【他者視点】一方そのころ①
ユーフェミア・レイズコット様。
入学式の日、教室に入れず困っていた私を助けてくれた素敵なお方。眉目秀麗で、高名な魔術師一族のお嬢様で、近寄りがたい雰囲気がまた良いと早くも外進生の間で人気です。
ショウ王子。
言わずと知れた第二王子様。話しかけるのも恐れ多いので遠くから見ているだけですが、付き人様方とお話しされているとき不意に怜悧で美しい顔に笑顔がのぼるのがたまらなく魅力的です。
そんな二人とこんな近くにいるなんて、私は幸せ者です。
「ハワードにはこっちがいいんじゃないか?」
「お菓子? そんなものを贈って、感激のあまり食べなかったらもったいないではありませんか。ハワードには消え物よりも形に残るもののほうがいいに決まってます」
「だからといって魔物除けの石はつまらないだろう」
「ハワードは私からのものは何でも喜びますわ」
「自信過剰」
ああっ、二人が見つめあっています!
勇気を出してユーフェミア様にお声掛けしてよかった。
適当入ったお土産屋さんにショウ王子がいらして、一緒にお土産を選ぶことになるなんて。どなたに贈るのかはわかりませんが、このお二人が談笑しているのを見るだけで幸福です。
この気持ちを誰かと共有したくてたまりません!
たまたま近くにいた赤髪おさげの女子生徒様に話しかけます。
「ショウ王子とユーフェミア様、とてもお似合いですわよね」
「え? ああ、そうね」
お土産を選んでらしたおさげの女子生徒様は、顔を上げ、淡々とした表情でおっしゃいます。
「あんなに仲が良いなんて、お二人は付き合ってらっしゃるのかしら」
「仲が、良い……?」
「だとしたらとても素敵だわ」
「……そうね」
「同じ学び舎で過ごす美男美女のお二人。時には好敵手として時には恋人として切磋琢磨しあい愛を深め、高等科の卒業式で大々的に結婚宣言をなさるのですわ。その第一歩を見ているのかと思うと、もう、もう……、……あら、いやだわ、感動の涙が。これではお二人の姿が見えないではありませんか。私はお二人のことをこの目に焼き付けなければいけないというのに」
「ハンカチどうぞ」
「ありがとうございます。グスッ。でも先ほどからお二人が口にするハワード様とはどんな方なのでしょうか」
「聞いてきてあげる」
素敵ですわ。見かけによらず行動派なのですね。
女子生徒様はお二人に話しかけ、すぐ戻ってこられました。
「ユーフェミアの婚約者だって」
なんと!
ではお二人は恋仲ではないのでしょうか……?
ハッ! わかりましたわ。これは道ならぬ恋なのですね。
ユーフェミア様にはすでに親に決められた婚約者がいて、ショウ王子と結ばれることはない。せめて学生の間だけでも二人の時間を楽しもうという……。
なんて悲しく美しい恋物語なのでしょう。
きっと結婚式でショウ王子がユーフェミア様に優しく笑いかけ「幸せにな」と────、────いえ、「俺と幸せになろう」のほうが素敵じゃありません?
そうです、そっちのほうが素敵です!
結婚式当日、ショウ王子がユーフェミア様をさらうんですわ。
くぅ~、なんて素敵なんでしょう。
冷静なお二人の熱く燃え盛る恋。しかとこの目に焼き付けなければ。
「あとショウ王子の友達だって」
なななんと、ご友人!
そんな……。設定が変わってしまいます。二人の話が三角関係になってしまうではありませんか。
友情、恋愛。
どう決着をつけるのが一番素敵でしょうか。
「ねえ」
「は、はい!」
悶々と悩んでいると、ユーフェミア様に声をかけられてしまいました。
「あなたも婚約者に贈るのよね? 何にするの?」
そういえばそんな名目でお声掛けしたような……。正直なんでもいいのですけど。
「無難お菓子にしようかと」
「……そう」
あら、なんだか不満そうです。
「ユーフェミア様は何になさったんですか?」
「これよ」
ユーフェミア様の意志は固いようで、先ほどおっしゃていたとおり魔物除けの石でした。
「俺もこれを買おう」
ショウ王子が私と同じお菓子を二箱、手に取ります。
「ちょっと」
ユーフェミア様が肩をたたいてショウ王子を止めました。
「なんであなたのほうが多く渡そうとするんですか」
「これはミラたちの分だ」
「ミラ?」
ユーフェミア様の表情がさらに険しくなります。
ミラといいますと、ユーフェミア様の付き人ですよね? あの方は私の中でショウ王子の付き人様と甘酸っぱい幼馴染の恋をしていることになっているのですけど、どうなさったのでしょう。
「留守番をしているあいつらにお土産だ」
「ご自身の付き人だけにしたらいかが」
「付き人じゃなく友人に贈るんだよ」
「……私、ミラと仲良くなっていいなんて許可した覚えはないのだけれど?」
こ、これは……。
「俺がお前に許しをもらわなければならない立場だったとは驚きだな」
「うちの使用人と不用意に接触してほしくないわ」
これはまさかの、身分差恋愛!
ショウ王子のお相手はユーフェミア様ではなく付き人のミラさんだったのですわ。
王子と使用人。立場など関係なくただ純粋に相手に惹かれゆくお二人ですが、ひそかにショウ王子をお慕いするユーフェミア様の妨害が入ります。そこでハワード様に相談してユーフェミア様を説得してもらい、二人は結ばれるのです。
……。
…………。
これは、あまり、素敵じゃありませんわね。
ユーフェミア様がただの悪役で終わってしまうのが気に入りません。
もっとみんなが幸せになるような話が素敵なのですけど……。
そうだわ、冷たく見えるけど実はいい人だったということにすればいいのです。
冷たく接する理由は……、二人の愛を試していたとか、まあ、そんな感じでいいでしょう。
試練に打ち勝ち(?)共に暮らす二人のもとに、ある日差出人不明の荷物が届きます。中には「結婚おめでとう」の手紙と、お菓子が。
首をかしげるミラさん。ショウ王子はミラさんの肩を抱きながら、ふと思い出します。
かつてミラさんに贈ろうとして結局贈れなかった菓子のことを。
そして気づきます。
これは素直じゃない彼女からのお詫びとお祝いなのだと────。
うん。この路線でいきましょう。
ハア、世の中素敵な物語がいっぱいで、私、幸せですわ。
きっとこちらの女子生徒様にも素敵な物語が────。
「アイリス!」
「ゲッ、レイス……」
「セシルの命令無視して逃げやがって。行くぞ」
「はいはい。──じゃあ、また」
女子生徒様は無表情のまま私たちに手を振って、男子生徒様とお店を後にします。
やはり女子生徒様にも素敵な恋物語があったんですね。情報が少なく想像しづらいのですが、強引な男子生徒様に迫られているというところでしょうか。
強引な殿方も嫌いじゃありませんわよ。……物語の中でなら。
物語は物語。
そこをきっちり分けてるからこそ楽しいんですわ。
あとはこのお話を楽しんで聞いていただける方がいると素敵なのですけど……。
しばらくは私の胸に秘めておくだけになりそうですわね。




