ナンターク伯爵の三男、ハワード・アストロワ 後編
ショウとの一件以来なんとなくミラを意識的に見てるけど、良くも悪くも印象は変わらない。
「この間レイスとはどうだった?」
と、話を振ってみれば、
「楽しかったです。素敵なお店を紹介してもらってレイス様には感謝しています」
と、無難に返す。
「魔術の訓練はどう?」
と、尋ねれば、
「きついこともありますが、ユーフェミア様のおかげで頑張れています」
と、やっぱり無難に返す。
ユーフェミアの話を振るとちょっと盛り上がるけど、それ以外は普通。ま、最初の印象と変わらないってことはユーフェミアへの好意に裏表無いってことだしいいことだよな。
「あ、ハワード様に一つ聞いておきたいことがあったのですが」
お、向こうから話題を振ってきた。
「何?」
「ユーフェミア様が領地を持つ可能性ってあるのでしょうか」
「領地?」
急な質問だな。
領地を持つ主人に仕えたいとかいう野心的な発想か? ユーフェミアへのあの好意の示し方はそんな感じじゃなかったけどなあ。
質問にはちゃんと答えておく。
「多分ないと思う。レイズコット家は領地持ってないし、俺も実家の領地継ぐ予定はないし」
「ですよね」
俺の説明に一応うなずくけど、まだ納得いってないっていう表情だ。
「ちなみにですよ、あの、ス、ス、スウォルト? スウォルトってどの方が治めてますか?」
「スウォルト?」
「東部にある田舎です」
「東部の……、あっ、わかった、スーダウェルトだ」
「そうですっ、それです!」
ミラはパンと手を合わせ、すっきりしたという表情をする。
「スーダウェルト子爵領なら昨年当主が亡くなられてご子息が後を継がれたはずだ。といってもご子息は俺たちより三つ下でまだ難しいことも多いだろうから、実務は母親か親族が行ってるんじゃないかな」
「なるほど、じゃあユーフェミア様はその領地で……」
「ユーフェミアが何?」
「あ、いえ、なんでもありません。教えていただきありがとうございました」
ミラはごまかすように頭を下げる。
ユーフェミアがスーダウェルトを治める可能性でもあるっていうんだろうか。え、その場合俺との婚約が解消されてユーフェミアと子供子爵が結婚ってことだよな。
それは困る。
「ミラ、俺も聞いていいか?」
「なんでしょうか?」
「ユーフェミアは領地を欲しがってるのか?」
レイズコット家は領地を持っていないけれど、多分、領地持ちのスーダウェルト子爵家より裕福だ。ユーフェミアも領民とふれあいより良い領地経営していくより、ひたすら魔物をなぎ倒して報酬をもらうほうが性に合ってると思うから、特にこだわりはないと思っていたんだけど。
単純に爵位が格好いいからか?
義姉は伯爵夫人と呼ばれたいなんて少し変わった理由で長兄との結婚を決めたし、ユーフェミアもそうなのかな。
ミラは少し考え、首を横に振る。
「そんなことはないと思いますよ」
「ならいいけど」
「それにユーフェミア様に領地持たせたら大変なことになり────あ、いえ、何でもないです。それでは私はこれで」
手を口元に当て目をきょろきょろ泳がせながらそそくさ退散しようとするミラを、
「待った」
俺は当然止める。
ミラの肩に手を置き、逃げられないようしっかりつかんでから問いかけた。
「ユーフェミアが領地を持つと、何?」
「い、いえ、何でもありません、大丈夫です。それまでにはどうにかするつもりですので」
「どうにかって?」
「本当に何もないんです! 協力者はもう間に合ってます!」
協力者……?
ミラが考えていることがさっぱりわからん。それにこの子、なんでこんなにびくびくしてるんだ? よっぽど知られるとまずいことなのか?
そんなに怒ってるつもりはないんだけど、こうも挙動不審で来られると疑いたくなる。
一応釘さしとこう。
「あのさ、もしミラの考えてることがユーフェミアに害するようなことだったら────」
「はあっ⁉ なんで私がユーフェミア様を害さなければいけないんですか!」
怒鳴られた。
「むしろユーフェミア様に害が及ばないよう働いております」
ドンと胸を張って主張するミラ。
なんだよ、だったら堂々としてろよ。
「……具体的には何しようとしてるんだ?」
「それは…………」
ミラはまたもや気まずそうに視線をあっちやりこっちやりした後、意を決したように目をかっぴらいて言う。
「ユーフェミア様の、性格改善をっ!」
鬼気迫る勢いだった。
あー、確かに、それは言いづらい。
仕えてる人の性格が悪いってはっきりは言えないよな、事実だったとしても。
でも、なんだ、だったらミラと俺の考えてることはほとんど一緒じゃないか。
ミラもきっと俺と同じようにユーフェミアが性格の悪さでいつか刺されるんじゃないかって不安になったんだろうな。
「そういうことならよろしく頼むよ」
ミラに笑って言う。
ミラのこと、趣味も特技もまだわからないけど主人思いのいいやつだってショウに教えてやろう。
「お願いです。ユーフェミア様のおそばにおいてください」
ん?
「私はまだまだ力不足かもしれませんけど」
んん?
「でも、あなたを一人にしたくないんです!」
んんんん?
んんんんんんん?
え、なんであの子俺の許嫁を口説いてるんだ?
なんで俺の許嫁は頬を赤らめてうれしそうにしてるんだ?
ユーフェミアとミラの中が想像以上に親密になっている。
いや、悪くはない。悪くはないよ。何度も言うように本当悪くはない、んだけど、俺の立場をとるまで仲良くなってほしいとは言ってない!
ユーフェミアがうれしそうだから付き人の件に関しては協力するけどさ!
ナンターク伯爵家が王都に有する別荘に戻った俺は、自室に置いてある水色の大きな丸玉型通信機を起動させる。持ち運ぶには不便だけど、あらかじめ貯めておいた魔力のみで通信できるので俺みたいに魔力が少ない人間には最適だ。
通信相手はアザンツ学園に通うレイス。
通信機に手をかざし、名前を唱える。
「レイス・コンティノー」
すると、通信機がピカ、ピカ、ピカと三回点滅し、交信したい相手とつなげてくれる。
『────よ、どうした?』
通信機からレイスの声がする。
「急で悪いんだけど、アザンツ学園の同行申請書って余ってないか?」
『同行申請書? あー。実家にあるよ』
「もらいに行っていいか? 一部でいいんだけど」
『別にいいけど。──出でよ、火の神ボジュ! え、何、ハワードもアザンツ学園に入学すんの?』
「まさか。俺じゃなくてユーフェミアのためだよ。メイドのミラが付き人としていくんだ」
『へー。じゃあお礼は姉さん所で商品買うってことでいいよって伝えといて。────舞え、ヒブカラギ。くらえっ、爆裂弾!』
「わかった、伝えておく。……ところで、今何してるんだ?」
『ん? 魔物制圧中』
通信機の向こうのレイスはサラっと言った。
「えっ、お前、それって取り込み中だったんじゃ……」
『良いって。ほぼ制圧完了してたし』
なんか格好いいな。
「俺の要件もこれだけだから切るな。明日お宅にお邪魔する」
『家族には俺から伝えておくよ。じゃーな……、あっ待った』
「ん?」
『お前、ショウ王子と仲いいよな』
「まあ」
『ショウ王子がアザンツ学園に入学するって本当か?』
「えっ!」
初耳だ。
『とあるつてから聞いたんで確認だったんだけど、違うならいいや。じゃーな』
言って、レイスが通信を切る。
……。
ショウがアザンツ学園に?
明日来るって言ってたし訊いてみようかな。もし本当に通うんなら……。
「ありがとうございます。でもどうして」
翌日、レイス宅からもらってきた同行人申請書をミラに渡す。申請書を持ってきた理由を当たり障りなく説明すると、ミラは「そうなんですね」と納得した。
それからレイスのことを伝え、少し談笑し、本題に入る。
「それとこれ。アザンツ学園で一緒になる俺の友達。俺の名前出せばすぐ仲良くなれると思うから」
ちゃんとさりげなかったよな? ミラは何も言ってこないしたぶん大丈夫。
本題、ミラに別の相手をあてがう。
やってることがみみっちいてことは理解してるけど、アザンツ学園に行ってもユーフェミアと一緒にいるミラと、アザンツ学園に行かれたらなかなか会う機会がない俺とじゃどうしても差がでるんだからこのくらい見逃してほしい。
相手も好ましい人たちを挙げている。
雑談もそこそこに、家へと帰る。ショウが来るってわかったらユーフェミア怒りそうだしな。
ショウにアザンツ学園入学の話を尋ねてみたら、
「いや、そんな話もあるってだけだ」
と、あっさり否定された。
「ユーフェミア様、今の術どうでしたか?」
「さあ、知らないわよ」
「あ、そ、そうですよね。私に興味なんてないですよね、アハハ……」
「っ、ちゃんと見てたわよ! ミラにしてはよくできてたわ!」
「ありとうございますっ」
「────フンッ」
後日ユーフェミアのところへ遊びに行ったら、何か二人が昨日までより格段に仲良くなっていた。
なんでだよ。
さらに後日。
「アザンツ学園に行くことになった」
と、ショウから報告があった。
つけくわえて、
「お前の許嫁は本当に最悪だな」
と不満を言われた。
ホントなんなんだよ。




