第5話 俺様のゾンビ騒動とヌコ好き
馬車は、町を出て双子岩までやってきた。
辺りはかなり薄暗くなってきたし、早く片付けて町へ戻りたいなあ。
後ろの荷台では酒盛りが続いている。
「ガハハハハ 酔っててもゾンビくらいどうってことないぜ。なあみんな!」
「「「おーっ!」」」
時々大きな声がしてシスターがビクッと震える。
茶色の女の人は、「こいつらほっとこう」的な目で眺めている。
「頼りになるのは、みーちゃんだけみたい。
どう? なにか解る?」
昼ごはんの分はお手伝いしますかね。
鼻をひくひく。気配なんて関係なくて、この腐った匂いを辿ればいいのでは?
俺様は、街道の先を鼻で指す。
茶色の女の人は、すこしゆっくりと馬車を進めていった。
林の手前で、変な人たちが5人、腐った匂いを漂わせてる。
俺様が探さなくてもすぐ見つかるじゃないか。寝てたらよかった。
ゾンビ達に近づいて行くと姿が見えてきた。
千切れそうな革鎧にボロボロのマント。そして首元にプレートが。
「あれは・・・ハンターですね。5人だとすると、たぶんバルダさん達のパーティ
ダンジョンから未帰還で・・・・・・たしか孤児院出身のハンター達でしたね」
長年ギルドの受付をしている茶色の女の人だからすぐに判ったみたいだ。
「私が送り出したのに、こんな風に出迎えるなんて・・・」
「あれは、ファブリオ、モデス、ツィオ・・・私の子供達が・・・」
シスターは、彼らのママだったんだな。涙ぐんでいるから、ちょっと顔を舐めてやった。
ちなみに、荷台からは大きなイビキが聞こえてきて、その時の茶色の女の人はちょっと怖かったぞ?
おーい、お前ら覚悟しといたほうがいいぞ。
「シスター、危険だから馬車の上から浄化できますか?」
「もう少し、近くに行けますか? お願いします」
馬車を林に近づけていくと、ゾンビ達もゆらゆらとこちらへ歩いてくる。
シスターは、バックから短めの棒を取り出して握りしめたので、俺様は先っぽをくんくん嗅いてみた。
ちょっとあの、変な女の子の匂いがするかも?
「ゾンビには、生前の記憶も少しだけ残ってて生前の行動をとる事もあるそうです。
もしかしたら、シスターの事も覚えているかも。そうなら余計に危険かもしれません」
すると、ゾンビの一人が変わった行動をし始めた。
とつぜんしゃがみ込んで足元の草を根本からちぎると、地面の近くで左右に振り始めた。
むむむ?
あの動きは?
俺様は目が離せなくなった。
かさかさかさ、と音がする。
俺様は馬車から降りて、ささっと近づく。
茶色の女の人が「みーちゃん、やめなさい」とか言ってるけど目が離せない。
シスターがハッと気づいたように言った。
「そう言えば、あの子たち3人はヌコ好きでしたね」
草の先が左右に動く。右、左、右、左・・・・・・
ここだ!
俺様はシュタッと飛びつく。
顔を上げると、目の前にゾンビが居た。臭い。強烈な臭さだな。
ゾンビ3体は、じっと俺様を見ている。でも、1体は後ずさりしている。
「ヴェルは・・あの子はヌコが怖いんです。小さな頃に爪でひっかかれてから」
残りの1体は、俺様を叩こうとしてきて・・・・
他のゾンビに抑え込まれた。
「バルダは、ヌコが嫌いなんです。ごはんを盗られたって未だに恨んでいるんです」
えーと、ゾンビってこんな平和なヤツらだったのかい?
ヌコ好きなら、ちょっとだけサービスしといてやるぜ。
「にゃ~~ぉ」
と鳴いて、ころんと転がる。
お腹をみせて、左右にころころっと。
ま、こんなもんでいいだろう?
ヌコ好きゾンビ達が、おおおっと驚いたような喜んだような。
そして、ふんわりとした光に包まれたかと思うと、さらさらと砂のように崩れ去った。
「え? 浄化された?」
走り寄ってきたシスターが「そんなことが・・・」って固まっている。
ヌコ好きゾンビ達が居なくなったので、ヌコ嫌いゾンビが俺様に向かってきた。
俺様は、さっさと馬車まで逃げた。あとは頼んだぜ。
馬車の荷台で毛づくろいをしている間に、シスターがお祈りして残りを浄化したみたいだ。
それからずいぶん経ってから、少しだけの遺品とプレートを回収して戻ってきた。
今日は、暗くなったからこれでお終い。明日また調査隊を出すそうだ。
そして、俺様達は、荷台のイビキを聞きながら町の入り口を抜けて、教会まで戻ってきた。
「お疲れ様でしたシスター、その・・・なんと言っていいのかわかりませんが・・・」
「・・・あの子達は・・・
いえ、私が見送ることができたので、良かったのかもしれません
それに、このヌコにも」
シスターがこわごわと俺様に手を近づけて来たので、ふんふんと嗅いで頭を擦り付けてやった。
「みーちゃん、と言いましたか。あなたは、もしかして?」
うん? 俺様がシスターを見ると、シスターも俺様を見ていた。
ごはんくれるの? 腹減ったぞ?
それからシスターは茶色の女の人に俺様と礼拝堂で待っていて欲しいと言うと、教会の奥に入って行った。
礼拝堂に行くと、ちょっと寒かったので茶色の女の人の背中に潜りこもうとして、背中を掴まれて引っ張り出されて、そのまま首をつままれて、ぶらんとぶら下げられた。
そこへ、シスターがやってきて、「ちょっとそのままで」と言った。
え? このまま?
足をジタバタしていると、シスターが丸い水晶玉のようなものを俺様に近づけて、短いお祈りのようなものをつぶやいた。
水晶玉が眩しく輝いて、あれーー? と思うと、またあの白い場所に居た。
例によって、あの金色の変な女の子。
「あれ~? みーちゃん、今日はどうしたの?
そっか、教会の鑑定を受けたのね」
なんでも、ハンターギルドのプレートに出る内容と、教会の鑑定は見てるところが違うらしい。
能力とかスキル関係はハンターギルドの方で判るけれど、神様関係のことは解らないんだとさ。
「みーちゃんに付いた加護がバレちゃうかな~ でも、まぁ、問題ないかな。ヌコだし。
教会の人には適当にごまかしとくわね」
よくわからないけど、猫には関係なさそうだ。
「そうそう、スキルとか使ってる? 時々使ってると、ちょっと強いスキルになったりするかもよ?
ほらほら、新しいスキルが付いてるじゃない。
・・・・ねこパンチ? これは何かな・・・ガシガシ攻撃とカジカジ攻撃はどう違うの?
うーんと・・・専門外だからよくわかりません。みーちゃんわかる?」
俺様にもよくわからないけどね。
そういえば、収納とかいうやつにネズミが入らなかったんだけど。
「そっか、そこの説明してなかったわね。
人によって違ったりするんだけど、猫の場合はどうなるんでしょう?」
知らないの? まあ、とくに不便はしてないけれど?
「よし、じゃあ、こうしましょうか。
収納リストは出せる? 出せるのね。じゃあそこに向かってポイっと投げ込んでみて」
投げ込むのか、それは気づかなかったな。
もしかして、今決めた?
「さて、シスターの鑑定が終わったみたいよ。
そうそう、”シルバーランク”っていうのは、あまり意味がないから気にしないで良いからって伝えといて。じゃあ、またねーーー」
辺りが暗くなってきたら、シスターの水晶玉の光が消えるところだった。
驚いたまま、しばらく固まっていた。
俺様は、ぶら下げられたままだったので、
「にゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
と強く抗議して、じたばた暴れて床に飛び降りた。あのぶら下がり体勢は、ちょっと疲れるのだ。
シスターはまたビクっとして、後ろに下がった。
「やはり、このヌコは女神アリシア様のご加護を授かっているみたいです」
「みーちゃんに加護が? その加護はどんな感じの?」
シスターはちょっと水晶玉を覗き込んで
「えーと・・・シルバーランク? そんな加護ありましたっけ?」
それは、気にしないでって言ってたぞ。
俺様は喋れないから説明できないな。
シスターは「調べておきます」って言ってたけど、気にしなくていいんだってば。
それから、ハンターギルドまで戻って、茶色の女の人が荷台から酔っぱらい達を蹴り落とした。
俺様はさっさと2階へあがって、椅子で丸くなった。
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