第5話 俺様のゾンビ騒動と酔っぱらい
日が傾いて もうすぐ夕暮れ、キャンパリフの町へ続く街道を竜車が行く。
草竜と呼ばれる爬虫類のような動物に曳かせている車だ。力が強いので重い貨物の時に使われる。
御者台には、大柄な商人が一人。隣町でそこそこの取引を成功させて懐も温かい。
この林を抜けたら町が見えてくるはずだ。
今日はいつもより取引が大きかった。竜車の賃料があるが、いつもより儲けが多い。
戻ったら手伝ってくれた商売仲間に酒でも奢ってやろう。
そうして竜車を走らせていると、林の木々から、数人がふらふらと現れた。
こんな町の近くで盗賊か? しかし様子がおかしい。
速度を落として近づいていくと、体を揺らしながら歩いてくる。
腐ったような匂い、両手をなにか掴むように動かしている。
「ゾンビだと?」
どうするか? 引き返したら向きを変える間に近寄られてしまう。抜けるしかないか。
商人は竜車を街道から半分ほどはみ出させて横をすり抜けた。
あとは、逃げるだけ。草竜に軽くムチを入れて走らせる。
林を抜けて、双子岩の間を通過したら、あとは平坦な道だ。
これならゾンビに追いつかれる事はないだろう。
竜者が町の入り口に駆け込む。慌てて警備兵が押しとどめる。
御者台から商人が門番に叫んだ。
「ゾンビだ! 近くに居る。追いかけて来るかもしれん」
「なんだと? 町の近くに?
衛兵隊は非常呼集!!! ハンターギルドにも連絡を!」
〜〜〜
ハンターギルドの2階、白髭の爺さんの部屋。
俺様は、町が騒がしくなったように感じたので窓枠へ飛び乗った。町の門の方が賑やかだ。
白髭の爺さんは、うんざりした顔で、散乱した書類を揃えなおしている。
「みーちゃんや、ワシが居ない間に部屋にはいるのはいいが、書類をバラバラにするのはやめてくれんかの?」
書類の山はジャレてバサバサする、それが本当の猫ってもんだろ?
最近、ギルドから各所へ出回る書類に、俺様の肉球マークがぺったり付いてることがあるそうだ。
白髭の爺さんが嫌味を言われるらしい。
けど、俺様はし〜らないっ。
部屋の扉がノックされて、茶色の女の人が入ってきた。
「失礼します。あれ? みーちゃんここに居たの? また、イタズラ?」
「そーなんじゃい。いつの間にか忍び込んでイタズラしていきよる。
出掛ける時は結界をしかけてるのじゃが、どこから忍び込むのかの?」
「書類を山積みにしているからですよ、ね〜? みーちゃん。
それよりもギルマス、 町の近くの街道でゾンビが出たそうです。
衛兵隊から支援依頼を出すとの事です」
白髭の爺さんは、肩を揉みながら天井を見上げた。
「近いのか? 数は?」
「双子岩の先の林ということです。目撃されたのは数体だけですが」
「ゾンビ共は遅いからの。その距離なら慌てることもないが・・・普段ならな・・・」
「タイミングが悪すぎますね」
この日の午後、ハンターギルドのホールでは所属する殆どの臭い人達が集まって、盛大な酒盛りをやっていた。
半年ほど前、魔物と戦って臭い人が大怪我をしたのだと。その傷が治ってしばらくスランプで、最近やっと調子を取り戻したって言ってた。そのお祝いだとさ。
大騒ぎでやかましいから、俺様は2階の部屋に逃げてきたという訳だ。
つまり、臭い人達は全員酔っ払ってて使い物にならないのだ。
「アンデット系の魔物なら、ターンアンデットで簡単に駆除できるんじゃが。
光属性の魔術が使えるヤツもおらんしのぉ。うちの支部は脳筋ばかりじゃ」
茶色の女の人が、うーんと考えて
「教会のシスターに頼みますか?」
「それしかなかろう。護衛が必要だが、酔ってないハンターは?」
茶色の女の人が俺様をみる。
白髭の爺さんも俺様をみる。
「みーちゃんだけですね」
二人が、はぁーと溜息をついた。
「みーちゃんだけだと護衛にはならんだろう。
何でもいいから、酔っぱらいを適当に馬車に詰め込んで連れて行け。
オマケに、こいつも付けよう」
白髭の爺さんは、俺様をつまみ上げると、茶色の女の人に押し付けた。
俺様は行かないぞ? 行かないったら! あれ?? ちょっと!
茶色の女の人は、1階のホールに降りると、酔っぱらい達を蹴飛ばして馬車の荷台に詰め込んだ。
そして、俺様を膝に乗せると出発した。
「うにぁ〜ぁ〜あ〜〜」
俺様は抗議したのだが・・・
「私だけ酔っぱらいの相手するのは嫌なのよ。みーちゃんも付き合ってね。
私のお弁当いつも食べてるでしょ」
うーむ、ごはんの話をされると俺様も弱いのだ。
馬車が町中の道をゴトゴト進む。荷台では、酔っぱらい達が酒盛りを続けてるからやかましい。
俺様はイラッとして腕に噛みついてやった。前足で腕を抱え込んで、ガシガシ攻撃に猫キックもおまけだ。
「いてててて、みーちゃんやめろー」
「フゥォォォッ フゥォォォゥ」
臭い人め、いつもよりさらに臭いぞ。ふんだ。
ちょっと血が出てたから舐めて胡麻化しておいた。
そんな事をしていると教会に着いた。
茶色の女の人が丁寧に説明して、シスターにゾンビの浄化を依頼していたけれど、俺様の方をチラチラみて断っているみたいだった。シスターは動物を怖がる人だからな。
しばらくして、準備を済ませたシスターが馬車にやってきた。茶色の女の人はどうやって連れてきたんだろう??
俺様を見て「ひぃ〜」とか言っていたけど・・・荷台の酔っぱらい達を見て、俺様が座っている御者台を見て、ちょっと悩んで俺様の隣へ座った。
動物への恐怖より、酔っぱらい達への嫌悪感が勝ったみたいだ。
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