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第13話 王女 カイカの言い訳、もしくは言い分-1

 あの祭り最終日から三日、私はまだセイに会ってはいなかった。

 あれだけの騒ぎだ。後始末に追われ、忙殺される毎日だった。別に、逃げているわけではない。いやっ、やはり無意識ながらもセイを避けているのかもしれない。

 屋敷には帰らず、城の執務室に(こも)り、ほとんど睡眠もとらないで働いているのは、セイのことを考えると心苦しいからなのかもしれない。

 ただ、忙しいと言うのも嘘偽りなく本当であった。あの貴族の事、騎士団の事、城の警備についてやその他諸々、頭を悩ませることが目白押しである。更に、表の雑事だけならまだしも、裏で手を回しているあれやこれ。

 まったく、頭が痛くなりそうだ。しかし、それも三日も続ければ限界だ。いつまでも城に籠っているわけにもいかないか。一度、屋敷に帰って休まねば。働き過ぎだとインジにも再三、言われていることだし。

 そう思い、重い腰を上げる。


 屋敷への道中、日はまだ南の空に高く昇っている。

 どうするか、帰ってそのまま寝てしまいたい程の疲労感だが、しかし待て、今日は夕方前にはセイの騎士の仕事が終わるはずだ。確か、朝確認したときにインジが言っていた。

 つまり、今日ついに、あの日から初めて顔を合わすことになるやも知れない。姉として、こんなヨレヨレの姿のまま愛する弟を迎えるわけにはいかないだろう。しょうがない、乙女の(たしな)みだ、睡眠を削ってでも、湯浴(ゆあ)みをしてから休むことにしようか。


 屋敷に着くと、母が待ち受けたように現れ、顔を合わすや否や「女性があまり根を詰めて働き過ぎてはいけない」だとか「そんなことではお嫁の貰い手がいなくなってしまう」だとか、いつものお決まりの小言を並べだす。

「はいはい、分かりました」

 と軽く受け流しつつ、使用人に湯浴みの準備を頼む。

「もうっ」

 と母は一体、自分を何歳だと思ってるんだか、これまたいつものように頬を膨らまし、不満げにこちらを睨むが、あまりにも疲労困憊な私の様子を見て、それ以上の小言は控えたらしい。よかった。母上の相手は疲れているときには遠慮したい。


 湯浴みの準備が整い、浴室に入る。湯の張られた浴槽にゆだねる様に身体を浸ける。使用人の女が私の髪や身体を絹を扱うように優しく清めていく。

 さて、どうするべきか。これから訪れるであろう事態をどう凌ぐべきか。おそらく、数時間後にはセイがここにやって来ることだろう。

 熱い湯に浸かりながら、色々と思案をめげらせていると、疲れもあったからか、少々頭ものぼせてきてしまった。こんな疲れた頭ではこれ以上考えられない。

 浴室を出て、ローブ一枚を羽織る、部屋に上がり、そのまま寝台に飛び込むようにして横になる。すぐに眠気はやって来て、意識は遠くなっていく……


 しかし、その眠りは『ドンッ』という大きな音により破られることとなった。玄関の扉を勢いよく開けた音。声が聞こえる。セイが来たのか、しまったな、いくら疲れていたとはいえ、寝過ぎてしまったようだ。

 体を起こし、寝台の端に腰掛ける。窓の外を見ると、日が沈みつつある。階段から足音が響いてくる、怒気を含んだような重々しい音。三日以上たっても怒りは収まらなかったようだな。果たして、騙し討ちで薬を盛ったことか、ソンダーツのことか、いや、一連の出来事全てに対してだろうか。


『バンッ』部屋の扉が激しく押し開けられる。

「姉上っ、話が……」

 勢い勇んで入って来たセイが、目を見開いたかと思うと、(ひる)んだように明後日の方を向き、

「話がありますが…… なんですその恰好は。はしたない。服を着てください。」

 そういえば、ローブ一枚を羽織ったまま寝入っていたのを忘れていた。

「おっと、これは済まない。湯浴みして、そのままの格好で寝てしまったのだよ。しかし、そんなに顔を真っ赤にせずともよかろう、姉の裸を見たぐらいで」

 言いながら、使用人が用意してくれたのだろう、寝台横に置いてあった服に着替える。

「恥ずかしがっているのではありません。怒っているのです、私は」


「で、何をそんなに怒っているんだね、セイ」

 空々しくも聞いてみる、

「全てです。説明願いたい、姉上は一体何を企んで、あの時、何が起きていたのかを」

 ずいと詰め寄ってくる。仕方がないな。これはもう知らぬ存ぜぬで逃げることは敵わないだろう。「ふーむ」と唸りつつ、

「そうだな、一体どこから説明すればよいものか」

 勿体つけつつ、部屋に置かれた机に移動し、椅子に腰かける。


「セイ、お前は私たち王族がこの国を統治できているのはなぜだと思う」

「はぁ一体、何の話です。私は事態の説明を……」

「いいから、答えなさい」

 セイの目を真正面から見つめる。気圧されたのか、不満気ながらもぶつぶつと答え始める。

「それは、魔法という王権を神から(さず)かり、正義をもって誠実に政治を行い、民衆から敬意と支持を得たからではないかと」

 優等生な答えだ。

「まぁ、それも間違いとは言わない。でも、それだけではないだろう。お前も解っているはずだ。そうでないなら、まだまだ青二才だということだ」

 セイは苦々しいといった顔をしている。


「この国を支配しているもの、それは魔法という武力、そして、それに伴う(おそ)れであり、恐れ、恐怖だ。逆らい難い絶大な力、それによる庇護(ひご)の下の生活、外敵への牽制(けんせい)、これがなければ、一体、誰が国のために働き、王族・貴族に税を納め、(あが)め敬ってくれるというんだ」

 セイから目を逸らさず、続ける。


「ではっ、その力を持っているのは誰か。この国においては私たち王族だ。悪く言い換えるならば、魔法という暴力によって国民を脅し、この国の統治権を無理やり奪っていると言ってもいい」

「姉上、それはいくら何でも言い過ぎでは」

 予想通りの答えだ。

「まぁ、少し待ちなさい。分かっている。私もこの国の政治は(おおむ)ね正しかったのではないかと思う。この国は大国とは言い難いし、たまに小競り合いは起こるが、比較的豊かで平和な国であるといって差し支えない。それを成し遂げてきた歴代の王たちの政治は正しかった。そう思う」

 ただし、と言葉をつづける。

「歴史上、王の意に反した人々、反旗を(ひるがえ)す人々がいなかったわけではない、それを力によって押さえつけてきたこと、これもまた動かし難い真実なのだ」

「確かに、それはそうかもしれませんが。」

 だいぶ威勢が落ち着いてきたようだ。ならばと畳みかける様に、


「ただ、今まではそのような強大な力を持つものは我々王族だけであったから、意見の相違はありつつも、皆一団となってこの国のために尽くしてきた。が、しかし最近になり、もう一つ大きな力が芽吹きつつある。それが銃などの兵器だ」

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