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「何か手掛かりになりそうなことは?」
「北橋たちが走っていた方向と、あとこれです」
北橋から預かった通信機をエンヴァントさんに渡す。
エンヴァントさんは、通信機をころころと手のひらの上で転がして、そのまま私に返してきた。
「いい通信機だな。持ち主以外がうかつに使用できないようになっている。専門家に頼めば解析できるんだろうけど時間がかかる」
「北橋は後からコレに連絡入れるって言ったんですけど、その時は使えますか?」
「連絡を受けるだけなら大丈夫だろ。────あ、連絡。悪い、本部にあっちの件で連絡するからちょっと待っててくれ」
無断演説の人たちをくいっと指差す。
「それと、マオ・アマネ。通信機を買ったんならこっちを登録しろ。毎度用があるたびに署に連絡するのはやめてくれ」
言ってマオ先輩に緑色の水晶型通信機を投げて渡し、この場を離れる。
本部に連絡するって言ったのに通信機をよこしたってことは二台持ちなのかな。一つは仕事用で一つは個人用とか。
となると今マオ先輩が持ってるのは個人用だよね。
「────あの、お二人はどんな関係なんですか?」
エンヴァントさんの通信機に自身の通信機の登録番号を入力しているマオ先輩にこそっと尋ねる。
「レイズコット家に来る前別のお屋敷で働いてたことがあってね、その時起きた事件で知り合ったの」
マオ先輩は水晶に浮かび上がった一から十までの数字を一つ一つ押していきながら答える。他人の通信機なせいか数字を打つ手がたどたどしい。
一度入力してしまいさえすれば、あとは魔力を注いだり相手の名前を唱えたりするだけで連絡取れるから苦労は最初だけだ。
「当時は私、王都住みじゃなかったんだけど、──知ってる? 王都には二つ治安維持署があって、一つは普通の治安維持署、もう一つはエンヴァントさんたちがいる特別治安維持署。特別署のほうは王都なんてついてるけど管轄は王都及び周辺6つの地区で、ちょうど私がいた屋敷も管轄内だったんだ」
「なんでわざわざ特別署があるんでしょうか?」
「さあ? エンヴァントさんは、広範囲出動できる便利要員を作りたかったんだろ、なんて自虐してたけどね」
「でも特別なんてつくくらいだから優秀な人たちの集まりって気はしますよね」
「実際優秀だよ。私が巻き込まれた事件もあっという間に解決してくれたしね。あー、そういえばあの時も誘拐事件だったな」
入力が終わったマオ先輩は少し余裕のある表情に戻った。
「若い女の子が行方不明になるって事件が相次いでて、ついに私が勤めてた屋敷のメイドも被害にあったの」
「マオ先輩が誘拐されたわけじゃないんですね」
「あ、うん。ただ事件の二日後、『友人を助けたければ一人でここに来い』って書かれた手紙が私のところに届いてね」
おおっ、何か緊迫してきた。
「それで、どしたんですか」
「それは────」
マオ先輩が言おうとしたその瞬間、
「!」
北橋の通信機が光を放ち始めた。
「ど、えっ、あ」
「落ち着いて。とりあえず出てみて」
「は、はいっ!」
マオ先輩に言われ、深呼吸してから通信機に魔力を注ぐ。
『もしもし、三浦?』
北橋の声がした。
「もしもし。そうだけど」
『さっきは悪かったな。今話して大丈夫か?』
「平気」
『よかった。────あたりに人いる?』
「いるよ。大勢」
広場だからね。マオ先輩なんかめっちゃ近くにいる。
『あー……、ちょっと会話聞かれないような場所まで移動できるか?』
北橋が後ろめたいことしてる感満載のお願いをしてくる。
ちらりとマオ先輩を見ると、行っておいでと口パクした。
「……しょうがないなー」
マオ先輩に目配せして、一人、歩き出す。
この通信機は前世の電話と違って、否応なしに相手の言葉も周囲に漏れ聞こえるのが難点だ。相手の声を聞かせないようにする機能があればいいのに。
人通りの少ない場所に行く間、間を持たせるため無難な会話を振った。
「そういや、あんた、名前なんていうの?」
マオ先輩やエンヴァントさんには北橋って言っちゃったけど、よく考えたら名前まで前世と同じってことはないよね。
通信機の向こうの北橋は、あきれたような声で答える。
「北橋蒼汰ですけど」
え、一緒なの?
顔も名前も前世と一緒なんて生まれ変わった気がしなくない?
「三浦は、顔は変わったけど頭は相変わらずだな」
「どういう意味よ。あと、名前も違うから。申し遅れました、ミラ・ヴェスタと申します。以後お見知りおきを」
嫌味たっぷりに言い返す。
『ミラ・ヴェスタ? ……それって確か、えっ、お前、ミラ・ヴェスタなのか?』
この驚きよう。
まあそうだろう。まさか幼馴染が前世で読んだ漫画の登場人物に転生してるとは思わないだろうからね。
北橋は勝手に私の部屋に上がっていつの間にか『花ティナ』を全巻読破していた男だ。
『えー、お前、それはまさかだわ』
「何? うらやましいの?」
『ンなわけあるかよ』
「『花ティナ』世界に興奮してショウ王子を攫ったんだと思った」
人がいない路地裏に来た私は、北橋に本題を吹っ掛ける。
『よくわかったな。ショウ王子のこと』
話せる状態になったと察知した北橋は、まじめな口調へと切り替える。
「わかるよ、普通に」
なんせ、そこら歩いてるおじさんだって知ってたくらいだ。
「なんで誘拐なんてしたの」
『いや、誘拐はしてねー。ショウが自分からついてきたんだ』
「はあ、何それ?」
『どっから話せばいいかな。俺とショウはもともと知り合いなんだ』
確かに、さっき会った時のショウは誘拐されているという感じではなかった。
「なんで北橋がショウ王子と知り合いなわけ?」
実は高貴な身分なのか?
『アズリの里で会ったことがあったんだ』
「へー、アズリの里」
ってことは北橋は主人公のティナに会ったことがあるわけだ。
いいなあ。漫画ではあまり描写されてない幼少ティナにも会ってみたい。
「アズリの里、実際見てみたらどんな感じだった? てか記憶思い出したときちょっと感動しなかった? 漫画の世界に生まれ変わっちゃったよ、みたいな」
つい興奮してしまう。
いや、でもこの感動は同じ転生者の北橋としか分かち合えないし。
『あー……』
通信機の向こうの北橋は、どこか困ったような声を出す。
『俺のことの前に一つ聞きたいんだけど、────え、お前生まれ変わったの?』
「は?」
『なんでかミラの姿になってるし、さっきも生まれ変わったとかいうし』
「いや、当然でしょ。私ら終業式の日にさあ」
『火事に巻き込まれた』
「そう」
高校一年一学期の終業式の日、部活もないのに校舎に残ってくっちゃべっていた私たちは、バンっという突然の破壊音を聞いたかと思うと一瞬にして火に囲まれてしまった。何とか逃げようとしたけど、結局逃げる際中に建物が倒壊してきて転生したというわけだ。
『で、その後だよ』
「その後? 私になったけど」
だから死後のあれこれは一切記憶にない。あるのは生きてた、生きてるときの記憶だけ。
北橋が困ったように小さく息を吐く。
『詳しい話がしたい』
北橋のその言葉に、私はふと先ほどのマオ先輩の言葉を思い出す。
『会って話そう。今からいう場所に一人で来てくれ』
結局手紙をもらったマオ先輩はどうしたのか。
『俺たちはまだ死んでない。元の世界に戻れるんだ』
私はどうすればいいのか。




