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第9話 国外逃亡作戦会議

前回のあらすじ「金髪、碧眼の姫様と銀髪、赤眼の魔王」

―「ナノリスの洞窟 最下層・コテージ内」―


「すみません……服を濡らしてしまって」


「気にしなくていいよ。とりあえず、今後そちらはどうするのか……メイドさん達はある程度決めてるんでしょ?」


 カーゴはファーレをあやしつつ、目をテノールとクロムに向ける。すると、テノールがゆっくりと口を開いた。


「姫様。一度国を離れ、魔導帝国ルーナシアにいるシェラ様達と合流するべきだと思います」


「シェラとは誰なんだ?」


「シェラ・ネクサス・トライザル。ファーレ姫の姉上でありトライザル第一王女でおられる。そして、第一王子のケーリック様もその国に留学中なので、合流するのが最適かと」


「王妃は?」


「安否不明です」


 それを聞いたショルクは腕を組んで考え始める。クロムはその考えている様子が気になり、思っていた事を訊いてみた。


「ショルク殿は何をお考えで?」


「何、私達もここから逃げなければならないからな。その逃亡に付き合おうと思ってな」


「同伴していただけるのですか!?」


「お前達の話している事が本当なら手を貸していい。なあ、カーゴ?」


 カーゴにこっそりとアイコンタクトで何かを訴えようとするショルク。それはカーゴにしっかり伝わっており、頷いたカーゴは余計な口出しをせずに静かに話を聞いていく。


「話している事が本当というのは……?」


「王が悪政を敷いておらずクーデターを起こした側に非があるというのが正しいならという話だ。もしくは、そこにいる魔王を討伐するために、地上に誘き出すための罠という可能性もあるからな」


 その瞬間、室内の空気が重苦しい物に変わる。その原因となったショルクから放たれる圧を受けたファーレ姫一行の表情は強張っていた。


「ショルク殿。我々は……」


「クロム」


 ファーレがクロムの名前を呼ぶと、察したクロムはすぐさま口を閉じる。それと入れ替わりにファーレがショルクに視線を向けてからその口を開く。


「トライザル王女ファーレ・ネクサス・トライザルの名に誓って嘘はありません」


「……ふむ」


 ショルクが食い入るようにファーレの顔を覗く。すると、その顔がみるみるうちに笑顔に変わっていく。


「そのようだな」


「それでは……」


「付き合ってやる。私達2人ならお前達を安全にここから逃がしてやれるだろう」


「安全……ねえ」


 自信満々に言うショルクに対して、疑いの目で見るカーゴ。その様子を見たテノールが今まで黙っていたカーゴに思い切って尋ねる。


「あの……何か問題でも?」


「いや、逃げれるんだけど……安全なのかなってだけから気にしないで」


「お前と私がいれば待ち伏せしている連中など一網打尽だろう?」


「おじいちゃん。下手に刺激すると追手が増えて大変だって……」


 カーゴは溜息を吐きながら、前髪を弄りながら脱出方法を考え始める。すると、クスッとファーレが小さく笑った。


「何? どこか変?」


「ご、ごめんなさい。考える時の仕草が私と同じだったので……」


「そういえばそうですね。まあ、カーゴ様の方は少し粗暴なところがありますが……」


「魔王相手にそんな事言えるなんて大した度胸ね?」


 そう言って、笑みを浮かべるカーゴだったが、内心ではファーレとテノールの自分への慣れ具合に驚いていた。怖い物知らずなのか、それとも自身への信頼の証なのか……。


「それで何かいい案があるのか?」


 カーゴがそんな事を考えていると、ショルクが何を考えていたのかと尋ねる。カーゴは今度は腕を組みながら、考えた作戦を話し始めた。


「まず……戦闘はなし。飛翔魔法でさっさと逃げる」


「「「飛翔魔法!?」」」


 飛翔魔法と聞いた3人が驚きの声を上げる。だが、カーゴは気にすることなく話を続ける。


「まずは目的地とは別方向に飛んで、それから目的地方面へ方向転換して一気に国境を越える。どうせ検問なんて無事に通れないだろうし」


「まさか。そのまま一気に魔導帝国まで飛んで行くのか?」


「それなんだけど……魔導帝国ってこの国からしてどの位置にあるの?」


「隣国です。ここから反対方向の北に位置してますね」


「となると……国を横断することになるのか。魔導帝国とこの国の両方と接している国は?」


「マジョレーヌ公国ですが……」


「なら、そっちに飛んでそこから魔導帝国へ普通の方法で移動がいいんじゃないかな。そんな長距離移動は自身が無いし、私が絡んでいるのは知られたくないんでしょ?」


 カーゴのその質問に頷くファーレ達。だが、王家と関係のないショルクはある懸念事項を抱いていた。


「だが、追っても馬鹿じゃないだろう。合流させないように魔導帝国内に刺客を送り、待ち伏せするんじゃないか?」


「そこは魔王である私の出番。それでお姫様に尋ねたいんだけど……」


 ファーレにこの作戦に必要な場所を訊くと、ちょうどいい場所が1つあるということなので、それを利用した作戦方法を説明したところ、聞いていた4人の反応は様々だったが、この作戦に賛同する。


「しかし……いいのか? わざわざ悪評を……」


「そもそも悪い噂しかない魔王なんだから、逆にそれを利用するの。きっと……追手も必死に考えるでしょうね。ついでに勇者と聖女もそっちに引き付けられたのなら御の字だけど」


「……勇者と聖女も魔導帝国に現在いらっしゃいます。おそらく魔王が地上に現れたと聞けば、ただちに向かうかと」


「姫様!?」


 ファーレのその発言に驚きの声を出すクロム。彼としては姫様に魔王の片棒を担ぐような真似はして欲しくはなかった。対して、ファーレは違う考えだった。


「いいの? そんな情報を教えて?」


「私とあなたは協力関係。言わば共犯者です。この位の情報は当然ですよ♪」


「ふっ! 大人しそうに見えて結構肝が据わってる! 気に入ったよ!」


「それは良かったです!」


 そう言ってカーゴとファーレは笑い合う。ショルクは気の合う友のような存在が出来て良かったとその様子を見ているが、テノールとクロムは怪訝な表情でその様子を見るのであった。


 その後、テノールにファーレの看病を任せ、カーゴ、ショルク、クロムの3人で魔導帝国ルーナシアまでの道順に関して話し合われた。


「……という道順だな」


「鉄道ね……」


「ああ、何でも鉄の塊が馬に引かれることなく動くらしい。しかも速いらしいからな。使ってもいいんじゃないか?」


「悪くないんじゃない。結構、遠回りになるからこのルートで帝都に入るとは思わないでしょ。それでこの鉄道で帝都まで行くの?」


「いや、その前……魔導学園で下りる。お二人ともここに在学してるのでな」


「なるほど。で、勇者と聖女は……?」


 ニコッと温和そうな笑顔を浮かべるカーゴ。しかし、その中身と強さを知っているクロムは不機嫌な表情で質問に答える。


「帝都とここを往復しているらしい。勉強に帝都での御勤めがあるからな」


「なら、私達は1つ前の駅まで護衛してあげる。おじいちゃんもそれでいい?」


「ああ。流石にここまで来れば問題無いだろう。心配なら、この1つ前の街で手紙を送るなどして安全を確保してから学園に行けばいいしな。ちなみに、何か懸念事項はあるか?」


「懸念……1つある。王を討った騎士の近くにいる占い師だ」


「占い師?」


「そうだ。クーデターを起こしたのは騎士達だが、そう誘導させたのがこいつの可能性がある。何より……怪し過ぎてな」


「そんなに怪しいなら、クーデターが起きる前に捕らえればいいのに」


「それは……まだ成人前の女だったからだ。姫様と同じ年頃でな。そんな子供が恐ろしい計画を立てているなんて思わないだろう?」


「そんな子供が騎士達を誘導したって……本当か?」


「反乱を起こした騎士のカリスマというものだろうか。それを利用してほぼ洗脳に近い方法で騎士達を掌握した感じだな」


「洗脳……まさかな」


「おじいちゃん。何か焦っているみたいだけど……」


 ショルクの表情があまりにも真剣だったため、何か深刻な問題があるのか気になったカーゴ。ショルクは少しばかり戸惑ったが、自分の考えをゆっくり話し出す。


「上手く説明できない……。とりあえず、その占い師には気を付けた方が良さそうだな。下手するとカーゴよりも厄介な奴かもしれない。人の心を操る魔法もアビリティも確かにあるのだが、そんな大人数を扇動出来る物など知らないからな」


「……おじいちゃんが何を言いたいのか分かる。話を聞いているだけでも、何か得体の知れない感じがあるかな。それとだけど、あのお姫様と同じぐらいの歳ってことは私とも同じってことだよね? 何か偶然にしては出来過ぎてないかな……」


 カーゴは両手で自身の体を抱きかかえる。自分と同じ顔をした一国の王女、そして、その王女のいる国でクーデターを起こした同い年の占い師。たまたまかもしれないが、その奇妙な偶然がとてつもない不気味さを醸し出していた。


「あの~……これはもしかしてかなり不味い事態なのでしょうか?」


「そもそもクーデターだけても不味い事態だがな……だが、その裏に何かとんでもない事が起きている気配がある」


 ショルクはそう言って、思慮中のカーゴを見つめる。彼女が転生者である事はまだクロム達には伝えておらず、その事実はあまり口にするものじゃないと彼は思っていた。


 それは彼女の持つ異世界の知識を他者に取られたくない気持ちが一番なのだが、勇者や聖女以外の転生者というイレギュラーな存在であることをファーレ一向に知られることで起きるトラブルを避け、これ以上、彼女の負担を掛けさせたくないという親心に似た理由もあった。


「とにかく、ファーレ姫をご姉弟の元に送り届けることに専念しよう。何が起こっているのかを調べるのはそれからでもいい」


 ショルクのその案に2人は静かに頷く。こうして、何かが起こり始めている……いや、既に始まっていることを3人は改めて認識するのであった。

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