第13話 王女 カイカの言い訳、もしくは言い分-2
「銃ですか。しかし、たとえ銃というものが普及しようとも、我々の魔法が後れを取るようなことはないと思いますが」
「お前はヨークにしてやられたのにか」
セイが「うっ」と苦しげな声をもらす。
「ふふっ、冗談だ。実際、いま現在この世界で起きている小競り合いのような戦争においては魔法の力によって、戦況が決まるといって相違ない。だから、銃などといったものはその有用性を認められず、開発がなされてこなかったわけだが」
セイの眼前に人差し指を立て、
「しかし、私はヨークと夜を徹して語り合い、一つの確信を得た。いずれ、銃・兵器は絶大な力を持つことになると。彼女の見識には舌を巻いたよ。現在であっても、一対一など特殊な状況下においては、威力を発揮するのも事実だろう。いくら私が指先一つで十人の敵を殺せたとしても、いきなり銃で見えないほど遠くから狙撃されてしまえば、どうなるかわからない。セイ、お前も身をもって体験したはずだ」
ひと呼吸し間を置き、息を整える。
「ここで、最初の話に戻ろう。王族がこの国を統治できるのは魔法という武力があるからだといった。しかし、およそ九年ほど前、王族よりも自分の方が正しい政治をできると考えた男が現れる。幾度かの企みの失敗の後、その男はあるものに目をつける。もちろん銃だ。自らの正義と大いなる力、これを手に入れたなら、後はどうなるか想像に難くないだろう」
「その男が、ソンダーツだというのですか」
かなり狼狽えているようだ。
「まぁ、そういうことだ。ただ彼自身が王族を殺害して回るというわけではない。彼を支持する仲間や民衆たちがそういった武器を所持する。そして、彼の扇動により武装蜂起する。これはもう、王族にとって恐怖以外の何物でもない。そうなれば、双方ともに悲惨な結果になるだろう。インシュール国史上最も陰惨な事件だ」
少し視線を上方に外しつつ、
「まぁ、そうなるまでにはもう少し時間がかかったと思うがね」
とため息交じりにつぶやく。すると、セイはまじまじとこちらを見つめ、
「しかし、ソンダーツは私を助け、導いてくれました。彼がそんなことを企んでいたとしたなら、一体なぜ、私によくしてくれたというのです。それも彼の企みの内だとでも言うのですか」
と苦し気に尋ねてくる。
「言い切ることはできないが、お前は落し所だったのではないかと思う」
「落とし所?」
「ソンダーツはとある貴族、これはまぁ辺境の弱小貴族だが、と手を組みことを起こそうとしていたようだ。いくら自らが政権を手に入れるためとはいえ、武装蜂起し勝利した後、王族・貴族、反対勢力を皆殺しにするのは現実的とは言えない」
視線をセイに戻し、
「特に、領地を持つ有力な貴族たち全員を敵に回すのは得策ではない、そこでお前を神輿に担いで、形骸化した王権を利用し、貴族たちを従わせるつもりだったのではないかと。民衆たちも自分たちの意に沿う王族の者ならいきなり現れた一介の騎士よりも、君主として受け入れやすいだろう」
ショックが大きいのか黙り込むセイ。
「まぁ、もちろん最初に言ったように、お前を騎士団に引き込んだことや剣術を教えたことすべてが策謀であったとは言い切れないさ。それに、一つ言及するならば、ソンダーツが父王よりも良い王様になった可能性もあったかも知れない、その方がもしかしたら正しい道であったかも知れない」
セイの目を見つめながら、続ける。
「でもね、私はお前が思うより家族思いだったらしい。家族が死ぬかもしれない企みに黙っていられるほど大人しくはないのさ」
そう話しかけても、セイの目はいまだうつろだ。少し間を置き、セイが尋ねてくる。
「しかし、姉上。そうであるならば、いずれ民衆たちのだれかが兵器という力に気付き、蜂起するのも時間の問題じゃないですか。今回の騒ぎにいったいどれほどの意味があったのか……」
わからない、そんな顔をし、苦笑する。
「その通りだ。時間の問題なのだ。その時間が欲しかったのだよ、セイ。民衆たちには気づくのを少し後回しにしてもらった。その間に私はこの国で、いやっ、この世界において最も兵器に精通する必要があるのだ。そうすることで武力においてこの世界で優位に立つ事が出来る」
セイがこちらを睨む。
「結局、姉上は自分の権力を守りたいだけではないか。大体、それならば何故あんな回りくどい真似をする必要があったのですか。正々堂々と糾弾すればよかったのでは」
「そうだな。しばらくの間、私の地位は優位なものになるだろう。魔法に兵器、二つの大きな力はそれを可能にする。しかし、兵器はいずれ、魔法などものともしないほど進化するだろう。これはもう、疑いようもないことだ。それは十年後か、五年後くらいだろうか、そう遠くない未来のはずだ。その時、私たち王族の優位など無いに等しい。そこで必要となるのが、お前が初めに言っていたことだよ」
「私が言ったこと?」
急に話の矛先を向けられ驚いた表情をしている。
「そうだ。つまり、正義をもって誠実に政治を行い、民衆から敬意と支持を得る必要があるのだ。これまでは我々が魔法という力を使い、庇護することによって当然のように統治していたわけだが、これから統治者はその正義、政治の正しさをもって民衆に国家の王座に就く許しをもらわなければならない時代となるだろう」
つまりと机をたたき、語り続ける。
「それまでの間、我々王族は民衆に試されることになる、王族の者が統治者の座に就くに相応しい者なのかどうかを。我らが政治に失敗した時、我々王族は民衆たちに打倒される、兵器という武力によって」
セイがこちらをじっと見つめている。
「解るか。つまり、王族・貴族は誠実で公明正大で仁に篤くなければならないのだ。一片の隙もあってはならない。少なくとも表向きは、な」
咳ばらいをしつつ、
「だからこそ、あの救いようもない馬鹿貴族は王をその身を挺して守った尊い犠牲者で、野望に燃える騎士は王城に潜入した殺人鬼から王族を救った勇者だったと民衆たちに思ってもらわなければならない。そのように手を回した。いつまでも内輪もめ、仲間割れしている者たちに政治を任せようとは思えないだろう、セイよ」
セイの目を見つめ返し、
「そういえばそこに、狂った殺人鬼を打ち倒した救国の英雄も加われば尚、良ろしかろう」
からかう様にそう付け足した。
「ふざけないで下さいっ、姉上。それに、それでは全ての罪を彼女に負わせて平気な顔をしてろというのですかっ」
興奮しているのか、声がこれまでになく大きい。まったく、我が弟ながら真っ直ぐ過ぎるかな。まぁしかし、セイはそれでいいのだ。そうでなければ困るというもの。
「そうだな。言ってみれば、今回の事態は王族とソンダーツの政権争いの様なもの。それに巻き込まれた彼には、可哀想なことをしたのかもしれない」
敢えて、皮肉に笑うように話す。
「彼っ? 一体、何の話をしているのです」
理解が追い付かないという顔。
「お前こそ、一体、誰の話をしているんだ」
「誰のとは? もちろんヨークのことに決まってます」
「いいか、あの場にヨークなどという娘は存在しなかったんだ。ソンダーツに両親を殺され、故郷を焼かれ、復讐に燃える少女など、どこにもいなかったんだ。この件で全ての罪を背負って、闇に消えたのは、貴族に不満を持ち、頭の狂った黒い仮面の男、奴だけなのさ」
笑いながら、言い聞かせるように語る。
「いやそれは…… いくら何でも……」
椅子を立ち、セイに近づく、
「面識のあるお前だって、言われなければ気付かなかっただろう」
と耳元で囁く。
こちらをはっと見つめ返し、唖然という顔をしている。
「ふふっ」
思わず笑みが零れるほど可愛い弟だ。まったく。




