第15話 旅支度 その1
前回のあらすじ「パンが無いならお菓子を食べればいいじゃない」
―朝食後「マジョレーヌ公国・ペルタマ とある宿の一室」―
「入ってもいいか?」
私達が身支度を整え終えた直後に、ショルクが扉を叩きながら中に入る許可を尋ねてきた。私は1度2人の確認をしてから入る許可を出す。
「遅くなったな」
部屋に入って来るショルクとクロム。フード付きのマントを脱ぎ、ショルクは椅子に座り、クロムはショルクの後ろに立った状態で成果を話し始めた。
「成果だが……まあ、こうなったな」
そう言って、ショルクが手に持っていた麻袋をテーブルの上に置く。ジャラッと重い音を立てる音からして、中々の硬貨が詰まっているのだろう。
「金貨20枚……あのクラスの魔石ならその倍以上はするんだが買い叩かれたな」
「クロムが交渉しなければもっと安く買い叩かれた。十分頑張ったと私は思うぞ」
そう言って、成果を話す2人。2人共残念そうな顔をしているが、私からしたら十分な稼ぎだと思っている。
「十分でしょ? あんな魔石ならいくらでも作れるし……」
私はそう言って、人差し指の先端に目に見えるくらいに濃い魔力を込め始める。それを球体にしたら、さらにその周りに同じ魔力を流し込んで、さらに球体を厚くする。そして、それを続ける事1分……。
「はい。完成」
私はそう言って、テーブルの上に手の平大の魔石を転がす。魔石のサイズとしては中ぐらいのものであり、これならチョットだけ強いダンジョンのボスが落とすサイズとのことだった。
「魔王のモンスターを作り出す魔法を応用しての魔石生成とは……」
「カーゴのアレは非常に面白いだろう? 実験には非常に大助かりな魔法だ」
「それで片付けちゃいけないんですけどね……」
ショルク以外の全員が困惑した表情を浮かべる。ちなみに魔石を作る事は可能であるのだが、いくつかの貴重な機材とかなりの時間を掛ける必要があり、また大きさもビー玉サイズが限界とクロムから聞いた。それと、ショルクも私の指導で魔石を作れるのだがビー玉サイズが限界であった。
「タダ同然で手に入る魔石を売り飛ばすだけだし、最初の金策としては上々でしょ。ちなみに、これ以上売るのは不味そう?」
「少なくともこの町では止めといた方がいいと思うぞ。この宿代にも使用したことだし……売るなら次の町だ。それでいてハンターギルドに売るのがいいだろう」
「クロムの意見に私も賛成だ。それに、これだけの金があれば旅の支度を整えるのには十分だと思うのだが……」
そう言って、テノールに視線を向けるショルク。意見を求められたテノールは一度考える素振りを見せてから自分の意見を話し出した。
「私も足りると思います。姫様に安物を身に着けてもらうのは失礼ですが、高額な装備は逆に賊に狙われかねませんし……。ですが、姫様が持つ武器に関してはしっかりとした物を……」
「そう……だな」
ファーレに武器を用意する話になってテノールとクロムの表情が暗くなる。守る主君に武器を持ってもらうことに抵抗があるようだ。
「2人とも気にしないで下さい。大勢の人に紛れてバレないように移動するのはカーゴから聞いていましたし、それに皆さんが戦っている中で1人だけ守られているのは心苦しいですから」
「お言葉ですが、まだ病から快復したばかりです。そんな姫様を戦わせるなんて思っておりません。必ず私がお守り致します」
そう言って、自分が守ると主張するクロム。だが、旅をしていく中で離ればなれになる可能性も十分に考えられるので、私としては自衛が出来ていて欲しいのだが……。
「なら……私が魔法を教えようか? 姫様に飛翔魔法を覚えられるかもとか言った手前、しっかり教えてあげようと思うんだけど……」
考えた結果、私は自分がファーレに魔法を教えることを3人に提案する。ファーレは笑顔でその提案に乗ってくれるのだが、他の2人は否定的であった。
「それこそ魔法は才能が関わってきます。これまで魔法を一度も使った事のない姫様が使えるようになるとは……」
「俺も一度試してみたがダメだったしな」
そう言って、難色を示す2人。しかし、ファーレの細腕では肉弾戦は不向きな以上、魔法やそれこそ前世にあった銃などの武器が合っていると思う。
「とりあえず試してみたらどうだ? そこのカーゴの教え方は普通とは違う。もしかしたら隠れた才能を開花させるかもしれないぞ?」
そこにショルクが助け舟を出す。それを聞いた2人はそれならと渋々承諾してくれたので、早速、私はファーレに基本的な魔法の指導を始める。
「そうしたら……まずファーレの手から、私の魔力を流すからそれを感じ取って見て」
「は、はい」
私は緊張しているファーレの両手を掴み、早速魔力を少しだけ流してみる。先日、ショルクに魔力を抑える方法でこれを教えてもらったが、それをこのような応用した形で使うことになるとは思ってもいなかった。
「どうかな」
「何か……こう温かい物が全身を流れる感じがします」
目を瞑りながら何かを魔力を感じ取ろうと必死になるファーレ。それから強弱を付けながら流してみると、ファーレはそれをしっかりと感じ取れていた。
「おっ。しっかり感じ取れているみたいだね……。そうしたら、初歩中の初歩である水を生み出す魔法を使ってみようか。イメージはその温かい物を両手から放出して水を生み出す感じね」
「あ、はい」
私は邪魔にならないように、ファーレの両手を離し、少し後ろに下がったって彼女の様子を見守る。
「私に恵みの水を……」
そう唱えながら、両手の中に水を生み出そうと集中するファーレ。
「うーーん……」
小さく可愛い唸り声を上げながら頑張るのだが、だんだん顔に力が入り頬が赤くなっていく。
「はぁ~!! ダメですね」
そう言って、力を抜くファーレ。そこで私はファーレの両手を握り、先ほどと同じポーズを取らせる。
「よし。そうしたら私の言葉に耳を傾けながらやってみようか。力は要れなくていいからなるべくリラックスしてね」
「はい」
そう返事をして、先ほどよりかは力を抜いた状態で再び目を瞑るファーレ。私はそれを確認してから、ファーレに言葉を掛けていく。
「まず、ファーレはどうやって水を生み出そうとイメージした?」
「それは両手の中に水を……」
「じゃあ、その水はどこから来た物なの?」
「え? それは……魔力から?」
「残念。正解はこの空間からだよ。水というのは目に見えない形で周囲に漂ってるの。魔力がするのはその水に働きかけて、両手の中に集めるだけ」
「周囲に水……?」
「ほら。水を沸かすと湯気が出て来るでしょ。アレって水が形を変えたものでしょ? あの湯気ってすぐに消えちゃうけど、そのまま周囲に漂っている状態なの」
「は、はい……? つまり、私は水の中にいるって事でしょうか……?」
「まあ、間違ってはいないかもね……。でもそう考えるなら出来そうじゃない? 周囲が水ならそれに自分の魔力を流し込んで、自分の両手の中に移動させるなんて」
「……私の魔力を周囲の水に流し込むんですね」
ファーレがそこから静かに両手の中に空気中の水分が集まるように集中する。そして……。
「きやぁ!?」
ファーレの悲鳴と共に両手一杯の水が床に零れ落ちる。その一部はファーレの衣服にかかってしまい、座りながらやったので、ドレスがびしょ濡れになってしまった。
「上出来上出来!! もっと上手になれば……ほら」
私はファーレのドレスに手を当てゆっくりと濡れた箇所を撫でる。私に撫でられた箇所はしっかり乾いており、私はそのまま濡れた箇所全部を乾かしてしまう。
「こんな風に衣服を乾かすことも出来るんだよね。どうかな……って、どうしたのあんたら?」
そこで私はテノール達が驚きの表情のまま固まっていたことに気付く。
「何って……無詠唱で水を生み出したんですよ? そんなの高位の魔法使いでも出来るかどうか……」
「嘘だろう……」
「うむ。やっぱりカーゴは教えるのが上手いな……いや、やっぱり知識の差か? そうなると、カーゴは一番恐ろしい魔王になるかもな」
「ああ……ファーレのように無詠唱で使える魔法使いを増やせるなら、時間を掛ければこの世界では無敵の軍団を作れちゃうのか……」
私はそこで玉座に座り悪い笑みを浮かべる自分とたくさんの魔法使いの軍団をイメージする。人間側は魔道具や詠唱を唱えてもたもたしている間に、こっちは私の指示で一瞬にして魔法が放たれ、蹂躙している様子が頭に浮かんだ。
(火縄銃相手にマシンガンで迎え撃つ物か……)
「凄いですね……」
ふと、私がファーレから目を離している隙に、彼女は水魔法を使って、空に水で出来た魚を生み出していた。それは窓から光る日光を乱反射させ、ファーレの周囲を優雅に泳ぎ回っていた。
「おお……うまいうまい。これならモンスターの頭を水で覆って窒息させたり、強い水流で敵を弾き飛ばしたりとか出来るかも」
「本当ですか! 私も……戦えますかね……」
そう言って、自分の服を強く握りしめながら俯くファーレ。集中力が散漫したためか、空を泳いでいた魚は形が崩れ、そのまま床に落ちて小さな水溜まりとなってしまった。
「……言っておくけど、私はファーレに戦うために魔法を教えるんじゃないよ」
私は俯いているファーレの顔を見るため、ファーレの前で屈み見上げるようにして彼女の暗い顔を見る。
「あんたの魔法は守るため。自分や家族に仲間……自分の大切な物を守るために魔法を使うの」
「戦うとは違うのですか……」
「戦うってさ。守る以外にも復讐とか誰かの物を奪うためとか、私利私欲のためとか……戦うなら目的は何でもいいってことでしょ? ファーレにはそんな事のために使って欲しくないかな……あ、そこのオッサンを驚かすためのイタズラ目的とかは推奨するからね」
「おい!!?」
「少しくらいいいじゃん。姫様の魔法の実験台なんて名誉じゃない?」
「な、訳……いや、特訓とかそういうなら付き合いますが……」
「ふっ……」
失礼の無いようにどう取り繕うかと慌てふためくクロムの姿に、思わず小さく笑うファーレ。そこで私は最後にこの話を締める。
「もし、クーデターの首謀者が許せないなら身に着けた魔法で復讐してやればいい。でもね。そんな奴に構ってあげているなんて時間の無駄なんだから、サクッとやって、サクッと終わり。それよりもせっかく病気が治ったんだから人生を楽しみなよ」
「……はい」
そう言って、私に微笑むファーレ。だが、その淀んだ瞳と、どこかぎこちないその笑みに、やっぱり彼女の心の奥底には父親を殺したクーデターの首謀者へのどす黒い復讐心がくすぶっているようだった。
(まあ……当然か)
私は本心を述べた。父親を殺され、その犯人をその手で惨たらしく始末しなければ、ファーレの気が済まないのも分かっているから復讐もしょうがないとは言った。
(だけど……まだほんの10歳の女の子が復讐のために人生を台無しにするなんてして欲しくないかな)
きっと、彼女の父親……王様もそう思っているに違いない。会ったことはないけど、この3人の様子を見ているとそんな気がするのであった。
「カーゴ。ぼーっとしてますけど、どうかしましたか?」
「ううん、何でもない。それより買い物にいかない? ファーレの武器もこれで決まったでしょ?」
私はそこで視線を他の皆に向ける。すると、私の気持ちを察してくれたらしく、買い物へ出掛けるために早々と部屋を出ようとする。
「ほら、行くよ」
「はい!」
差し伸べた私の手を優しく掴むファーレ。そして私達もこの部屋を後にするのであった。




