重ねすぎて辛い。
我慢、しつづけられるかなあ。




