↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱く消える  作者: 風町 美束


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/5

2、覚悟を決めろ

 


 俺の目を回した張本人。


 鶴羽(つるは) 保(たもつ)。


 俺の前の席に座る、クラスメイト。


 俺と鶴羽は、あまり喋ったことがない。


「佐藤、プリント」

「お、さんきゅ」


 これくらいの会話レベルでしか、俺たちの間に発生したイベントは今のところ、ない。


 鶴羽はとにかく背がでかくて目立つ。

 クラスの中でも一番に背が高くて、きっと、190センチくらいはあるはずだ。


 背の高さに加えてなんせ体格もいいものだから、実際よりもさらにでかく見えてとにかく迫力のある奴だ。


 その体躯を買われて柔道部の助っ人になることも時々あるらしい。


 物静かな奴で、表情もあまり変わらない。

 笑っているところも見たことがない。どこか、朴訥とした雰囲気がある。

 でもだからと言って無愛想かというと、そうでもない。

 何を考えているのかはよく分からないけれど、でも聞いたら教えてくれそうな親しみやすさはありそうな感じだ。多分。



 だからこそそんな鶴羽が、あんな意味不明な丸ばかりを書いていることが不思議でならなくて、奇妙でならなくて、あの漢字テストの日を境に、俺は前の席に座る鶴羽のことが気になってしょうがなくなってしまった。


 無骨な鶴羽と、丸で書き殴られたあれが、どうにも結び付かない。


 だって丸なのだ。

 兎にも角にも、丸なのだ。


 ただ感情の赴くままに、暇つぶしで書いていただけにしては、狂気じみたような丸の数だった。


 何かそれだけ強烈なものが、鶴羽の中に眠っているということなのだろうか。


 あの恐怖の絵図が、まさしく鶴羽の脳みそ、心の惨状そのものだとしたら。


 …もしかして鶴羽は、何か深い悩みでも持っているのかもしれない。


 あんな大量の丸に脅かされるほど精神が疲れ果ててしまうくらい、何か辛いこと、苦しいことに苛まれているのかもしれない。


 本当に苦しい時、人は気軽にその悩みや苦悩を打ち明けられなくなる。

 自分の中に押し留め、ずっと滞留させてしまう。

 そしてその種は、いつか大きな爆発を起こす。


 そうなる前に誰かに相談、いや、俺にしてくれたっていい。


 まだそこまで仲良くない俺たちだけど、でもまだよく見知った相手じゃないからこそ、自分の心を打ち明けやすい、というケースだってある。


 そうなればむしろ俺は「適役」という名のバッターボックスに立てる。


 起こらなくていい悲劇は事前に起こす行動により消火が可能なことだってあるのだ。


 鶴羽、お前のその物静かな表情の奥に隠された、いや、丸で覆い隠された真実を誰かに、いや俺に打ち明けられることができたら、俺はーーー


「おいこらこのやろう」

「はっ」

「いい加減その百面相やめろ」


 パチン、と目の前で手を叩かれたようにハッとした俺の目の前には呆れ顔の幼馴染の男の顔があった。

 もぐもぐと忙しそうに弁当を食べる西門の頬袋は今日も見事なでかさだ。


「卵焼きが箸から落ちるぞ」

「あ…」


 指摘されるがままに手元に視線を落とすと、今にも卵焼きがバンジージャンプしそうな勢いで、俺の箸という命綱の先でぷるぷると身を震わせていた。


 ごめんな、卵焼き。 今お前を助けるぞ。


「昔からふたつ以上のこと同時にできないんだから、食べるか考えるかどっちかにしろよ」

「はい、すません」

「喉詰まらせたら危ないだろうが」

「はい、すません」


 全く…なんて言いながら眉間に皺を寄せ俺の心配をする西門の口に、今度は美味しそうなナポリタンが吸い込まれていった。


 俺は自分の質素な弁当と、西門のお重箱みたいな弁当をそっと見比べる。

 西門は、西門の母ちゃんが作る愛情弁当を毎日見事に平らげ、昔から大好きなサッカーに毎日勤しんでいる。素晴らしい学生の本分だ。


「なあ西門」

「なんだよ」

「タコさんウインナー1個ちょうだい」


 西門は最初こそ死んだフナのような目でじっとこちらを見てきたけれど、そのうち無言で俺の弁当の中にウインナーをひとつ入れてくれた。優しい。


「なあ西門」

「なんだよ」

「お前もさ、もし悩みができたら俺にでもいいし、ちゃんと誰かに相談しろよ。 一人で抱え込んだりしたら、絶対にだめなんだからな」

「は? 何いきなりなんの話」

「いいか、俺たちはまだ若いんだから。 そんな深く思い悩んで、自分の心まで潰しちまうことねえんだからな」

「はあ」

「話せば、意外と楽になれることだってあるし」

「ほお」

「丸に侵される必要なんか、これっぽっちもないんだからさ」

「おいちょっと待て。 なんだよ丸。 誰だよ丸」

「ありがとうな」

「は何が?」

「ウインナーんまい」

「…あっそ」


 全くなんなんだよ…なんてぶつぶつ言いながらも西門は再び弁当に手をつける。

 俺は可愛いタコさんウインナーを食しながら、心の中で静かに決めていた。

 それとなく、鶴羽にあの“丸“のことを聞いてみようじゃあないか、と。


 教室の隅に目を向けると、そこには机を四つ繋げて、いつものグループで弁当を食べている鶴羽の姿がある。


 鶴羽、待ってろ。

 お前がこれ以上丸に侵されないように、俺ができる範囲で、お前の悩みを軽くできるように頑張ってみるからな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。