第七話 同じ
頭のふらつきが落ち着き、目の前の人間を観察する。
片手で扱えそうな斧と丸い盾。
革で作られてそうな服と鉄でできた分厚い胸当て、風でなびくフードマント。
それらを身に纏う筋骨隆々の…30前後くらいだろうか…の、人間の雄。
…外見の情報と、僕らを鋭い目つきで睨んでいるその姿は、どう見てもそこらの村人とかには見えない。
「誰だ!?おっちゃん!!」
「あの村に世話になっている…ただの旅人だ。なんとなく散歩していたら、2匹のクズが、村を眺めていたのを見たんでな…。」
「…あ、あの…僕らは、あの村を襲うつもりはありません!何も、危害は…。」
「…随分流暢に喋るじゃねぇか。ゴブリンのくせして…まぁいい。じゃあ何故あの村を見ていた?何か目的があったんだろうが?あぁ?」
「それは!」
「さっき女の子達が村に来たろ!?オレ達が助けたんだ!!」
ラーガスのその言葉に、僕は頷く。できるなら穏便に収めたい…彼も強そうに見えるし、互いに傷つけあうのは…。
「助けた…ねぇ。じゃあ何だ?テメェらは自分たちが攫ってきた女共を、やっぱりここまで帰しに来たってか?なんにも手を出さずに?
つまんねぇ嘘ついてんじゃねぇぞ化け物共。」
「!!」
瞬間、彼は地を蹴り、斧を思い切り振り上げた。狙いは…僕!迫っているのはわかる。だけど体が頭に追いつかない!
振り上げられた斧が、みるみる眼前に近づき…
「ッぬぅッ!!」
「ラーガス!!!」
「へっへーん…さっきのカケラ、ちっとだけ持ってたんだ…んぬォらァ!!」
「うぉッ…!」
僕に振り下ろされた斧を、ラーガスが、先ほどの橋の残骸で受け止め、そして残骸で斧を押し返した。その勢いに驚いたのか、男はよろめき、背中から転んだ。
ラーガスなら、あの人間にも太刀打ちできそうだ…だけど勝てるとは限らないし、そもそも互いの怪我は避けたい……よし、彼が転んでる今がチャンスだ。
「ラーガスッ!」
「なんだァ!?」
「今から言うことをよく聞いて!」
手短に、素早く、作戦をラーガスに耳打ちする。
〜〜〜〜
思わぬ馬鹿力に、動揺してバランスを崩しちまった。いざ立ち上がると、チビのゴブリンだけが、何かの欠片を持って、こちらを見つめていた。
「…テメェのお友達、随分なパワーじゃねぇか。ホントにゴブリンか?ゴブリンってのは、弱っちいはずだろ?」
「多分…そうだと思う、けど…」
「ほーん。まぁいいさ、お友達はどこよ?逃げたか?…やっぱり同じか。仲間を置いて逃げるなんざ、ろくでもねぇな、テメェらゴブリンはよ。」
「ッ!…うあぁあッ!!」
頭に来たのか、チビは欠片をこちらに投げつけてきた。精一杯といった感じだが、あまりにも遅い。ヘロヘロしている。
仲間に逃げられ、侮辱もされて、終いにゃこれか。
最早哀れにすら思えてきた。もういい、とっとと楽にさせてやろう。
俺はチビゴブリンに近づくために、とんできたかけらを避け━
「ウオオオオオアアァアァアァ!!!」
「ッ!?なッ━」
歩いた瞬間、視界の端の草陰から、さっきの怪力ゴブリンが飛び出してきた!
まずい!こいつの攻撃を直に受けたら転倒どころじゃ済まねぇ!多分あばらがいくらか折れる!
かといってかけらを避けるために重心をほんの少し崩したからこいつを避けられん…!
一旦盾で衝撃を少しでも…!!
「チィッ!」
「“ソレ“で、守るよなァ!!」
そう言うと、奴はおもむろに盾を掴み、引っ張り出した。
「な、何しやがる!!?」
「んぐぐぐぐぐぐ…!!」
「頑張れ!ラーガス!」
まさか、腕をちぎろうと…!?
斧で斬りつけてやればいいのに、そんな余裕はなかった俺はそうはさせまいととにかく耐え続けた。
耐えているうちに、盾と腕をくくりつけている革ベルトが、ブチ…ブチ、と音を立て始め、そして…
「ぬぐぐぐ…ダラアァァァアイ!!!」
「うぉあ!」
「よし!!」
ついにブチィッと、音を立てて俺の腕から盾が離れてしまった。
そしてそのまま、怪力野郎は盾を両手で構え、俺に立ちはだかった。
「…何のつもりだ、おい…!」
「ドンとこい!!!」
「…。」
意味がわからん。何で盾をぶんどって、それで俺の攻撃を待っている?
俺は守る手段が無いし逆に奴には身を守る手段ができた。
攻撃するには絶好のチャンスだろうが。
「どうしたァ!?さァ、こいッ!!」
「一旦待て…。」
短時間に色々ありすぎてちょっと頭が痛い…一息ついてから、2匹のゴブリンに尋ねた。
「何がしたい?」
「…逃げたいので、攻撃を受け続けて貴方が疲れるのを待とうかと…。」
「そいつ強いだろうが。1発ぶん殴って気絶でもさせりゃいいだろ。」
「最初に言いましたが、危害を加えたくなかったので…。」
「…それで耐えまくろう、と?」
「はい…。」
何だこいつら。今までのゴブリンと同じかと思ったのに、まるで違う、何もかも違う。
少し眉間を押さえ、気づいたことを聞く。
「てことは、助けたってのも嘘じゃねぇのか?」
「あぁ、そうで…」
「おぉーーーーい!!!!」
遠くからけたたましい声が聞こえた。村の方向かららしい。目を向けると、狼の獣人と、金髪の女の子がこちらに向かってきている。…あぁ、なんだ。
「あァ!?サロウ!!?
「リリィまで!なんでここに!?」
「ラーガスの声が聞こえたから、急いで来たんだ!何があった!?」
「!おねえちゃん、あの人…。」
「え?…あぁッ!!」
俺に気づいたサロウとやらの獣人は、こちらを向くなり、頭を下げ始めた。
「す、すまない!旅人の者!この2人は悪いゴブリンではないんだ!むしろ、私たちを助けてくれた!だから、攻撃はしないでくれ!!頼む!!」
「お、おねがいします!」
続いてリリィという子も頭を下げた。
…はぁ、馬鹿みたいだ、ホントに…。
持っていた斧を背中に掛け、彼女らに声をかける。
「頭上げてくれや、嬢ちゃん達。もうわかったよ。頑なに攻撃しねぇし、トンチキなことばっかするし、それに、嬢ちゃん達が何よりの証拠だ。…本当に、良い奴らなんだな…。」
嬢ちゃん達だけに、頭下げさせるわけにゃいかねぇな。
俺はゴブリン達に向け、膝を地面につけ、デコを地面に擦り付けた。
「えっ、あの」
「止めんじゃねぇ。……勝手に勘違いして、その上攻撃して、すまなかった。一歩間違えてりゃ、とんでもないことになってしまってた…。それと、この子含め…女の子達を助けてくれて、本当に…ありがとう。感謝しても、しきれねぇ…!」
「…。」
「おっちゃん…。」
「…頭、上げてください。外での僕らの印象は知っています。勘違いも仕方ありません、貴方は、何も悪くなんてありません。」
…頭を上げ、改めて、2人の顔を見つめる。…何が、同じだ…。
……とは…何ひとつ……違う………。
〜〜〜〜
目の前の人間は、僕らを見つめながら、押し黙っていた。
「おっちゃん?」
「…ガルナだ。」
「えっ?」
「ダミナ・ガルナ…俺の名前だ。」
「…!ジェ、ジェナードです。」
「オレはラーガスってんだ!!よろしくな、ガルナ!」
「ジェナードに…ラーガス…。」
目の前の人間…ガルナは…聞いた名前を繰り返した後…
「良い……名前だな!」
快活で、だけど、どこか寂しそうな笑顔を、僕らに向けた。
小説って容姿の説明が難しいですね




