第三話 洞穴での激突
奴隷達が入っている牢屋は5つ。同じ牢屋に入っている奴隷もいるらしい。酷い話だ。
「ラーガス、鍵穴を壊して。なるべく音が鳴らないように。」
「任せろ!フンッ。」
ラーガスが拳を叩きつけ、バキッという音と共に、牢屋の鍵がひとつ壊れる。彼の怪力は本当に頼りになる。ラーガスがいなければ、きっと牢屋から出すこともできなかったろう。
「さすがだよ。その調子で、奴隷が入ってる牢屋の鍵を壊していって。」
「おう!フンッ。 フンッ。」
サクサクと鍵を破壊していく光景は、少し恐怖を覚える。それはさておき、彼女達を出さないと。
牢屋の扉を開け、眠っている茶髪の人間の女の子に話しかける。
「えっと…起きて!」
「んぅ……………ッ!!」
「もう大丈夫だよ!今から逃げ」
「ヒィ!嫌ッ…嫌ァッ!!」
起きて僕の顔を見た途端、彼女の表情が、恐怖に染まり、彼女は、悲痛な声を上げた。
「ちょっ…大きな声を出さないで…あぁいや」
「来ないで!来ないで、この化け物!!!」
しまった。僕は大馬鹿だ。彼らと同じ顔の僕が近づいたら、“そう“思われるに決まってるじゃないか。
どうしよう、これ以上の接触は彼女の精神を傷つけてしまう。どうすべきか考えているうちに、同じ牢屋から、誰かが飛び出し、
「ッ!」
僕の首に、鋭い何かを突きつけた。
「なんだ…貴様……ッ。牢屋を開けて、何のつもりだ…!彼女に…ち、近づくな…一歩でも、近づいた瞬間…貴様の、首…を掻っ切るぞ…ゲス野郎…ッ!」
声の主は、先ほど震えていた獣人だった。毅然とした言葉を喋っているものの、声も、体さえも震えていた。
「うォい!危ねぇな!怪我しちまうだろ!?」
「ッぅあ!あ、やめ…やめて…!」
焦ったラーガスが獣人の腕を掴み上げる。攻撃手段を奪われた彼女は、みるみるうちに子犬のように弱々しくなっていった。まずい!
「ラーガス!離して!怖がっちゃう!!」
「え?お、おう!」
手を離した瞬間、再び彼女は攻撃態勢に移る。
とても短い頻度で呼吸をしながら、体を震わせながら、こちらを見据える。
僕も息を整え、両手を上げる。
「ラーガスっ」
「えっ?あ、ああ」
理解したラーガスも、同じように両手を上げた。
「な、何の…つもりだ…!」
「僕たちは、貴女たちに危害を加える気はありません!貴女たちを逃がすため、出口まで案内します!」
「…ふざ、けるな!!そんなもの…誰が、し、信じる、ものか!!」
「お願いです、信じてください!絶対に、何かしようとする気はないんです!」
「…ッ……」
人間の子はまだ怯えた目で見つめる。獣人に至っては、まだ警戒を解く気はないらしい。うーん…仕方ない。
「では…こうしましょう。今から…僕の右腕の骨を折ります。」
「はァ!!?」
「なッ!?」
ラーガスも獣人もこれ以上ないくらいに驚いている。
「ここにいる彼に、僕の腕を折ってもらいます。危害を加えられないように、です。それでも信じられなければ、ご自分で逃げてください。だけど、僕らなら、なるべく安全に逃げられるルートを知っています…。」
「…だがッ…。」
獣人はたじろいでいる。これだけ言ってもだめか……やむを得ない。僕は右腕を、ラーガスに横向きに突き出した。
「ごめんラーガス、頼める?」
「…マジか?本気で言ってんのか!?ジェナード!!」
「本気だよ。彼女らが安全に逃げるために。信じてもらうために。これは僕なりのけじめのつもりだ。これだけじゃあ足りないだろうけど…。」
「だけどよォ…。」
くそっ。ここでこんな時間をくう暇は無いのに。急がなきゃ!
「迷ってる暇はない!ラーガス!思いっきりお願い!急いで!!」
「…アー!分かったよ!どうなっても!!しらねェからな!!」
そう言って、ラーガスが腕を振りかぶる。その腕は、思いっきり、僕の腕に……
「待ってぇ!」
つんざくような声が、洞穴に響く。それは、ラーガスでも、獣人でもなく、怯えていた、人間の声だった。
「……信じ、ます…。私たちを、助けて…ください…。」
「…リリィ…。」
人間の子の名前らしきものを呟いた獣人が、一呼吸置いた後に、こちらに向き直る。
「ジェナード…と、ラーガス……と言ったな…?」
「は、はい…。」
「おう。」
そう言うと獣人は、地面に拳をつけ、頭を下げた。
「私は…サロウ。先ほどまでの非礼…申し訳ない。…できることならどうか…助けて……くれ…ッ!」
…獣人は、とてもプライドが高い。そんな彼女の、サロウの、洞穴の汚い床に頭をつけた謝罪は、大きな…大きな誠意を感じた。
それと同時に、先ほどまでのやりとりで目が覚めたのか、リザードマンやオーク、他の人間達が、怯えた目つきで牢屋から出てきた。
僕は、サロウとリリィ、そして今起きた者達に告げた。
「…頭を上げてください。無論、そのつもりです。僕らで、ここにいる全員、必ず逃します。なので、僕たちを、信じてください。」
洞穴の牢屋の空気に、少しだけ、希望が流れた。
進みが遅くてすみません。




