第11話 旅立ち
6/21更新
次回の更新ですが、予定を大幅変更して7月下旬になります。
―「ナノリスの洞窟 最下層・コテージ内」―
異形化した騎士達の襲撃を受けたカーゴ達は、ファーレ姫が再び目覚めたところでこの場からの避難を薦めた。彼女達が対面した異形の騎士達の様子を聞いたファーレ姫はすぐさま避難する事を決意し、カーゴ達はすぐさま旅の支度を整えていた。
「よし……」
見た目以上に量が入るように空間拡張が施されたマジックバックに荷物を入れ終えたカーゴは、狩りの時に着ていた時と同じ格好であるシャツと太ももを覆えるショートパンツを着用、そしてお腹周りを守るためのコルセットの紐を締めた後、荷物の入ったバックの紐を肩に掛けて背中に背負う。最後に黒いフード付きのローブを羽織り、前が見えないようにしっかりとボタンを閉じた。
「これでいいよね……」
自分の部屋にある姿見でどこかおかしい場所がないかを確認するカーゴ。そして、身支度が整ったところで自室を後にする。
「あ、私が最後だった?」
階段を下りようとリビングを見ると、そこには既に全員が集まっており、すぐにでも出発できる状態であった。
「私達は荷物が無いので」
「そういえばそうだったわ……」
「要は私とカーゴ待ちだったってことだ。ふむ……」
ショルクは椅子から立ち上がって、カーゴの身だしなみを確認する。くるりと彼女の周りを一周して、最後に彼女の正面に立つ。
「ふむ。少しインパクトが弱いか……」
カーゴの服装にそのような評価をするショルク。これから逃げるのにそのような評価はいかがなものかと思うが、評価を受けたカーゴも同じ意見であった。
「そうなんだよね。もっと……こう、魔王って感じが出せればいいんだけど。変に服装を凝った物にしちゃうと何か怪しくない? 普通の魔物ってほぼ素っ裸だと思うんだけど」
「まあそれはそうだが、この周囲に生息するモンスターから採れる素材を加工すれば衣服を作ることは出来るんだ。少々、禍々しい服装にしても問題は無いだろう」
「うーーん。それはいいけど、今から作るの?」
「な訳ないだろう」
ショルクはそう言って、一度2階の自室へと向かい、すぐにリビングへと戻って来た。そして、その手に持っていたマントをテーブルの上に広げる。その所謂ケープマントには金の刺繡とチェーン付きの金ボタンが差し色として使われており、カーゴがいま羽織っているマントと比べて隠密性は低いが、マント自身に施された様々なエンチャント効果も相まって、相手へのインパクトは強くなっていた。
「この位なら問題無いだろう」
「いや、問題あるから? こんな意匠を施されたマントをみたら、誰が見てもこいつ魔王じゃないだろうってツッコまれるよね?」
ショルクの持って来た立派過ぎるマントにダメ出しをするカーゴ。さらに、この主張を後押ししてもらうためにこの計画に参加するファーレに目を合わせる。
「そう思うでしょ?」
目を合わせたファーレにそう問いかけるカーゴ。しかし、肝心のファーレは首を傾げていた。
「え、普通ですよ?」
「え?」
ファーレのその返事に呆気に取られるカーゴ。ファーレは何かを察して話しを始めた。
「魔王も様々でして……獣やモンスターなら当然衣服など着ていないのですが、人型なら衣服を着ているのが普通らしいですよ? しかも、強力なエンチャント効果のある衣服らしいです。まあ、勇者達との激しい戦闘のせいで、現存している物は少ないですけど……」
「私、何も貰ってないんだけど……」
「魔王を倒して魔王になったからだろう。魔王というのはこの世界が魔法を使うことで生まれる存在だというのは前に話したな。姫様の言う通りで、獣やモンスターのタイプは肉体そのものが強力になるのだが、人型の場合は強力な衣服や装飾品を身に着けた状態で現れるそうだ」
「へえー……そうなんだ。じゃあ、これってアリなんだ」
カーゴはそう言ってテーブルのマントを手に取る。その際に、自分がゴブリンだった時に必ず腰蓑を履いていたことを思い出し、魔王となればそんな強力な物がもらえるんだなと納得するのであった。
「でも……これ大きい気が……あれ?」
カーゴは着ていたマントを脱ぎ、ショルクが持って来たマントを羽織ると、彼女の背丈より大分長かったマントが彼女のサイズへと小さくなった。
「着た人に合わせてサイズ変更する服なんて初めて見たんだが……」
「私は古代の遺物にそんな衣服があるって聞いた事がありましたけど……」
「今の時代に作れる奴はいないのか? 全く……利益を得るために製法を黙り込んだ結果がこれとは……」
クロムとテノールの呟きを聞いて、ショルクがこの技術が失われたことに嘆く。このサイズ変更できる機能はショルクがいた時代でもかなり珍しい物であり、製法時に珍しい素材を使うからという理由もあるが、一度それを購入されてしまうとなかなか新しい服を買ってくれないという事が多々あり、服飾関係者の多くから嫌われた技術というのもあってあまり作られなかった。
「じゃあかなり珍しいマントなんだね……。ちなみにおじいちゃんは作れるの?」
「もちろんだが?」
そんなの当然かのように答えるショルク。それに対し、ファーレは凄いと素直に称賛し、カーゴはやっぱりねと言わんばかりの表情を浮かべる。そして、残りのテノールとクロムに関しては頭を抑え込んで、失われた技術を習得しているショルクのヤバさに悩むのであった。
その後、この後の段取りの打ち合わせを行い、準備が終わった5人がコテージの外へと出る。そして、コテージの前まで来ると、ショルクは1人コテージの方へと進み、自身の手のひらに収まる綺麗な装飾が施された小箱を、蓋を開けた状態でコテージに向ける。
「収納」
ショルクがそう唱えると、コテージは眩い光の粒子となって前に構えていた小箱の中へと吸い込まれていった。残ったのは、このダンジョンでは珍しい更地だけだった。
「よし。これでいい……ん? 何だ。そんな顔して?」
ショルクがカーゴ達の方へ振り返ると、先ほどまで寝泊まりしていたコテージがサイズ無視して小さな小箱に入ってしまった光景に、知っていたカーゴ以外の3人が唖然としていたのが見えた。
「やれやれ、この魔法も失われたのか? 全く……不便でつまらない世界になってしまったな」
面白みのない世界に嘆くショルク。外の世界は自分が見ない間にどれだけ発展を遂げているのかと夢見ていたショルクだったが、すでに期待はしていなかった。
ファーレ達の話を聞いた今、仕えていた初代の王の子孫であるファーレ姫を安全な場所まで避難させるため、外の世界に何があったのかその原因の追究、そして足りなくなった地上の素材の採取という理由が彼を旅へと突き動かしていた。
「そうなってくると……カーゴが望むなら、今すぐにどこか一国を我が物にした方が手っ取り早いのでは?」
「何、恐ろしいことを考えてるのおじいちゃん。私に興味があるからって、そんな事をしちゃダメだからね?」
「分かってる分かってる。むしろ、一度何も無くなったことで新しい技術が生まれているかもしれないしな。それに期待するとしよう」
ショルクはそう呟きつつ合流、全員集まった所で転移魔法陣がある元ボス部屋に向かって、まずは森の中へと入って行く。洞窟の中とは思えないほどに鬱蒼とした森。当然、道など整備されていないので、地面の木の根っこなどに気を付けながら進んでいく。
「……気配がするのに襲ってこないな」
「まあ、カーゴがいるからな。魔王に恐れてどのモンスターも襲ってこないのだろう。それだからあのようにカーゴがファーレ姫をエスコートするのが一番安全だ」
そう話すショルクの視線に見るのは、ファーレの手を取り、でこぼこな道を一緒に歩くカーゴの姿だった。
「外に出たらまずは服かな……」
「服ですか? どうしてですか……」
「今着ている服っておじいちゃんの持っていた物を無理やり組み合わせてるだけだから、サイズが合っていなんだよね……下着とかもどうにかしたいし……」
「なるほど。そうなれば私もですね。何も持って来れませんでしたし……」
「申し訳ありません。そのような余裕が無かったもので」
「気にしなくていいんじゃないの? それより……」
テノールも含めた3人で楽しそうに会話をしているカーゴの様子を見てショルクの頬が緩む。その表情は好きな人を見る異性としてではなく、娘の成長を喜ぶ父親のような表情であった。そして、クロムはその表情に気付いていた。
「まるで親ですな」
「……まあ、これでも10年は一緒に住んでいたからな。人として色々欠如している私だったが……彼女との付き合いで少しはマシになったのかもな」
「何か彼女に秘密があるのですか?」
クロムのその言葉にショルクは多少の動揺を見せるのだが、すぐさまいつもの様子に切り替える。
「知りたいなら、あいつに訊くんだな。まあ……私も全てを知っている訳では無いがな」
そう言って、この話を終わらせるショルク。実際に彼はカーゴ……つまり加後奈史子がどんな人生を送っていたのかは詳しくは聞いていないし、彼女をここに転生させた神様とのやり取りも知らない。
「君も彼女が魔王として普通じゃないのは分かるだろう。本当なら研究者として詳しく問いただしたいところだが……な」
ショルクがそこまで話して黙り込んでしまった。クロムはそこで何かあったのだろうと察し、それ以上の追及することは無かった。協力者である彼らへの配慮というのもあるのだが、人には知られたくない秘密というのは誰にもあるのだから、それを問いただすのは騎士の流儀からしても失礼だと思っていたからだ。
その後も森を突き進む5人。時折、休憩を挟みながらも、ついに彼女達はついにボス部屋の前へと到着するのであった。




