【おまけ】レイス君とお出かけ その2
いや、しないよ。
いくら私がユーフェミア様至上主義とはいえ、暴力行為はちょっとね。
「ゴメン、待たせた」
「いえ、私も今来たところです」
普通にレイス君と合流する。
私はユーフェミア様から頂いた服。レイス君は制服を着ていた。
「その恰好はアザンツ学園の制服ですか?」
「そ。ちゃんと着てないとダメみたいでさ」
「?」
休日も制服着用が義務付けられてるとか、そういう話?
「ま、気にしないで。さっさと行こう。あ、今日の格好かわいいね」
「はあ」
レイス君に背中を押されて出発する。
今、確実にごまかしたな。ユーフェミア様が選んでくださったドレスだから、かわいい恰好というのは全面同意だけど。ユーフェミア様は服飾センスも最高だ。
噴水広場を出た私たちは、人の多い大通りとは逆のほうを歩く。
「レイス様のお姉様のお店はどんな感じのお店なんですか?」
「んー。小ぢんまりしてて地元民御用達って感じの店。大通りの有名店に比べたら劣るけど、本人たちは楽しそうにやってるよ」
「レイス様はよく行かれるんですか」
「学校が休みのときたまにね。定期的に顔見せないと心配されるから」
「仲がいいんですね」
結婚して子供もいるって話だから、お姉さんとは十以上違うのかな。私は弟妹と年が近いからわからないけど、年の離れた弟はかわいいのかも。
レイス君はポリポリと頬をかく。
「そういうのとはちょっと違うんだけど……」
「?」
よくわからなかったけど、レイス君はその話を続けたくなかったようですぐに話題を変える。
主にアザンツ学園の話。
これがまた結構楽しい。
『花咲く国のティナ』は巻を追うごとに話の規模が大きくなって舞台も国中のあちこちになるけど、私は五巻くらいまでのアザンツ学園編も好きだったわけで、『花咲く国のティナ』じゃ見られなかった学園行事のことを聞くとなんかわくわくする。
「初等科からは召喚術の授業も始まるんだ」
「へー」
「学園に俺と同い年でもう精霊召喚しちゃうすごい奴がいてさ、悔しいから俺も早く本格的に召喚術学びたいんだ」
「ああ、ショウ王子ですね」
将来的にはそのすごい奴に、主人公のティナも加わるんだろう。
ティナが召喚するのは高位の精霊ばかりでそのうち神様までも召喚しちゃうんだけど、実はその神様が伏線でティナの正体は実は……、みたいな話もあるんだ。
「ショウ王子?」
ん? なんでそんな不思議そうな顔するの?
ティナはまだ入学してないからショウでしょ、……と思ったけど、別の人の可能性もあるのか。この年でもうそんなに強い人がゴロゴロいるなんて、そりゃユーフェミア様が嫉妬するほど憧れるわけだ。
ユーフェミア様、学園でうまくやってけるかなあ……。
おそばにいたいんだけど、私がアザンツ学園に入学なんて無理だし。
帰ったら、アザンツ学園のこともっとちゃんと調べてみよう。
「あ、ついた。ここだよ」
レイス君は店の前に立ち、私に笑いかける。
店に入ると、カランカランと来客を告げる鐘が鳴った。店内は確かに広くはないけれど、配置のおかげか狭いという感じもない。
レイス君はカウンターにいる男の人に話しかける。
「こんにちは、義兄さん」
「やあ、いらっしゃい、レイス君」
温厚そうな細身の男性がレイス君を歓迎する。
「その子はお友達」
「うん。ミラっていって、最近知り合ったんだ」
「そうか。レイス君が楽しくやってるようでよかった」
「姉さん、いないの?」
「マーガレットなら子供たちと散歩中だよ」
「なんだ、残念。だったら姉さんに伝えておいて。────俺はこの通りちゃんとまともに過ごしてるって」
今、何か含みがあるように聞こえたけど、気のせいかな。
「わかった。伝えておくよ。それより何か買っていかない?」
レイス君のお義兄さんはさらりと流して、商売を始める。この調子ならさっきのレイス君の発言は私の思い過ごしか。
レイス君が私に尋ねる。
「ミラは何が好き?」
「甘いものは何でも好きです」
チョコもケーキもクッキーも全部好き。甘ければ甘いほど良い。
「ハハ。なんか俺のペットみたいなこと言ってる」
「ペットですか」
「そ。かわいいよ」
「そのペット喋るんですか?」
「あ……」
私の質問にレイス君は一瞬しまったって顔をした。
「レイス君は召喚術が得意でね、モフモフのかわいい妖精をいっぱい召喚できるんだよ」
お義兄さんが笑顔で言う。
「え、そうなんですか!」
さっき、そんなこと言ってなかったのに。
あ、いや、謙遜して言わなかっただけで、本格的にってことは多少なりともしたことがあるってことか。そういうの気づけないからババーンと自慢してくれると助かる。
「なんでもいいなら俺のオススメにするから」
レイス君は陳列してある商品を指していき、箱に詰めてもらう。
あれとこれとそれとどれも頼んでいっった結果、五個入りクッキー六袋、チョコ三袋、ショートケーキ八種、タルト二種、飴一袋という量になった。しかも同じ内容のものをもう一回頼む始末。
豪気というか、ちょっとすごすぎない? そこまで持ち合わせないんだけど。
財布を取り出し、どう考えても足りないお金も頭を悩ませる。
「いいって、俺が出すから。魔物討伐依頼とか受けて結構稼いでんだよ」
頼もしい言葉とともにお金がぎっしり詰まった袋をドンとカウンターの上に置く。
「ですが────」
「いいから。誘ったの俺なんだし、格好つけさせて」
「でしたら、お言葉に甘えて。でもこれ、どうやって持ち帰るのでしょうか?」
「そこも俺に任せてよ」
レイス君は制服のポケットから小さな箱を取り出した。パカッとふたを開けるとポンッと何かが飛びだす。
「荷物はこれですか?」
かわいらしい声でそう尋ねたのは、スラッとしたきれいな猫。普通の猫と違うとすれば喋ってることとしっぽが二股に分かれてるところだ。
これがさっき言ってた妖精かな。
きれいな毛並みの妖精猫はレイス君の肩に乗っかり、荷物を見る。
「頼んだぞ、リジー」
レイス君が言うと妖精猫はしっぽを振り、くるりと空中で一回転した。
それと一緒に荷物も姿を消す。
「ありがとう。お菓子少しなら食べていいぞ」
妖精猫はお菓子という言葉に喜色満面の笑みを浮かべ、鼻息荒く箱の中へ戻っていった。
「今のが、召喚術ですね!」
「うん。俺の場合、契約した妖精をこの中から呼び出せるようにしてるんだ」
「へー、箱の中はどうなってるんですか」
「中は異空間。入ったら出られないよ」
ふたを閉め、覗き込もうとする私を遮る。
「他にもいるから見てみる?」
「ぜひ!」
「じゃあ場所変えようか。いいところ知ってるんだ」
レイス君は箱をポケットにしまい、お義兄さんのほうを向く。
「じゃあ、義兄さんまたね。姉さんによろしく」
「うん、また。ミラちゃんもまたおいで」
「はい。お邪魔しました」
店を出て向かうは、王都が一望できるというレイス君おすすめの高台。
「でも、まだ召喚術を習っていないのにすごいですね」
「俺、負けず嫌いなんだよ」
あー、ユーフェミア様のけんかもあっさり買ってましたもんね。さらにたたき売りしてたし。
学校行ってない割に優秀なのはユーフェミア様に通じるところがあるな。
ユーフェミア様といえば……。
「あの、急に休みが取れたとのことでしたけど、どうやってとったんですか?」
ずる休みじゃないということだけでも聞きだしておかねば。
レイス君はこともなげにあっさり教えてくれる。
「うちの学校、結構緩いとこあって学外活動申請出せば授業でなくてもよくなるんだよ」
学外活動の猛者になると学期ごと一度申請をだしにだけ登校する、という情報まで付け加えてくれた。
「あ、緩いっていってもちゃんと活動した内容の報告は求められるから」
そりゃそうだろ。じゃないと休みたい放題になってしまう。
「レイス様はどんな内容を報告される予定なんですか?」
「秘密」
そこで秘密て。
休み中に女の子と王都で一緒に出掛けてたって匿名で学校に告げ口しちゃうぞー。
……。よく考えたらそうだよね。今、男女二人だけで出歩いてるんだよね。
え、これってあれじゃない。
デートみたい。
……なんて、アッハッハー。そんなわけないんだけどね!
変に意識するとバカを見るぞ、私。うぬぼれるな。落ち着いていけっ。……でも、わざわざ申請だしたのは今日のためだよね。
「あ、あの、レイス様」
「ん?」
「つかぬことをお聞きしますが、レイス様が申請とられたのは今日のためですよね?」
「そうだよ」
「ど、どうしてそこまでされたのでしょうか? たかが私と出かけるためだけに」
「え、姉さんに客連れて来いって言われてるから」
……でっすよねー。そうに決まってるよねー。ハー、だからうぬぼれるなって言い聞かせたのに、私ってやつは。
変に思われないよう顔に笑顔張り付けて「やっぱり家族仲良いではありませんか」なんてごまかす。
「それと」
「はい?」
「ミラに会いたかった」
……フ、フォォオオ!
レイス君、不意打ちっ! 耐性ないんだから直球ど真ん中は受け止めきれずに吹っ飛んでしまうって!
「も、もー、レイス様ったら。そういうこと気軽に言わないほうがいいですよ」
「そうだな。こんな恥ずかしいセリフ生れて始めて言ったから、何か照れるな」
フア、ファァアア!
ちょっぴり顔赤くして困り顔で笑うレイス君に、こっちが照れてしまうよ。
マジか、ついに青春しちゃうのか。
ついに春が来ちゃうのか。
ついに恋しちゃうのか!
なんて、ま、そんなことあるわけないよね。
火あぶりの刑よろしく背の高い木に括りつけられた私は、先ほどまでのことを反省する。




