17
大きな花火があがり、投げた水晶玉の場所に青年が現れる。
王都特別治安維持署所属、エンヴァント・デトアールさん。
エンヴァントさんは通信機をつかみ、パチンと指を鳴らす。
魔術の風が吹き荒れた。
多分術自体は北橋が使ってたものと一緒なんだろうけど、威力が違う。エンヴァントさんの風は砂も石も、男たちさえも、吹き飛ばしていた。これが大人の実力!
後、私たちに被害がいかないよう防御術もほどこしてある。これが大人の余裕!
エンヴァントさんはトンっと着地して私たち三人を見た。
「お怪我はありませんか?」
ショウに気を使ってるらしい。ショウは首を横に振り、なぜか私を見た。
「ミラが頭を殴られた。手当を」
「承知いたしました」
「え、や、私は大丈夫ですよ。それより先にこいつらを捕まえときましょう」
地面に倒れ伏している男たちを指さす。
こいつらを一発でも殴らせてもらえたらそれですっきりだ。
「後でちゃんと診てもらえよ」
「はい」
別にコブにもなってないし気にするほどのことでもないと思うけど。……あ、ショウは頭を殴られて気絶したことがあるから(犯人、私)、それでか。
「────少しすみません」
エンヴァントさんは通信機が光ったのを確認し、一言断りを入れて通信に出る。同時にのびてる男たちを魔術で一か所に集めだした。地面からニョッキと手が生えウゴウゴ男たちを運ぶ様子はなんかちょっと、……気持ち悪い。
「はい。デトアールです」
『こちら三課のシーシュカです。花火見えました』
通信機の相手の声は、マオ先輩が特別署にかけたとき出た人と同じものだった。相変わらずどこか疲れたような声で淡々としゃべっている。
『王子様はご無事ですか?』
「無事です。一緒に行方不明になっていた少年も。少女のほうは頭を殴られたようで、目立った外傷はありませんが一応治療お願いします」
『手配します。こちらは四個中三個回収成功です。一つは防げませんでしたが、城内兵士の事前の誘導で死傷者はいません。廃屋のほうの連中もすべて捕まえています』
その言葉に、なぜか北橋がピクリと反応した。その様子に気づいてないエンヴァントさんは話を進める。
「こちらも犯人捕獲しました。総勢十三名。順次そちらに移送します」
エンヴァントさんはちらりとショウを見た後、重々しい口調で付け加える。
「内、八名は城内兵士でした」
『え────』
「ではよろしくお願いします」
エンヴァントさんは通信を切る。
通信機をポケットにしまうと、言ってた通り犯人たちをパッパッとどこかへ魔術で送り飛ばしていた。エンヴァントさんは空間魔術か使える系の魔術師なのか。
その光景を見ながら、北橋がちょいちょいと服の袖を引っ張ってきた。
「三浦」
「ん?」
「あの人、何者だ?」
警戒心を隠そうともしない目でエンヴァントさんを見る。
「エンヴァント・デトアールさん。王都特別治安維持署の職員さんだよ」
「なんで治安維持署の職員と知り合いなんだ?」
「あんたとぶつかったとき一緒にいた女の人がいたでしょ。あの人の知り合い」
「なんで治安維持署の職員の通信機を持ってたんだ?」
「連絡取れるよう借りたの」
「なんで廃屋のことを知ってるんだ?」
「なんでって」
そんなの決まってんじゃん。
「私が教えたから」
そうじゃなきゃわざわざ事件もないのにあんなとこ行かないでしょ。
「ハアッ、なんで⁉」
もう、なんなの。私はおばあさん食べたオオカミかっての。さっきまでの勘の良さはいったいどうしたのよ。
思わずため息が漏れる。
しかたない、こんな簡単なこともわからない北橋クンに教えて差し上げよう。
「危険な場所に一人で行くわけないじゃん、普通に考えて」
だっていくら前世からの幼馴染とはいえ、あの時点では王子を誘拐したかもしれないやばい奴だよ。近くに治安維持署員がいるのにあっさり一人で行くわけない。
北橋は口をとがらせる。
「……一人できたって言ってなかったか」
「つけられてはないって答えたんだよ。連れてきてた」
まあ、言い訳はいろいろあるけど結局一番危ない道を突っ走ってたんだから私の用心力なんて屁みたいなもんだ。
ハー。
なんだかなあ。
結局心のどこかでどうにかなる大丈夫みたいな油断があったんだろうな。すべて終わった後の結果論だけど、廃屋でゴロツキが現れた時点で下手に動かずエンヴァントさんたちと合流してればよかったんだ。
男たちを全員送り終わったエンヴァントさんを見る。
「じゃあ、次は君だ。ミラ」
エンヴァントさんが振り向き言った。
空間魔術を実際に体験する機会なんてそうないからちょっとドキドキ。
あ、その前に北橋じゃないけど聞きたいことは聞いておこうかな。
「城の外で爆発があってましたけど、大丈夫なんですか」
「ああ。────あー……」
エンヴァントさんは少し考えるそぶりをして、
「廃屋にいた不審者に声を掛けたら、王都内で爆発を起こす準備をしていたことがわかってすぐ対策をとった。中央広場で捕まえたやつらは治安維持署員をひきつけておく囮だったらしい。どこで起こるかまでは喋らなかったから治安維持署と魔術署と、一応城内兵士に掛け合って動いてもらったんだ。かえって悪手となったけど」
と、教えてくれた。
ここまで事件にがっつり関わってるから守秘義務は使われなかった。
つまり情報をまとめると、最初にショウを誘拐したのがさっきの男たちで、こいつらは反第二王妃過激派及び廃屋にいたやつらの仲間だった。役割は反第二王妃過激派が囮、廃屋にいたやつらが爆発担当。
城内兵士たちは誘拐が失敗したもんだから戻ってきたショウを捕まえようと残ったのかも。もしかしたら出動した兵士の中にも仲間がいるかもしれない。
そう考えると、城にいてもどこにいても危なかったのか。
エンヴァントさんの誤算は、私たちが城に戻ってしまったことと、城に残った兵士が全員悪人だったこと。それと、────王子の緊急事態にもかかわらず入城許可を出さない重鎮がいたこと。
城の中はショウの敵ばっかりだ。
ショウを見ると、ショウはすぐ視線に気づいてこっちを見返した。
「なんだ?」
「あ、いえ、本当にご無事でよかったなと」
「……生きてみようと思ったからな」
ショウがくすりと笑う。
お、おお、笑った。あのショウが。
主人公のティナと出会うまで笑わないんじゃないかと思ってたけど、人間、そういうときもあるか。
「それより敬語やめたんじゃないのか」
「え、そんなことありませんよ」
「さっき……いや、いい。ユーフェミアに許可とってちゃんと敬語やめさせる」
「はあ、どうしてそこまで────」
「三浦っ!」
北橋に遮られた。北橋の顔が心なし、青い。
「早く手当てしてもらえ」
「あ、そだね。お願いします。エンヴァントさん」
「ああ」
エンヴァントさんはうなずくと、私を転送した。
瞬き一つ。
瞬き一つの間に、空と城と木と土が見える光景から白い物ばかりの治療室へと飛ばされていた。あまりにもあっさり場所が変わったから最初目の錯覚かと思ってしまったよ。
その後、治療をうけ、マオ先輩に会い、屋敷に帰った。
ショウと北橋とは会わずじまいで、次に会ったのはユーフェミア様が屋敷に戻られた後のことだった。
「ハア? ミラと友達になりたい?」
ユーフェミア様が眉を吊り上げてショウを見る。
「ああ」
ショウがうなずく。
レイズコット家のお屋敷の客室。いるのはユーフェミア様と私とショウと北橋の四人。
今日はショウがハワードもつれずにユーフェミア様に会いに来た。「いったいどういうつもりかしら」と心底不快そうな顔をしていたユーフェミア様だけど、さすがに追い出したりはしない。
ショウと一緒に来ていた北橋の同席も許可して、ショウの話を聞いて、先ほどの発言だ。
私と北橋はそばに控え、二人の様子をうかがう。
「君がシフォール学園の卒業式に出てる間、いろいろあってな」
「聞きましたわ。大変だったようですね。うちのミラも怪我をしたようで」
「危険に巻き込んで悪かった」
「あら、私、そんなつもりで言ったんじゃないんですのよ」
いや、がっつりそんな意味に聞こえましたよ。
「ユーフェミア様、心配いただきありがとうございます。私は大丈夫ですので」
「ミラが言うのなら、いいわ。それで? 怪我させたミラと友達になりたいとはどういう意味なのでしょうか?」
いいわ、って言ったのに全然良くなってないです……。
ショウはいらだちをぐっとこらえ話を続けた。
「俺は、友人とは対等であるべきだと思っているが、ミラは君の許可がなければ敬語もやめることもためらうんでな」
「あら、そうなの、ミラ?」
「はい。ユーフェミア様を差し置いて私がショウ王子の友人なんて恐れ多い限りです」
正確に言うなら、ユーフェミア様がショウを嫌っている現状でショウと仲良くなるのがためらわれる、だ。
ユーフェミア様は口元に手を当て、
「ふーん」
と、考え込むそぶりをする。
恋人のとき同様、好きにすればいいわって言われるかな。
すぐには断らなかったユーフェミア様に対し、ショウはダメおしとばかりに発言をつづけた。
「ハワードやミラと友人になるんだ。今更だが俺たちも仲良くしないか、ユーフェミア」
「あら、私の名前覚えていらっしゃいましたの。意外ですわ」
「春から同じ学び舎の生徒となるんだ。どうだ?」
ショウがもっともらしいことを言った。
ユーフェミア様にもっとも言ってはいけない言葉を言った。
「春から、同じ学び舎?」
ユーフェミア様の頬がぴくぴくと動く。
「ああ、前から話はあったんだが、今回事件があったことで城にいるよりアザンツ学園にいたほうがいいだろうということになったんだ。……ていのいい厄介払いだけどな」
城で守りを固めて事件を起こさなくするのではなく、ショウを遠くにやって城での事件をなくすのか。いろいろなんだかなあ。
そしてこっちも、なんだかなあ。
「ショウ王子も大変なのですね」
ユーフェミア様は淡々とした声でショウに同情の言葉を寄せたのち、満面の笑みを浮かべた。
ああ、前にも見ました、こんな光景。
続く言葉も想像できます。
「同じアザンツ学園の生徒。つまり私たちは切磋琢磨しあう、いわば敵です」
「え」
「友人などとぬるい感情は捨てましょう」
「おい」
「当然、────ミラと親しくなるも認めません!」
「……」
交渉は決裂した。
北橋は先日の事件以来ショウとともに城で寝泊まりしてるらしく、今もショウが乗った馬車に乗り込もうとしている。
「ユーフェミア様、少しすみません。友人と話してきます」
「いいわ」
北橋と幼馴染ということはユーフェミア様にも伝えてあるので、あっさり許しをもらい、北橋のもとへ駆け寄る。
北橋の服を引っ張り止める。
「北橋、これからどうするの?」
「あ、言ってなかったな。ショウの付き人として俺もアザンツ学園に行く」
「えっ」
「エンヴァントさん、だっけ? あの人に空間魔術のこと聞いたら、エンヴァントさんの家は空間魔術が得意な一族で子供のころから練習させられんだって。で、その一族の次期当主になる空間魔術得意なめっちゃ強い奴が俺らと同い年で、アザンツ学園にいるらしいんだ。会ってみる価値あると思わね?」
「確かに」
「だろっ! それにアザンツ学園には行ってみたかったんだよ」
「なんたって、『花ティナ』の舞台だからね」
私が言うと、北橋は笑ってうなずいた。
こいつも一度ハマるとがっつり派だからな。
「あと、ショウとティナを間近で見守りたい」
北橋は馬車の中にいるショウに聞こえないよう声量を落として、私の耳元で言った。
「わかる」
私も声量落として同意すると、北橋はなぜかほっと胸をなでおろして安心した表情を浮かべた。
「なら良かった。俺、ヒーローとヒロイン以外の組み合わせは受け付けないから」
「?」
よくわからんけど、ショウとティナにはくっついてほしいって話かな? 心配せんでもこの二人がくっつくのは確定だって、運命なんだから。
私が変えるのは、ユーフェミア様の運命だけ。
「じゃあ、また学園で」
「ああ。────命、大事にしろよ」
北橋はそう言って、馬車に乗り込んだ。
少し離れて手を振って、見送る。
命、大事に、か。
それは原作でユーフェミア様も守って死んだミラのことを指して言ってるんだろうな。
ユーフェミア様のところへ戻り、ユーフェミア様を見る。
「何を話していたの?」
「他愛ないことです」
私は目的のためなら、自分の運命を受け入れるよ。
二週間後、波乱の学園生活が始まる。




