第14話 朝のティータイム
前回のあらすじ「逃げるな卑怯者ーー!!(敵の心の声)」
―カーゴ達が脱出してから2日後「トライザル王国・王城 玉座の間」―
「……となりました。申し訳ありません!」
「魔王か……まさか姫を連れて行くとはな」
カーゴ達を襲った異形の女騎士ヒペリティスは玉座に座るこれまた異形の姿をした男の眼下で膝を付いた状態でファーレ一行を取り逃がしたことを報告する。異形の姿をした男……トライザル王国にてクーデターを起こした貴族にしてこの王国の第三騎士団に所属していたマフリオールは任務に失敗した彼女を責めることなく、自身の顎を手で擦りながら物思いに耽り始めた。
(かっこいい……♪)
その鍛え抜かれた肉体を黒く禍々しく光る昆虫の外骨格が覆い、そして自分こそが王だとアピールする2本の湾曲した角。その雄々しい姿に、ヒペリティスの鼓動は激しくなっていた。
「どうした?」
「いえ……」
ヒペリティスはマフリオールを見つめていたことを誤魔化すため、思っていたある疑問を尋ねてみた。
「質問よろしいでしょうか?」
「許す」
「どうしてあの姫をそこまでご所望なのですか? すでに王は崩御、この城は我々の物です。いまさら、あの姫に特別な価値があるとは……」
「俺も無いと思っている……が」
「私が必要なの」
すると、マフリオールの座る玉座の後ろから音もなく現れた1人の女。薄月夜のような紫色のロングウェーブ、その未成熟な見た目に反してどこか大人の色気を感じるのだが、年齢はカーゴやファーレと同じ10歳の少女であった。なお、マフリオールやヒペリティスが異形の姿をしているのに対し、彼女は人の姿のままである。
「あなたが……?」
「そうよ。あの姫に用事があるの……正確にはあの姫が持ち去った指輪にね」
「指輪ごときに、お前がそこまでご執心とはな」
「ふふ……そうね。あなた達には分からないかもね」
そう言って、不気味な笑みを浮かべる少女。その年端もいかない少女が放つ異様さにマフリオールとヒペリティスは漠然とした恐怖を感じていた。
「それで……その逃げた先は分かってるの?」
「コルチ山方面……そこに根城があるような口振りだったわ」
「コルチ山……確かあそこには廃棄された山城があったはずだ」
「あら。なら話は早いわね……さっさと捕まえに言ってちょうだい」
「この……」
少女のその命令に明らかな不快を表すヒペリティス。一方、少女の方もヒペリティスのことを思わしく思っておらず、両者は静かに睨み合いを始める。
「やれやれ……ヒペリティス。ビーエンス、ナドランジアと共に兵を連れてその山城にいるだろう姫を捕らえてこい」
「モスタビリスは?」
「ここを守る奴が1人は欲しいというのと……あいつは怠惰だからな。遠征に不向きだ。何か人選に不満があるのか?」
「1つだけ懸念があります」
「……魔王だな」
「陛下の仰る通りです。魔王を相手取る以上、生半可な戦力は使い物になりません。それこそ我々四芒星を総動員するべきかと」
「安心しろ。今季の魔王は四芒星の連中なら誰でも倒せるような軟弱な魔王らしい。1対1で戦うような馬鹿な真似をしなければ、ケガもせずに倒せるはずだ」
「……魔王の情報はそいつからですか?」
ヒペリティスはそう言って、少女を睨み付ける。少女はそれに対してニヤリと笑い静かに頷いた。
「……ということだ。こいつの予言が確かなのは知っているだろう?」
そう言って笑顔を浮かべるマフリオール。訊かれたヒペリティスも少女の予言に関しては一定の信頼があったため、変な言い掛かりをすることは無かった。
「了解しました。準備が整い次第すぐさま向かい、陛下の要望に応えてみましょう」
「頼もしい限りだ。期待しているぞ?」
「はっ!」
こうして、マフリオールの腹心の部下である四芒星が廃棄された山城に向かうことになった。だが、彼らは知らない……これが罠であり、本物の姫は魔王と一緒に別の場所に向かっていることに。そして、彼らは知らない……少女の言う魔王がカーゴではなく、カーゴに倒された魔王であることに……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ヒペリティスがマフリオールに報告した日の朝「マジョレーヌ公国・ペルタマ とある宿の一室」―
「うーーん……と」
「お目覚めですか?」
私がベットから起きると、すでに起きて仕度を整え終わっていたテノールが窓際に置かれた椅子に座って外の様子を伺っていた。
「おはよう……お姫様は……」
寝ぼけ眼でとなりのベットを見ると、そこにはぐっすりと眠るファーレ。すうすうと静かな寝息を立てており、出会った時と比べると体の容態は大分良くなったようだ。
「良く眠ってるね」
「はい。長時間の飛行移動で疲れたのかもしれませんね」
テノールはそう言って椅子から立ち上がり、ファーレの額に手を当てる。何も言わなかったが、その表情が柔らかくなったので、ファーレに熱が無いのは伝わった。
「そういえば、今って何時なの?」
「もう少しで10時ですね。まだお休みになられますか?」
「いや……起きるよ。夜が眠れなくなりそうだしね」
私はベットから起き上がりここまでの道中を振り返る。あの後、私達は空を飛び続け朝日が出る前に国境を通過することに成功した。そして、日が開けた後も飛び続け、昨日の正午にこの国境から少し離れた町へと到着した。ちなみに、この町は城壁で囲まれており、町の中に入るには城門を潜る必要があった。
(テノールが上手くやってくれて助かったな)
身分証を持たない私達がトラブルなく入れるかと心配したのだが、そこはテノールが巧みな話術と賄賂によって門番を上手く懐柔してくれたため、すんなりと中に入ることに成功した。
「ここの防衛大丈夫なんかね……」
「大丈夫ですよ。あんな門番はざらにいますし、一応ちゃんとした正規の方法で入っていますから」
「……賄賂を払ったのに?」
「それ以外はちゃんとした手続きを済ませてます。あの門番がわざわざ賄賂を受け取りましたと口にしない限りはですけどね」
「それは安心」
門番の顔を見たのだが、いかにも悪い奴って感じだった。少なくともわざわざ自分の罪を告白する奴では無いだろう。
「そういえば男連中は?」
「カーゴ様がご用意して下さったアレを売りに行ってます」
「アレか……買い叩かれるよね?」
「ええ、きっとそうなるでしょうね……まあ、予定通りですが」
「ん……」
私とテノールが会話をしていると、ぐっすり眠っていたファーレが体を起こし目を擦り始める。
「おはようございます姫様」
「うん。おはようテノール。それとカーゴ」
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。疲れていたのかぐっすりでした……」
そう言って、柔らかな笑顔を浮かべるファーレ。同じ顔とは思えないほどに可愛らしい笑顔である。私がその笑顔に見惚れていると、ファーレのお腹がくぅ~と可愛らしい音を立てた。
「……えーと」
お腹を鳴らしたファーレが顔を赤くしながら自分のお腹に手を当てる。それを見た私とテノールはくすくすと笑ってしまった。
「2人とも……!!」
「元気そうで何より……。で、どうする? この宿ってご飯出るんだっけ?」
「素泊まりなので出ないです。それなので、持ち込みか外で食べるしかないのですが……」
「ショルク達が帰ってくるまで待った方がいいか……」
私はマジックバックに手を伸ばし、そこから紅茶の道具一式と茶葉、それと手作りのハチミツクッキーを取り出す。
「ってことで、これでも食べて待ってようか」
「そうしましたら、早速紅茶をお淹れしましょう。まずはお湯……」
「チョット待ってね」
私は魔法で水を生み出しそのまま魔法で沸騰させる。そして、それをケトルに注ぎ込む。
「はい。お湯」
「「……」」
すると、テノールだけじゃなくファーレも驚いた表情のまま黙り込んでしまった。そういえば、魔法って色々制約があるんだっけ。
「……無詠唱で複数の魔法を使うって普通じゃないんだっけ」
「は、はい……カーゴ様が普通じゃないとは思っていましたが、こんな風にさらっと見せられるとは」
「ですよね。我が国一番の魔法使いでも無理です」
「そうか……まあ、便利だから何でもいいか。それよりお湯ってこれでいい?」
「あ、はい……すぐにお淹れしますね」
お湯の入ったケトルを受け取ったテノールはそこから手際よく紅茶を淹れ始める。淹れ終わるころには軽く髪をまとめたファーレも椅子に座り、3人で紅茶とクッキーをいただく。
「このクッキー……しっとりしていて美味しいです」
「それは良かった。砂糖が無いからサクサクに出来なかったんだよね」
あの洞窟で唯一見つからなかった砂糖。テンサイやサトウキビがあれば頑張って作ったとは思うのだが……。
「それでしたらこの町で購入されますか? 私としてもお食事を用意するのにあるなら欲しいと思っていましたし」
「テノールって料理できるの? お城のメイドならコックさんが準備してたんじゃないの?」
「姉が騎士でして……私がお城に仕える際に色々教えてもらったんです。コックのような手の込んだ物は無理ですが、普通の料理でしたら」
「私もいるから、旅行中の食事は大丈夫そうだね。ちなみにだけど……お姉さんもクーデターの犠牲に?」
「いえ! 姉はシェラ様の護衛として魔導帝国に同行したので無事ですよ」
「そうか……なら、せっかく生き残ったんだから、元気な顔を見せないとね」
「はい」
紅茶を一口飲み、そして花が咲いたような笑顔を見せるテノール。これまで不愛想な表情ばっかりだったが、その自然な笑みからして本来の姿はこっちなのかもしれない。
(2人とも無事に送り届けて上げないとね……)
それは私には叶わなかった事。あの辛い気持ちを彼女達が味わう必要は無い。私は彼女達が無事に家族と再開できるよう精一杯頑張ってみようと改めて思うのであった。ちなみにクロムは……何か独り身みたいだし大丈夫だろう。
簡単な腹ごしらえを済ませた私達は、男連中が帰って来る前に身支度を整え、すぐにでも出掛けられるように準備を済ませるのであった。




