第九話 信じること
「ここまで来りゃあ追ってこねぇだろ…。しばらくはあの村にゃ入れねぇな。」
逃げ続けた僕らは、村から数km離れた大きめの丘に避難した。ここから村がよく見える。
「ジェナード…大丈夫かァ…?」
「えっ…あぁ、うん…。2人のおかげで、怪我もしてないし…平気……。」
さっきの光景がまだ脳裏にこびりついている。あんなに沢山の人達から、あんな視線を受けるのは、わかっていても流石にきつかった…。
「すまねぇ…また俺は……面目ねぇぜ…。色々と迂闊だった…。」
「気にしないでよ…今回は事故なんだから…。」
「ごめんな……だが、何でバレたんだ?魔法はそうそう切れないはずなんだが…。」
「なんか、ジェナードの腕から、いつものジェナードの色が見えてよォ。」
「ん?…ジェナード、お前なんかしたか?」
「そういえば、なんかずっと痒くて…結構掻いてたかも…。」
「あぁ〜…マジか……アレルギーだったか…。事前に確認しなかった俺が悪い。すまねぇ…。」
「アレルギー?」
「過敏症ってやつだ。本来危なくないものでも、触れたりしちまうと体が異常に反応して、その物質を排除しようとするんだ。ジェナードの場合、掻きむしりと体内の拒否で魔法が剥がれ落ちたんだろう。食いもんとか花とかにも反応する奴もいる。だがまさか魔法アレルギーだったとはな…。」
「治る方法ってあるの?」
「あるにはあるが…アレルギーって魔法で基本治すからなぁ…そもそもの魔法がダメなんじゃちょっとわからねぇ……症例もほとんど見ねぇし……。」
そうやって2人で色々と話している間、ふと横を見ると、ラーガスがどこか浮かない顔をして考え込んでいた。
悩み事なんて、なんだか珍しいな、失礼だけど。
「どうした?ラーガス。」
「…ん?あぁいや…。…オレ、さっきジェナードを担いでた時、いろんな奴らに見られた。大体の奴らが…その、嫌な目を、しててよォ。さっきリリィが言ってたこと、ちゃんとわかってなかったんだ。オレらが、嫌われてるって、こと…。」
「ラーガス…。」
「それで…ガルナ、ジェナード、頼みてェことがある。」
「なんだ?」
浮かない顔から一転、ラーガスは気合を入れたような表情で、僕たちに衝撃のひと言を言ってきた。
「もう一度、オレ達の村に戻りてェ。」
「えっ!?」
「はぁ!?いや、何言ってんだラーガス!!その“オレ達の村“ってのはつまり…ゴブリン共の住みかってことだろ!?どうしたんだ!嫌になっちまったのか!!?」
とてつもなく焦った様子で、ガルナはラーガスを問い詰める。僕だって焦ってる。
どうしたんだラーガス…一体何が…。
「ちげェよ!そうじゃねェ!!あの目を見て、村のこと思い出したんだ…。そりゃオレだって、長とか、他の協力してた奴らも大っ嫌いだ。でも、それ以外にも良い奴はいた!ソーイとか、ロバンとか…多くねぇかもしれねェけど、それでもいたんだ!そいつらとかを連れて、ゴブリンは悪い奴ばっかじゃねェって、皆に見せてェんだよ!」
「…っ!」
そう…なのか?いや、僕は関わるひとが少なかったから、そう思っただけなのかも…。
ひょっとしたら、他にもいたのか…?僕やラーガスみたいな、村の伝統に異を唱える者が…勇気が出なくて、誰にも言えなかった者が…。
考えていると、ガルナは少し考えた後、ラーガスに問いかけた。
「…お前の言う良い奴とやらは、いるかもしれない。ひょっとしたら、どんな悪人よりもよっぽどの善人が。…だが、お前の言ってることは、不可能に近いだろう。今や世界中で、ゴブリンという生命体は、種族ではなく、もはや害獣として見られている。お前達が隠れ、生きるだけでも難しいんだ。ましてや世界に認めさせるなぞ、お前達2人でさっきの村の連中と一緒にダンスでも踊れと言ってるようなもんだ。つまり、無理だ。」
「そんなのわかんねェだろ!じゃあ、サロウやリリィ、お前はなんなんだ?オレらと一緒にいてくれたのも嘘だったのか?ちげェだろ。オレらを信じてくれて、一緒にいてくれた。…オレにとっちゃ、それだけで理由は十分だぜ。それに、だんすとやらもいつかおどってやるよ!アイツらと一緒にな!」
それは例えで言ってたんだろうに。ちょっぴり呆れながらも、ラーガスの言ったことに、僕は驚いていた。
僕はそもそも、受け入れてもらうということが頭になかった。嫌われているなんて、当たり前なのだと、隠れて生きるのが、正解なのだと。でも、ラーガスはそれに真正面から挑もうとしている。真っ直ぐにしか考えられない彼だからこそ、その考えに至ったのだろう。
ダンス発言にガルナはポカンとしていたが、次第に顔つきが緩み、ラーガスに笑いかけた。
「…そうか。俺達が、理由…。へっ、嬉しいこと言いやがる。わかったよ。どこまでもついてくさ。ダンスも見れるかもしんねぇしな。」
「…おォ、そりゃよかった!ガルナもいたら、めっちゃ嬉しいぜ!」
「ありがとよ。じゃ、その村に向かう前に、色々聞かせてくれ。村の特徴だとか、あと…」
そう言うと、2人はいつもの雰囲気で話し合いを始めた。
「それじゃ、僕が教えるよ。細かい地形とか。」
奴隷救出時も、ガルナとの戦いも、今回だって。2人に混じりながら、ラーガスが友達で本当によかったと、僕は心から思った。
間の書き方を変えました。
余裕があれば前回までの話も修正します




