第10話 招かれざる客
前回のあらすじ「この世界では鉄道を走らせたい!(作者談)」
―話し合いが終わって数時間後「ナノリスの洞窟 最下層・コテージ内」―
3人での話し合いが終わり、クロムは再びファーレの護衛に、そしてショルクとカーゴの2人はリビングでダンジョンを出るための準備をしていた。
「……ん?」
ダンジョンから出るため魔力の操作をショルクから教わっていたカーゴが外の異変に気付く。それはショルクも同じであり、今いるリビングから見える玄関の扉に目を向けていた。
「どうやら客のようだな」
「……3、4人?」
「4人だ。探査系のアビリティはまだまだだな」
「そうみたい。これだけ近いのに把握できないし。ん?」
2人が外にいる奴を出迎えるために、武器を持って外に出ようとするとそこにクロムが2階から下りて来た。
「刺客か」
「そうみたい。どうせ来るんでしょ? そこに剣を置いてあるから持っていきなよ」
カーゴはそう言って壁に立てかけている剣に指を差す。リビングに下りたクロムは壁に置かれていた剣を、特に警戒することなく手に取り肩に担いだ。
「武器を持たせていいのか?」
「お姫様を守るんでしょ? しっかり武装しなよ」
そう言ってカーゴはクロムから視線を外した。それは信頼しているのか、いつでもやり返せるからなのかとクロムの気持ちは複雑であった。そんな中3人は各々武器を手に持って外へ出ると、外にいたのは頭も含む全身をボロボロの鎧で覆った4人の騎士だった。
「……さて、この家に何か用か?」
このコテージの主であるショルクが対面する4人の騎士に尋ねる。すると、騎士の1人が全く見動きを取らずに返事をした。
「ヒメヲ渡セ」
その騎士の声にカーゴは眉をひそめた。その声に聞き覚えがあったからだ。だが、それは誰の声のものとかそういうのではなく、前世のSNSで聞いた動画作成によく使われる機械の音声……それにそっくりだったのだ。
「お前達。正気なのか? こんなことをして本当に国が……」
「ヒメヲ渡セ」
クロムの問いに抑揚のない声で同じ言葉を繰り返す銅像のように動かない騎士。それは他の3人も同じで全く動く気配が無い。カーゴはそこで思わずある言葉を呟いてしてしまう。
「(ねえ……こいつらって何? 人間じゃないの?)」
「(な訳無いだろう。騎士団にそんな奴は……)」
「断る。どうぞお引き取りを」
「……」
カーゴとクロムの2人が小声で話をしている中、ショルクは騎士達に引き渡しを断ることを再度伝える。それを聞いた騎士達はそのまま黙り込むのだが、その間も、騎士達の体は微動だに動かなかった。その様子にただならぬ気配を感じた3人の武器を持つ手が強くなる。
「コロセ。邪魔者ハ排除シロ」
騎士のその言葉に、戦闘になると判断した3人が武器を構える。そして、騎士達は自身が付けている頭のヘルムを上に弾き飛ばした。
「え? きゃ……!?」
予想外の出来事に驚くカーゴ。そして、ヘルムの弾け飛んだ後の頭を見て小さな悲鳴を上げてしまった。
「ど、どういうことだ……。何が……?」
そして、その顔を見た同僚のはずであるクロムも驚きの声を上げる。あったのは人間の顔ではなく、異形の顔……犬のような顔をした者。人間の顔だがパンパンに膨らみドロドロに溶けた顔をした者。半分だけが例えがたい異形化した者と人間と呼ぶには難しい顔をしていた。
「ねえ、ショルク? こいつらって、に、人間……なの?」
「そんな訳無い。おい! クロム! お前の所は人体改造でもしてるのか!?」
「断じてない!! 俺達がいい証明だろう!」
予想外の敵に3人が戸惑っていると、4人の騎士だった何かが今度は身に纏っていた鎧を弾き飛ばし、昆虫のような脚が体から突き出すという異形化した姿を見せる。
「……どうやらかなり面倒なことに巻き込まれたようだ。カーゴ、クロム、こいつらはすでに人間じゃない。情けとかかけるな」
「……うん」
「……ああ」
ショルクに奮起を促された2人はすぐさま武器を構え、こちらへと向かって来る化け物達と戦闘を始める。
「よっと……」
カーゴは敵の口から吐き出された液体を避け素早く懐に潜り込む。そしてハルバードモドキの杖で敵の胴体に深い切り傷を作った後、すぐさま炎魔法の一種であり高温の火球で敵を燃やす『フレイム』で追撃して敵を焼き尽くす。
「はあ!!」
クロムはその大剣で敵の攻撃を弾いた後、そのまま強力な振り下ろしで一刀に切り伏せた。
「おじいちゃん。そっちは……」
「終わった」
そう言って、敵に背を向けたまま涼しい顔をしたショルク。その敵は地面を隆起させて作った無数のスパイクで串刺しにされていて、すでに絶命していた。
「君もなかなかやるな」
「いえいえ、それほどでも」
ショルクの誉め言葉にクロムは謙遜を示す。謙遜の理由として、こちらに気付かせる事なく、静かにこれだけの魔法を放ったショルクの実力に自分の実力など児戯に等しいと思ったのが理由である。
(しかし……)
そして、それはカーゴに対しても同じであった。まだまだ動きは荒いが、物理攻撃から無詠唱による魔法攻撃という、その無駄のない動きは中々のものであり、魔王で無ければ騎士団へ勧誘したいほどだった。
(魔王にはまだまだ伸び代が見られる。今でも強いが成長中とは恐ろしいものだな)
騎士として20年勤めていたクロム。体力とかでは若い奴には負けるかもしれないが、その長年の経験に知識、技術をもってすれば、例え魔王相手でも後れを取らないと自負していた。が、実際に目の前のカーゴと相対し、その強さを目の当たりして、その考えを改めていた。
(敵わないな……)
自分がこれからどうするべきかはっきりしたクロム。主君のため、騎士としては恥ずかしいことかもしれないが、魔王と協力しようと心の中で決心するのであった。そんなクロムの決意の中、ショルクとカーゴは倒した騎士の体を調べていた。
「おじいちゃん。この騎士だけど……人間に昆虫を混ぜ合わせてるのかな?」
「混ぜ合わせてるかと言われたらどうだろうな。そんな術を私は知らない。新しく生み出された技術なのだろうか……それともアビリティか……。全く予想できないな」
ショルクは髪を乱暴に掻きながら、騎士の体から突き出た昆虫のような脚に触れ、カーゴは触れずに倒した騎士達の体を観察していく。
「間違いない。昆虫の脚だ。だが、そのサイズだな……昆虫型のモンスターを移植? こっちの背中に脚が付いているタイプはその脚の先にある爪で敵を串刺しにする気か? この腹の奴は……捕らえた後、口の顎で頭を砕くタイプだろうな……ふむ」
「この4人だけど……同じ昆虫かも。脚のサイズの違いはあるけど、同じ形の2本の爪と同じ箇所に生えている細かい毛……違う昆虫と考えるのは難しいかも」
「うむ……カーゴは心当たりあるのか?」
「それなんだけど、おじいちゃんと戦った奴らってさ、何か液体を吐いたりしなかった?」
「あのドロドロの顔の奴が吐いたぞ。当たらずに地面に落ちて行ったが……それがどうした?」
ショルクが騎士の吐しゃ物に指を差しながら説明をする。カーゴはそれに近付くと鼻を刺すような強い刺激臭を感じ取り、この騎士達が何の昆虫が混ざっているのか当りを付ける。
「恐らくだけどアント系だと思う。この吐しゃ物だけどギ酸って言って、一部のアント系が使う酸だと思うんだ」
「アント系か!! それなら大分種類が狭まるな……!! この地域に生息するアント系のモンスターといえばアシッド・フォルミーカ!! おお! 確かにそのモンスターと特徴が一致するな!!」
ショルクがまじまじと脚を眺めながら、これがアシッド・フォルミーカのものだと断定する。その後、体の一部を採取し、身に着けていたボロボロのブレスレットを回収した後、倒した騎士達を平坦な場所に一列に並べる。
「マッド・プール」
カーゴがそう呪文を唱えると、寝かした騎士達の地面が液状化しそのまま騎士達を呑み込んでいく。そして、何事も無かったかのように元の堅い地面に戻った。
「安らかに眠って……」
そう言って、カーゴが静かに手を合わせる。襲ってきた敵ではあるが、それが本当に彼らの本意だったのか……そう疑問を感じていたカーゴは彼らを同じ犠牲者として弔うのであった。
「……感謝する」
「気にしないで。あのまま野ざらしにする気にならなかっただけだから」
「そうか……」
クロムはそう言って、埋葬された騎士達に視線を向ける。あの中で1人だけ見覚えのあった顔があったのを静かに思い出す。直接、会話をしたことは無いが、訓練の際に一際声を張り上げて、力強い剣を振るっていた若い騎士。そんな未来ある騎士の終わりがこれとは何ともやるせない気持ちになっていた。
「……魔王。いや、カーゴ殿」
クロムがカーゴの名前を呼ぶと、呼ばれたカーゴはそちらへと顔を向ける。すると、クロムはその場で深々とお辞儀をする。
「姫様の護衛、よろしく頼む」
「……うん」
クロムの真摯な対応に、素っ気ない返事をするカーゴ。だが、その心の内では、このような人の命を弄ぶ連中の思い通りにさせないという気持ちでいっぱいだった。そしてその1歩として、彼らを無事に帝都まで送り届けようと決意するのであった。




