3、ちょっと待ってくれよ
しかしそんな俺に束の間、再び驚愕する事態が訪れた。
決意を固めた昼食後の、五時間目の授業が始まる直前だった。
トイレに行って、ふんふーんなんて呑気に鼻歌を歌いながら教室に戻ってきた俺に、そんな無抵抗だった俺の両目に飛び込んできたのは、まさしく鶴羽の机上。
そしてそこに置かれた、またもや一冊のノートだった。
直視するつもりもなかった。
けれど先ほどの経験からか、俺は鶴羽の机の上にあるノートには目が留まるような癖が早くもついてしまっていたのかもしれない。
主人を留守にそのノートは無防備にも見開かれ、そしてその両面には気味が悪いほどのただの“棒線“がぎっしりと引かれていたのだ。
「………っ!!!」
長さが様々なただの棒線、されど棒線が、この度もご丁寧に、まるで一欠片もノートの余白なんて私は許さない!とでも叫ばんばかりに、両面のページ目一杯に引かれていた。引かれ尽くされていた。
俺は再び硬直する。
そして一切何も見なかったかのように目を閉じると、頭部の位置はそのままに、すいすいーっとカニの如く横移動し、ぬるりと溶け落ちるように自らの席に座った。
頭を抱えた。
鶴羽は、いよいよ限界なのかもしれない。
丸だけでなく、いよいよ棒線にまで侵食されちまって……
俺は涙を必死に堪える。
奴の精神状態は、俺の想像以上に遥か重大な領域にまで達してしまっているのかもしれない。
心は一度穴が開いてしまうと、修復するのがとにかく大変なのだ。
そんなことがあってはならない。
丸、棒線、ときたからには次はいよいよ三角形でもくるのだろうか。
なんの法則性かは知らんけども…
っていうか本当になんで書いてんの?
何を書いてんの鶴羽は…
授業のチャイムが鳴る。
いつの間にか戻ってきていた前席のでかい背中につられて俺もゆっくりと起立する。
塗り壁のようにでかいその背中を見つめながら、こいつの持つ悩みというのは一体どんなものなんだろうかと、ふと考えたりした。




