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 説明を一通り聞き終え、もろもろを把握する。


 うっかり「もしかして私って選ばれし人間?」と調子ノッた発言したあたりで北橋がキレだし、最後罵倒され続けたんだけど、まあ、大目に見てやろう。

 勇者(予定)より広い心を持った人間なのだ、私は。

 しかし人を蹴落とすなんて言う勇者は嫌だな。


 ……なんて、しょうもないこと考えて頭を休ませてる場合じゃないか。


「北橋はこっちで赤ちゃんからやり直してるけど、別に親や家族がいるわけじゃないんだよね?」


「ああ」


「うーん……。そういやショウ王子とはいつ知り合ったの?」


「アズリの里の神域にいる時だよ。ショウがアズリの里に来たことがあって────って、お前ならわかるだろ、あんときだよ」


 ああ、ティナとショウが初めて会ったあの時か。


 漫画の中に入り込んだわけではなく実在する世界に移りこんだわけだけど、出来事は漫画通りに進んでる。


「その神域にいたソウタと同じ波長をミラから感じた。だから、幽霊だと思ったんだ。悪かったな」


 謝っているとは思えない傲岸不遜な態度で、ショウが謝る。


「いえ。こそこそ隠れてのぞき見していた私が悪いのです」


 そばで北橋が「九歳の男子をのぞき見……?」とドン引きした顔をしているけど、事情があったんだよ、ちょっと黙ってろ。


「それで? 犯人を見つけるあてはあるの?」


「全然」


 北橋が首を横に振る。

 なんだ、ないのか。


「違う世界に行けるほどの空間魔術の使い手なんてそういない。そこから探ればいいじゃないのか」


 ショウが意見を出す。


 そういえばこの話、ショウが聞いていい話だったのかな?

 ……まあ問題ないっちゃないのか。

 私だって、転生や未来予知のこと話してまた追い出されるのは嫌だからユーフェミア様やマオ先輩にはぼかして説明してるけど、まったく誰にも言ってないわけじゃない。つい最近も赤裸々に告白したばかりだ。


 アザンツ学園のレイス君に。


 この間でかけたとき、話さざるを得ない状況になって漏らしちゃったんだよね。ユーフェミア様の性格改善の協力者になってくれるってんで、正直に全部。

 ショウも北橋の協力者になってくれるんだろう。


 そう、北橋の。


「あのさ、北橋」


「ん?」


「私、あんたに協力する気ないよ」


「ハァッ! なんで⁉」


 当然そういう反応になるか。

 肩をつかんで私を揺さぶる北橋を引っぺがし、言う。


「私、あんたと違って生まれ変わってるから」


 私の名前はミラ・ヴェスタ。

 北橋といるとついつられてしまうけど、私はもう三浦千紗都ではないのだ。


 私には私の生活がある。

 やるべきことがある。


 北橋が元の世界に戻るため犯人を探すというなら、私は前の世界に戻らなくてもいい方法を探しだす。


 仲間を見つけたと思っていたらしい北橋はショックを受けた顔をしていた。


「三浦、お前……」


「邪魔はしないから安心して」


 私たちが通っていた高校は一クラス四十人。一学年四百人。三学年で千二百人。そのうち九割近くが部活動生。事件は一学期の終業式だったから三年もまだ引退してない人が多い。ということを踏まえると、欠席やら部活掛け持ちやらで多少誤差があるとはいえ、先生込みで千人近い人がこっちに来てることになる。

 さすがにその人数全員を敵に回すつもりはないよ。


「────親、悲しむぞ」


 それは本当に申し訳ないと思ってる。

 三浦千紗都の両親は私の親なんかよりよほど良い人たちだし、一人娘が死んだってなったらすごく泣くと思う。

 多分私も、両親の顔見たら戻りたくなっちゃうと思う。


 でも、まだ見てないから。

 私が見てるのはこっちの世界の人たちだから。


「北橋、私ね、今ユーフェミア様のところで働いてるの」


「ユッ────!」


 北橋がぽかんと口を開ける。


「漫画読んでるときには何とも思わなかったんだけど、いざ自分が拾われる立場になるとすごくうれしかったんだ。────私、ユーフェミア様のために生きていきたい」


「────────三浦、お前」


 北橋が深い深いため息をつく。


「ユーフェミア様のためって、だってあいつ……」


 ショウを見て、私を見る。

 ショウはなぜ見られたのか分からず怪訝な表情を浮かべた。ま、言えないよね。ショウに悟られないよう二人の暗黙の了解として話を進める。


「そうならないように私がいるの」


「でも」


「見届けたいの」


「無理だろ」


 北橋はバッサリ私の話を切り捨てる。

 夢も希望もない男だな。


 これがね、ユーフェミア様生存確定が先だってなら私も協力するんだよ、戻りはしないけど。でも多分時期被ってるからなあ。


 お互いあと六年。


 ユーフェミア様から離れたくない私は当然アザンツ学園に行くし、北橋は情報集めで国中を移動するんだろう。どう考えても両立できない。


「ショウ王子が仰ったように犯人は強力な魔術師だろうから、アザンツ学園でそれとなく探ってみるよ。なんたって国一番の魔術師育成機関だからね」


 それじゃダメかな?

 北橋を見ると、不満いっぱいって顔でぼりぼり頭をかいた。


「────俺が怒ってんの、それだけじゃないってわかってるだろ」


「……」


「このままユーフェミアのところにいるってことは」


ガタッ


「!」


 音がし、三人同時に動きを止める。


 誰か屋敷の前にいる。こんなところに来るだれかなんて、相場が決まってる。ならず者だ。

 気配を殺し外の様子を探った。


「まだ────ない」


「────の薄ノロ。早く────」


 聞こえてくるのは複数の男の声。

 どうやら足の遅い仲間を屋敷の前で待ってるらしい。先ほどの音はならず者が屋敷の扉にもたれかかった音か何かだろう。


 北橋とショウを見る。

 北橋が無言でクイッと親指を廊下の先に向け、移動するぞと合図をした。うなずく私とショウ。


 足音を立てないよう右側廊下を行き、破れたソファと埃被った机がある応接室のような部屋に入り込む。愛人との密会を楽しむためだけの建物のくせに、書斎あり広間あり二階ありとなんて贅沢な建物なんだ。

 私と北橋は部屋中央付近にあるソファの近くへと行き、ショウはなるべく埃を避けようとソファから一歩離れたところに立つ。残念ながら座るにはためらわれる汚れ具合なので私らも立ったままだ。


「外の人たち何者だろ」


 小声で尋ねると北橋が「さあ」と肩をすくめた。


「誰にしろこんなところにいるなんてロクな奴じゃないだろ」


 ショウが言う。

 あの、その発言私らにも跳ね返って突き刺さるやつだから。

 まあどんな奴にしたって子供だけでこんなところにいるのはまずいよね。外の人たちが「見つかった、殺せ!」って逆上してこないとも限らないわけだし。


「逃げるか」


「ああ」


「うん」


 北橋の言葉に私とショウがうなずく。


「じゃあ外に────」


「待て」


 窓の方に向かおうとした私の手をつかんでショウが止めた。ショウの顔には呆れの色が浮かんでいる。


「うかつに外に出ると鉢合わせる可能性がある」


「でしたら正面突破ですね」


 ついにユーフェミア様との戦闘訓練が活かされる時が来てしまったか。

 落ち着け、私。大丈夫だ。私ならやれる。

 それに私には頼もしい人たちがついて────。


「地下から行くぞ」


 ショウが私の手を引く。

 北橋が了解したというようにショウに目配せした。


「地下?」


 私の疑問に対し、北橋はまるで手品を披露するような大げさな動作でソファを動かし床板をはがして地下への階段を出現させた。


「地下!」


 もうその言葉しか出なかった。

 まさか地下まであるとは……。


「正しくは地下通路だ。行くぞ」


 私の手をつかんだままのショウが先陣切って歩き出す。殿(しんがり)をつとめる北橋は魔術で小さな火の玉を出し灯を確保してから床板を閉めた。外の連中はこちらの存在に気づいてないしこれで追われる心配はないだろう。

 頼むから地下通路を発見して「ちょっと探検してみよーぜ」なんて気起こすなよ、絶対にだぞ。


「でもこんな道があるなんて知らなかった」


 声が反響する。

 階段を降り切った先は、ひんやり通り越して寒さを覚える意外にもしっかり舗装された道だった。

 北橋は火の玉をスーッと先頭まで移動させながら、私の軽口にのる。


「なんだよ、前にも来たことがあるみたいな口ぶりだな」


「あるよ。ユーフェミア様に拾われる前、ちょっとだけど寝泊まりしてた」


「あの女に拾われる前は何してたんだ」


 ショウが会話に参加してきた。あの女って……。


「一年ほど王都のあちこちをさまよっておりました。────その、私も北橋と同じように不思議な力がありまして、それを親に気味悪がられ、捨てられたんです」


 ん? 北橋と同じ、で良かった? 北橋は未来予知、っていうか未来知ってるってことは言ってなかった気がするから、同じじゃまずいか?


 変なところに気を揉んでみたけれど、ショウは「そうか」とだけ言って話を終わらせた。


 まあ普通は親に捨てられたなんて話、深くは追求しづらいよね。

 こっちは気にしてないからそっちも気にするなという意味を込めて、努めて明るくふるまう。


「ここは貴族と愛人の隠れ家だと思っていたのですけど、実は違うのでしょうか?」


「ああ、違う。王族の緊急脱出口だ」


「えっ!」


「このままいけば城に出る」


「で、では廃屋にあった貴族と愛人の恋文は……」


「偽装工作だ。正しい設定は、政略で好きでもない女と結婚したものの日ごろから虐げられ正気を失いつつあった男が気に入ったメイドを監禁しひたすら男への恋文を書かせ続けた、だ」


 な、何なんだ、その設定は。っていうか設定って何なんだ。


「ミラが見つけた恋文と、書斎にある男の日記と、二階にある隠し部屋の情報を照らし合わせると真実がわかる仕組みになっている」


 ……探索ホラーゲームか何か?


 緊急脱出先にそんな遊び心を設けなくてもいいのに。


「でもあの廃屋はならず者が絶えず使ってますし、危ないのではないでしょうか」


「定期点検とかしてねーの?」


「何十年も使われてないものだからな。俺も死んだひい爺さんの日記見るまで知らなかった」


「城とつながってる場所をほっとくなよ……」


 北橋が呆れ口調で言う。


 全面同意です。


 ゴロツキが廃屋のなぞ解きに全力を注ぐとは思えないけど、たまたまこの地下通路を発見する可能性は無きにしも非ずだ。城に入り込まれても知らないぞ。


 侵入者対策も何もしてない平坦な一本道。

 今も結構平和な時代だと思うけど、この地下通路はさらに平和な時代に造られたとしか思えないぐらい何もない。

 迷わなくていいけどさ。


「まあでも、ショウ王子が今回立ち入ったことで見直しができてよかったですね」


 適当なことを言ってみる。

 歩きながら、ショウがちらりとこちらを見た。


「ミラ」


「なんでしょうか?」


「敬語やめろ。名前も呼び捨てでいい」


「え」


 謎の命令。


 やー、でも王子様にそれは無理だよ。


「ハワードもしていることだ」


 言われてみれば確かにハワードはショウのことを呼び捨てだし敬語も使ってない。最初から敬う気配がない北橋に怒る様子もないし、もしかしたらショウは友人と認識した相手とは対等でいたいと思う人間なのかもしれない。


 どうしよ。


 あいてるほうの手でポリポリと頭をかく。


「大変ありがたいお言葉なのですが、私には恐れ多い話です」


「俺がいいと言っている」


「その、ショウ王子のお心遣いは嬉しいのですけど、……ユーフェミア様がダメとおっしゃると思うので」


 私が当り障りない笑みを浮かべると、ショウは眉を吊り上げ口をとがらせた。


 ショウと仲良くなったなんて聞いたらユーフェミア様絶対怒るし。


 ショウは忌々しげに舌打ちを一つしたが、それ以上は何も言わなかった。ちょうど出口についたから。

 行き同様、出口にも階段があり、上った先には床扉があった。

 王都のはずれの森から城まで地上で行くと結構かかるのに、地下だとあっという間だ。最短直線距離だからかな。

 地下通路を出ると、さびれたかび臭い場所に出た。


「ここがお城、ですか?」


「城の敷地内にある物置だ。使われてないからこんな風になっている」


 城とは思えないみすぼらしい場所だったので困惑したけど、そういうことか。脱出先の廃屋が忘れ去られたようにこの物置も忘れられてたんだろう。外に出てわかったけど、この物置本当に小さい。辺りには森かなと言いたくなるぐらい木が生い茂っているから気づかれなくても仕方ないのかも。


 追手もないようだし、これで安心だ。


「今頃城の中はショウ王子がいないと大騒ぎになっていますね」


 そもそもの原因はショウが連れ去られたため。

 城の中は今頃てんやわんやだろう。


 ────あれ、待って、ショウは城で連れ去られたんだよね。それって悪人が城の中にいるということで……。


「なっ、ショウ王子!」


 木々の中を歩いてると人相の悪い男が現れ、驚いた表情をした。


 私たちがその男についてまともな判断を下す前に、男はすばやくこちらに近づき、懐から取り出したナイフをショウに向かってふりおろす。


 敵は後ろからではなく前から現れた。


殿をつとめる北橋氏(こいつらいつまで手つないでんだろ……)

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