第六話 襲撃
「よ……ッとと!大丈夫か、お前ら!」
外に見惚れている間に、ラーガスの特大ジャンプによって、僕たちは川の向こう岸に着いていた。
「あ、あぁありがとう、ございます…。」
「リリィーーーーッ!!無事かぁーーッ!!?」
「あ、サロウお姉ちゃん…。」
よほど心配だったのか、サロウはリリィに大急ぎで駆け寄り、抱きしめた。
「ラーガスゥ!何故この子を先に連れてってやらなかったぁ?!私は後に回せと言っただろう!!?」
「あぁいやァ…ラストは2人一気に運んだ方が楽かなァ…ってよォ。軽いし…。」
「お前の跳び蹴りが間に合ったから良かったものの!危なかっただろうが!!」
「お姉ちゃん…大丈夫だから…。」
「私たち、助かったの?」
「ようやく、自由になれた…!」
3人と他の者の喧騒を横目に、僕は辺りを見渡していた。
緑豊かな草原、美しく澄んだ青空、遠くに見える建造物群……森では見たことなかった景色に、唖然としていた。
本で知った気になっていたけど、僕は、何ひとつわかってなかったことを実感した。
「……あ、そうだっあいつらは…?」
先ほど渡った川の向こう側を見ると、ゴブリン達は、悔しそうな顔をしながら、気絶している長を連れて、森へと帰っていった。
ひとまず、なんとかなった…かな。
大きく息をつきながら、これからのことを考える。
……よし。
「みんなー!ちょっとこっちに来て!」
僕の呼びかけに、みんなはこちらに近づいてきた。
「どうしたァ?」
「無事ゴブリン達から逃げきれたわけだし、とりあえず、みんなを安全な場所に移したいんだ。でも、僕はあまり森の外の地理を知らない。誰か、近くていい場所を知ってる?」
「あのー…」
少し無機質な声のほうを振り向くと、オークの女の子がこちらを見ていた。
「あぁ、えぇっと…」
「マリっす…。あっちが森で、向こうに見えるのが、王都なんで…多分、こっちのほうに小さな村があるかと…。ギルドもあると思うので、安全なはずっす…。」
「ぎるど?ってなんだァ?」
「なんだ、ラーガスは知らないのか。
まぁざっくり言えば、色んな者からの依頼を受けて、報酬を得る施設だ。王国公認の施設だから、安全だろうな。」
「おーこく?」
「そこからか…。」
さっぱりわからない、と言った様子のラーガスに、サロウはわかりやすく説明を始めた。
そこからは僕もよく知らなかったので聞いていたが、エラシアにはいくつか国があり、その中でも特に大きな王国、『ファン王国』なるものがあり、ギルドという施設はその国が発展させたものらしい。
うーん…本だけじゃ分かりきれてないことが多すぎるな…。
まぁ、捨てられた冊子のものだったし、仕方ないか。
「とにかく、そのギルドがある村が、今のとこ近くて安全なんだね?」
「そっすね…。ていうか、なんとなく場所はわかるんで、ゴブリンさん達はもう十分っすよ…。助けてくれて、感謝するっす。」
「え?いやいや、ここまで来たんだから安全なとこまで連れてくよ。ラーガスもいれば、安全だろうし。」
そう言うと、みんな、どこかほんの少しだけ、苦い顔をしていた。
「…あ、嫌だった…?」
「え?あぁいやっそんなわけじゃないっすよ!助けてくれたことにはマジで感謝してるんすよ!ただ…っすね…。」
「…言いたいこと、は…分かります。」
ちょっとだけしょんぼりしてると、リリィがフォローを入れるかのように会話に入ってきた。
「ゴブリンさん…って、ものすごく、嫌われてるんです。」
「えェ!?マジか?!」
「あいや、ラーガスさんのことじゃなくてですね…その、全体、というか…。」
「…あー、そっか、つまり、今回の件みたいなことか…。」
「……はい。」
思い出してしまったのか、リリィの声のトーンが一段と下がってしまった。悪いことしちゃったな…。
普通に考えて、そりゃそうだ。世間的に見れば、ゴブリンはメスを攫って好き勝手する、最悪の害獣。その凄惨さは、僕らの世代の数が物語っている。
僕もラーガスも関係なく、ゴブリンという生き物は、世界から見れば、『悪』なのだ。
「少し考えればわかることだったね…。ごめんね、みんな。」
「気にするな…お前達はあいつらとは違う、だからこうして、五体満足でいるのだからな。」
「オレ、嫌い…?」
「まだ言ってるのかお前!違うと言ってるだろ!本当に嫌いになるぞ!!」
距離は近いようだし…もし僕らが誰かに万が一見つかって、その誰かと傷つけあうことになったら最悪だ。
なら、ここは大人しく、彼女らと別れるのがいいはず。
「じゃあ、僕らはここまでにするよ。」
「はい…本当に、ありがとうございました。」
「ありがとう…。」
「命の恩人ね…。」
「ほんとうに、ありがとう…。」
リリィの言葉から、連鎖的に、みんなの感謝の言葉が飛び交う。色々あったけど、僕らの選択は、間違っていなかったようだ。
「本当に、感謝する…ところで、これからお前達は、どうするんだ?あの森には戻れないだろう?」
「もともと、あそこは嫌いだったし、別に未練はないよ。適当に旅して小さな洞穴とかを住みかにでもするよ。」
「そうだな!2人旅も、案外楽しそうだッ!」
「そうか…よし、みな、そろそろ行こう。…じゃあな、2人とも、またいつか。」
「…ばいばい。」
「うん、元気でね。」
「じゃあなー!」
ラーガスと共に手を振り、みんなを見送る。しかし、たった一夜の出来事だったのに…本当に長かったし、疲れたなぁ…。
でも、今日やったことは間違いなく、僕の一生で1番誇れることだ。
「ラーガス、僕、すごく胸が清々しいよ……ラーガス?どこ行くの?」
「…ああは言ったけどよォ…やっぱ心配だぜ…オレェ…。ちょっと遠くから見とこうぜ?」
「えぇ…あんな別れ方した後に?それに危ないってみんなに言われたからついていかなかったんじゃん…。」
「村に入るまでだって!もし途中でなんかに襲われたら危ねぇだろ!?村に入るのを見たらどっか行くからよォ!なぁジェナード〜…。」
「……もう、遠〜〜くからだよ?」
「おうッ!!」
こうは言ったものの、実際僕も不安だった。誰にもバレないところから見守れば、大丈夫だろう。
というわけで、大体100mくらい離れた草陰から、見守ることにした。ちょっとずつ移動をしながら。
みんな話しながら村へと向かってる。何かが近づいてる様子もなし……。
「そういやジェナード、さっきの川ん時、よく作戦思いついたよな?」
「7割型ラーガス頼りだったけどね。残りはサロウさん。ラーガスなら、残骸をひとまとめにできるだろうって思ったからさ。」
「言っちゃアレだけど…結構楽しかったな!特に長に、ドカーーッ!ってぶつけた時!」
「あれ絶対死んだと思ったけど、気絶みたいだったね。まぁ、死者は出ないほうがいいよね。」
少しばかり談笑してると、彼女達は、村らしきものを見つけたらしい。
喜びながら村へと入っていく。
なにも起きなくて何よりだ。
…というか、今気づいたけど、これ傍から見たら、僕らが彼女を襲おうとしてるように見え る ん
「ジェナード!!!!!!」
突如世界が高速で左に流れた。何が何だかわからなかったが、どうやらラーガスに腕を引っ張られたらしい。
頭がクラクラしつつも、ふと前を向くと、僕がいた場所に斧が深々と刺さっていた。
…嫌な予感が当たったらしい。
「直前でかわしやがったか。やっぱりテメェらは素早いもんだな、えぇ?」
目の前には、斧と盾を持ち、頑強そうな装備を身につけた、大柄で屈強そうな人間が、笑いながら、僕らを睨んでいた。
世界観がちょっとだけ固まります




