【おまけ】レイス君とお出かけ その1
時系列前後します。8話と9話の間の話です。
年が明けてそろそろ一か月が経とうかというある日の夕刻。
仕事が終わった私にユーフェミア様が声をかけてきた。
「これ、あなた宛てよ」
「私にですか?」
白い封筒を受け取りつつ、首をかしげる。
誰からだろう? 手紙を出してくるような知り合いはいないはずだけど。
封筒の表面には私の名前、くるりと裏返せば送り主の名前が書いてあった。
「ああ!」
名前を見て合点がいく。
私がここで働いているのを知っていて、かつ、私に手紙を送るような人はこの人ぐらいだろう。
レイス・コンティノー。
整った字でそう書いてあった。
「ハワード経由で届けられたわ。明日朝からハワードが返事を受け取りに来るそうだから用意しておきなさい」
ユーフェミア様はそれだけ言うと自室へ戻られた。
私は開封してその場で手紙を読む。
『ミラ・ヴェスタ様へ
久しぶり。元気? 俺は元気だよ。
この間話してた俺の姉さんお店に一緒に行きたいと思うので都合のいい日を教えてください。
レイス・コンティノー』
『レイス・コンティノー様へ。
ご無沙汰しております。おかげさまで日々健やかに過ごしております。レイス様もお変わりないようで喜ばしい限りです。
さて、私の休日の件ですが一番近くて藍の月三日となっております。
レイス様の冬期休暇に合わせて今月中にと思ったのですが、都合がつけられず申し訳ありません。またお誘いください。
ミラ・ヴェスタ』
『ミラへ
あと一週間休めることになったから藍の月三日会えそうなんだけど、どう?』
『レイス・コンティノー様へ。
それでしたらご一緒させてください。
ミラ・ヴェスタ』
『じゃあ十一時に噴水広場で待ち合わせよう。楽しみにしてる』
かろうじて便箋を使っているが、ほぼ走り書きのメモのような紙切れ一枚をハワードから受け取る。
「返信は不要だって」
ハワードはようやく終わったとばかりに胸をなでおろした。
今朝私の返事を取りに来たハワードはそのままレイス君の家にって、また屋敷まで来て、またレイス君家に行って、また屋敷に来てを繰り返していた。
同じ王都内でも出してから届くまでに二日はかかる国営の郵便局じゃ何日かかるかわからないやり取りをたった一日でやってくれたんだからありがたいことだ。
「ありがとうございます、ハワード様」
「いいよ、これくらい」
「まったく、ハワードはいつ伝書係になったのかしら」
ユーフェミア様が不機嫌な顔でレイス君からの手紙をにらみつける。
そうだよね、婚約者が使いっ走りなんて面白くないよね。
まあ、レイス君がこっち来るか私がレイス君のところに行くかすればパパッと終わったやり取りを、アザンツ学園の生徒が来るのも嫌だし自分の使用人がアザンツ学園の生徒のところに行くのも嫌という理由でユーフェミア様が反対したからこんな七面倒な方法になったんだけどね。
でも、謝っておく。
「すみません、ユーフェミア様」
「フンッ、どうせ遊びに行けないのに何通もご苦労なことだわ」
「あ、それが行けるようになりました」
「ハアッ⁉」
ユーフェミア様が目をむく。
「なんでよっ!」
「あと一週間休めることになったそうで」
「なんでなのよっ!」
そんなこと言われましても……。
「ユーフェミア様のように卒業単位をすでに取られたとかでしょうか?」
「アザンツ学園はその制度を導入してないわ」
「ハワード様のように校舎が壊れたのでは?」
「だったらもっと騒ぎになってるはずよ」
うーん、となると考えられるのは……。
「ずる休み」
私が頭に思い浮かべたのとまったく同じ言葉を、ハワードがポツリつぶやいた。
一瞬の気まずい沈黙。
私とハワードはすぐさまごまかすように笑いあう。
「もー、ハワード様ったら、そんなことあるはずないじゃないですかー」
「そうだよなー。ミラと会うために休むなんてなー」
「ウフフフフ」
「アハハハハ」
「実際どうなのかしらね」
「……」
ユーフェミア様の凍てつくような声で再び辺りがしんとする。
実際、どうなんだろう。私が知りたい。
もしかして本当に私と会うためだけにずる休みするんじゃないだろうね、レイス君。
そんなことされると、なんて言いますか、あの、その、すっごく、すぅっごく────────気まずい。
え、だってお姉さんとこのお店紹介するだけだよね。
また次の休暇のときでいいじゃん。
春にもまとまった休みあるじゃん。
なのに休み延長って……。
ホントやめてください。
私の主はアザンツ学園に入りたくても入れなかった人なんです。アザンツ学園に入ってる人があっさりずる休みなんてするとブチ切れる人なんです。
「ミラ。そいつを二度と学校に行けない体にしてきなさい」
ほらあ……。




