第十話 他のひと
「この森ん中にあんのか?随分薄暗ぇな。」
魔法バレ事件から数時間後、嫌な顔をしながら呟いたガルナを横目に、僕ら3人は、件の村がある森の入り口に辿り着いた。既に外は暗くなりつつあり、それ以上に森は暗さを増していた。
「…戻って、きちゃったね…」
「だなァ…。…ウマくいくといいけどなァ」
「厳しいだろうなぁ〜…。まぁ失敗しても大丈夫だろ!俺が2人まとめて守ってやるからよ!おっさんに任しとけ。」
そう言って胸を叩くガルナは、本当に頼もしい。ラーガスも勿論強いが、ガルナは持ち前の肉体と長年の経験からか、ただの旅人にしては凄まじく強いのだ。
さっきも斧で床を叩いた時に、すごい衝撃波を出してたし、多分まだまだ知らない力を持っているのかもしれない。
「んじゃ、入っぞ。…ぅぐっ…」
「っ!ガルナ!大丈夫?」
「どしたァ!?」
「いや…大したことじゃねぇ…この森、やばいな……当たり前かもだが…あのクソどもの臭いが、至る所に立ちこんでやがる…入った瞬間にこれかよ…」
「だ、大丈夫?きつかったら、今日は中断しても…」
「…いや、平気だ。慣れてきた、今までにも感じた臭いだしな」
「え!オレら臭かったってこと!?」
「あぁ〜…いや、そこまで……じゃねぇぞ?」
臭かったみたいだ。ことが終わったら体を改めて洗おうと、僕は決めた。ていうか、そんな臭うんなら酒場に居た時も不味かったんじゃないか?多分バレてなくても追い出されてたかもしれない。
そんなことを考えながら、僕らは森を進んでゆく。東から進むのが村への最短ルートだが、川にかかる橋が壊れてたから、今回は西側から進むことにした。それに、東側には見張りがいるかもしれない。
どの道見つかるかもしれないが、村に向かう途中で見つかっても面倒だ。
「…なんか、妙に見張りがいねぇな。こういう時、何体かいるもんだが…」
「逃げる時、色々あって撃退したから、その影響かも」
「撃退ぃ?お前ら…何したんだよ」
「ちょいとかけらを纏めて、ぶつけた…みたいな」
「はぁん…?」
何言ってんだ、とでも言いたげな顔で見てくるガルナに僕は苦笑した。
確かに今思えば、だいぶ無茶苦茶な戦術だったかもしれない。
「ま少ないなら少ないで楽でいいんだけどよ…木が少なくなってきたな……。…っ!あれか?」
「あ…!」
進んでみると、見慣れた景色が広がっていた。
木や藁で作られた家屋、奪った物を保管する倉庫、色とりどりの植物が育てられている畑、そしてそれに囲まれているようにそびえ立つ長の土像が見えた。
…いつしか慣れきっていたが、改めて見るとあまりにも趣味が悪い村だ。
それに同意するかのように、眉を顰めに顰めるガルナの顔が視界の端に見えた。
「…何だありゃ…気持ちわりぃ……お前らあんなのが好きなのか?」
「いや別に…」
「オレは好きだぜ?長じゃなかったらもっと好きだけどな!」
草むらの影に移動しつつ、そんな話を続ける。…この辺りでいいかな。2人に合図し、ここに静止させる。
「じゃあ嫌いなんじゃねぇか…で、始めるんだろ?準備はできてるぜ」
「うん…じゃあ、1発お願い、ガルナ」
「おうよ、ほいっと。スゥ━━」
ガルナは口元に魔法をかけ、息を吸い始める。そして、
「「「敵 だ あ あ あ ぁ あ ぁ ぁ ー ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」」」
その瞬間、とてつもない轟音が村中に響く、当然村の者らは飛び起き、何事かと外に出る。皆うつらうつらとしながら、突然の轟音に混乱しているようだ。
間髪入れずガルナはもう一言叫んだ。
「「「東 ぃ ! 壊 れ た 橋 の 方 か ら 人 間 が 攻 め て き た ぁ ! ! ! !」」」
「…あぁ!?何が起こっとる!何故人間が攻めてきた!!?」
「ど、奴隷を助けにきたんじゃ…」
「はあぁ?!昨日の今日じゃぞ!!?あのマヌケどもに持ってかれて、メスどもは空じゃわ!!そもそも、何故攻めて……ええぃ!お前達、こんか!!川は幅がある!渡ってる間ならワシらでもどうとでもなる!迎え撃つぞ!!」
「「は、はいぃ!!」」
困惑しながら怒る様子の長は、40人ほどの部隊を連れて、東に移動した。
「これでいいのか?まだだいぶ残ってるし、お目当ての奴が長とやらについてってたら意味なくないか?」
「大丈夫。長の部隊は、長に心酔してる者しかいない。それに、長がいなければ難易度がかなり下がる。後は僕が…」
「ジェナード、やっぱりオレが行ったほうが…」
「だめ!ラーガスは見た目の差が大きいんだから、いくら彼らとはいえ、バレちゃう!僕ならまだいけるはず…!」
そう言い残し、混乱の渦中にある、大量のゴブリン達の中に潜り込んだ。
そう、彼らはおバカなのだ。だから実質指名手配の僕がいても、そうそう気づかない。
「ソーイ!ロバン!いるかい!?」
まあまあな声で、件のゴブリンを呼びかけると、左右から、ゴブリンの間を掻き分けて、2人のゴブリンが寄ってきた。
「誰ダ?オラを呼んだのは…。」
「オレッちになんか…ん?………ッあ!オメェ!ジェ…」
「しー!!…余裕がないからさっさと聞くよ。村の伝統、種付け作戦について、どう思ってる?」
「な、なんでそんなこと…」
「いいから!ちなみにわかってると思うけど!僕は大っ嫌いだ!君たちは、どうなんだ!」
僕のあまりの勢いに気圧されたのか、2人は、ぼそっと答え始める。
「…そりゃ…嫌だァよ…。長に言われて何回かやろうとしたけど、やっぱり、女達は…すごく、悲しそうで…痛そうで…」
「オレッちもだ…あんなまでして…オレッちは、気持ちよくなんか……なりたくねェ…」
「…!」
ぽつり、ぽつりと出てきたそれは、紛れもなく、後悔と、反対の言葉だった。
僕は、わかっていなかった。この村の誰もが、楽しんでそういうことをしているんだと。正しいのは僕らだけなのだと。そう決めつけて、ラーガスのみ誘ったのだ。
…いるんじゃないか、ちょっと周りに目を向ければ、僕らに似た人達が、正しい人達が。…とにかく、これでこの2人は大丈夫だ!
「ソーイ、ロバン、…ありがとう……頼みがある。」
あとは、芋づる式だ…!
流石におバカなゴブリンでも、真正面でじーっと見てれば気付きます。




