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戦闘回です。
ショウは私の手を引いてナイフをよける。すかさず北橋が灯り用に出していた火の玉を男に向かって投げつけた。
だけど男は持っていたナイフに魔力で水をまとわせ火の玉をぶった切る。
くそぅ。火と水は人気の魔術。こんな男でもこのくらいはできるということか。
そんならこっちだって────!
「っらあ!」
ショウの手を振りほどいて男のもとへ走り、飛び蹴りをお見舞いする。
「っ!」
単なる飛び蹴りだと思っていた男は、顔に当たる瞬間を狙って足にまとわせた火に対処しきれず手に火傷を負う。反射的に手を離した男の顔を、今度は普通に踏みつけ反動をつけ、空中後方一回転して華麗に着地した。
男は顔を押さえてもんどりうつ。
「逃げるよ!」
その隙をついて少年二人に向かって叫び、木々の隙間から見える城に向かって走り出す。
攻撃が成功したからと言って油断してはいけない。訓練中何度も言われた言葉だ。
ショウの誘拐があっさり成功し、城への秘密通路が出入り自由になっていたことを考えるに、まだ仲間がいると思っていい。大人一対子供三なら何とかなっても、増援が来たら何ともならなくなる。
こっちが先に援軍を呼ぶべきだ。
ポケットの中の物に触れ、それから買ったばかりのブローチを取り出した。
ええい、木がうっとおしい。
ちらりと視線を動かして後ろを走るショウを確認する。
「ショウ王子!」
「なんだ!」
「ここの木、切っていいですか!」
「許可する!」
マジか。
結構ダメもとだったんだけど、でも話が早くて助かる。
魔力をブローチに注ぎ込むと、ブローチはふわりと青い光をまとい、木々をなぎ倒す風の刃を四方八方に飛ばした。意外と日常でも使いどころあるな、かまいたち。
「なら俺も。────風刃衝!」
北橋が唱えると、ブローチの刃よりさらに大きな風の刃が私の目の前にあった木々を一掃する。
おー、視界良好。
やりすぎたかもとか思ったけど、これで正解みたい。
なにせ私たちはすでに待ち伏せされていたことがわかったから。
私たちの行く手には、鍛え抜かれた体をした強面のおじさんたちがいた。その数ざっと十五人ほど。
こんなに入り込まれるなんて、この城の警備はいったいどうなってんの。
「軍の再教育をオススメしますよ」
男たちから距離をとるためジリッと後退しながら進言する。ショウは男たちのうち何人かが腰に携えているなかなか上等そうな剣を見て、
「そうだな」
と、静かにうなずいた。
「どうする? とりあえず爆発でも起こすか?」
北橋が言う。
いくらざる警備とはいえ爆発まで起きて駆け付けないほど無能じゃないだろ。
本当はこんな確認とってる間にも行動起こしたほうがいいんだろうけど、でも、なんだろ。ショウの雰囲気がそれを許さなかった。
ショウは怒りと同時にどこか諦めにも似た表情を浮かべていた。
答えないショウに、北橋は一歩前に出ながら言う。
「事後承諾でいいから」
息を吸い、呪文を唱えた。
ドオォォォオオン
大きな音が響き渡る。
……。
……。
え、や、待って、私らじゃない、北橋はまだ魔術発動させてない! 今の爆発音、何? どこ?
音のしたほうへ首を向けると、城の外、王都のどこかで煙が上がっていた。
唖然としているとさらに続け二発。別の場所で爆発音が鳴る。
「何、あれ────!」
思わず疑問が口に出た私に、
「知りたいか、お嬢ちゃん」
返答があった。
「っ!」
「逃がすかっ!」
私が反射的に飛びのくよりも早く、男が私の腕をつかむ。そのまま北橋たちのほうを向く体制で羽交い絞めにされた。
「ミラっ!」
「三浦!!」
「おっと動くな、こいつがどうなってもいいのか!」
男の言葉に二人は歯噛みしながら動きを止める。
クソッ、こいつ魔力阻害か何か使ってやがる。魔術が発動しない。身動き封じられてるせいで体術も使えないし、どうすれば────。
「狙いは俺だろう、ミラを離せ」
「!」
この場にいた者ほぼ全員の表情が変わった。
私と北橋は顔を曇らせ、男たちは歪んだ笑みを浮かべる。ただ一人、ショウだけが感情をすべてなくしたかのような顔をしていた。
「抵抗はしない。覚悟はできた。その代わり二人は解放しろ」
淡々とした声。
「聞き分けが良くて助かりますよ、ショウ王子」
私を捕まえている男が下卑た笑い声をだす。
エンヴァントさんと同じ二十歳そこそこの男。真面目そうな顔してやること最悪だ。
「俺たちは紳士だ。約束は守りましょう」
「何が紳士よっ。ショウ王子、いけません! あなたが捕まってもどうせこいつらは────」
「うるせえっ!」
「っ!」
ゴンと鈍い音が自分の頭からした。一瞬目の前が白く染まる。
くそっ、こいつ幼気な女児の頭を!
あらん限りの憎しみを込めて男をにらむも、男は「おお怖い」と嘯くだけでひるみもしない。
くそっ、くそっ、なんで援軍が来ないの⁉
ドオォォォオオン
四回目の爆発が起こり火の手が上がった。男はそれを見てクツクツと笑う。
「今頃王都は謎の爆発で大慌てだろうな。治安維持署も魔術署も────城内軍もなあ」
そういうことか!
城にいるはずの兵士たちは来ないんじゃない、来れないんだ。
これだけの騒ぎ、事態の鎮静化を図り、王都民をできるだけ速やかに安全な場所へ移動させるため駆り出されてるんだ。
いや、それでも何名かは残ってるはず。いったい何して────。
「お前らは行かなくていいのかよ」
北橋が憎々しげに言い放つ。
「俺たちは留守番だよ、小僧」
二人はいったい何を言い合ってるんだろう。
理解が追い付いていない私に、北橋がそっと目で合図する。逃げろよ、と合図する。
「番もしてないくせに、ほざくな、よっ!」
北橋がダンッと足を踏み鳴らし、下からの風を巻き起こす。風は石や砂を巻き込み吹き上げ男たちに容赦なし遠慮なしの石つぶてを食らわせる。
当然、一緒にいた私にも。
ちょ、痛っ、痛、い、けどっ、今なら!
バシバシ当たる痛みに耐え、力を緩めたた男の手から逃れようとする。
逃れようとして、
「────!」
動きを止めてしまった。
こいつが持っている剣なんかに目を止めなければよかった。
風がやんでもまだ男とともにいる私に、北橋はいらだちと失望をないまぜにした表情を向ける。
ショウは先ほどまでと変わらない深く暗い目でこちらを見ていた。
その表情の下で何を考えているのだろう、
何を感じているのだろう。
私を捕まえる男に問いかける。
「あんた、城の兵士なの」
「ああ」
仕える者に命を狙われるということを、いったいどう受け止めているのだろう。
男が腰に携えている上等な剣の柄には、王家に仕える者の証、国花のリンドウが彫られていた。この男たちは王家に忠誠を誓っていながらショウを狙うのだ。
ショウはすぐに男たちの正体に気づいたんだろう。北橋も、あれで勘がいいところがあるから。
私は気づけなかった。
気づきたくもなかった。
怒りが増す。呼応するように魔力が体内から漏れ出す。
逃げるわけにはいかない。
憶するわけにはいかない。
こんな、こんなっ、────こんな主人を殺そうとする奴なんかに、負けるわけには、いかないっ!
「なっ────!」
阻害も無視して漏れ出た魔力がブローチへと注ぎ込まれ、かまいたちを発生させる。
今度は動きを止めることなく、男のもとから逃げ出した。
「ケガは」
「ない」
北橋の言葉に、短く答える。
ショウは何も言わない。
「……」
知ってはいた。昔から大人の事情に巻き込まれてること。命を狙われていること。
でも、知ってるだけだった。
グッとこぶしを握る。
多勢に無勢。子供だからとなめてかかり今まで見てるだけだった奴らも動き出すだろう。先ほど火傷を負わせた男もこっちにきていた。
北橋はショウの前に、私はショウの後ろに行き、ショウを守る陣形をとる。
ショウを死なせるわけにはいかない。
それと、こんなところで私も死ぬつもりはない。
私は主を守ると決めている。
「ショウ王子」
バレて男たちが飛び掛かってこないように慎重にポケットに手を入れながら、呼びかける。
「ご迷惑おかけしました。反撃しましょう」
「……いや、俺が捕まればお前たちだけでも」
「却下です」
ショウの言葉を遮る。
すべてをあきらめ無抵抗決め込むつもりじゃないかと思ったけど、やっぱりか。
どうせあいつらは三人まとめて殺すつもりなんだし、ショウの考えは無意味だ。多少殺されるまでの時間が伸びるだけ。
だったら、どうせなら、
「一緒に生きよう、ショウ」
抗ったほうがいい。
ポケットから取り出したのは、緑色の丸水晶。
さっきブローチに魔力が注ぎ込まれたのと同様、こっちにも魔力が行き、通信状態になたらしい。水晶から声が流れ続けている。
「ショウ、返事は一つだけだから」
男たちの気をそらすため、水晶を高く放り投げた。
通信の内容は要約すると、こう。
『城に入るための許可が下りない。強い権限を持ったやつが制止してるらしい』
ショウは上を向むいて、そして返事をする。
「────第二王子ショウ・アメストリが入城を許可する!」
五回目の爆発音が、この場でなった。




