最終話 あれからの話
あの事件から、二つの季節が過ぎた。今はもう照り付ける太陽がじりじりと肌を焼くほどの暑さである。
あれほどの大事件であったはずなのに、王都は既に落ち着きを取り戻している。まるで何も起きなかったかのように平穏だ。
直後は、悪魔の化身が現れただの、敵国の謀略だの、色々な憶測が飛び交ったが、王族・貴族を妬んだ狂人の仕業らしいという話が、まことしやかに囁かれ始め、次第に街は落ち着ついていった。
更に、事件の数日後に、王城々壁の西の端、その堀付近で何らかの動物に食い荒らされた黒い衣服に身を包んだ男の遺体が見つかったと聞いた。それが事実なのか、どうなのかは分からない。私は確かめもしなかった。その必要もないだろう。
どうせ、姉上の策謀の一つであるのは明らかだった。馬鹿らしい、もう出来ればそんな事とは関わり合いになりたくはない。
それにしたって、今日は暑い。しかし、今日も今日とて変わりなく、門番の仕事に精を出している。
そういえば、今日は隊長の姿が見えない。ということは、また庁舎に呼び出されているのだろう。
あの事件の後、未だに二つある副団長の席のうち、一つが空いたままになっている。騎士団長のオウザは、我らが警備隊の隊長ことゴートに副団長になれ迫っているらしいが、ゴートは多忙になるのを嫌ってか難色を示しているようだ。どちらも、二人らしいといえば、その通りだ。
強引に物事を進めるオウザとのらりくらりとかわし続けるゴート、どちらが先に折れることになるだろうか。若手の騎士の間で賭けの対象になっている。暢気なものだ。
ふーっ、と溜息をつくと、胸元の光が目に入った。これは、王家から貰った勲章である。貴族を殺し、騎士たちも敵わなかった敵を討ち取ったことに対して授与されたものである。
くそっ、忌々しい。王家から出た勲章は必ず身に着けるということが騎士の義務でなければ、こんなもの捨ててしまっていただろうに。
この勲章が目に入る度に、ソンダーツについてや自分の不甲斐なさが思い出されて欝々とした嫌な気持ちになる。そんなことを考えつつ働いていると、
「おーい、王子様。今日は早く上がるんだろう。用があるって言ってなかったか」
「そうでした。後、よろしくお願いします」
先輩の騎士に交代を頼み、そのままの格好で大通りを進んでいく。向かう先は王城近くにある訓練場、主に王族の私兵が訓練に使う専用の場所だ。今日はそこにある噂を確かめに来たのである。
訓練場に着くと、中から激しい声や音が響く。確かめに来た噂とは、「カイカ王女兵団にすこぶる強くて、可愛らしい兵士がいるらしい」というもので、若い騎士の間でちょっと目つきが悪いのが玉に瑕だの、それが逆に良いだのとなかなかの騒ぎになっている。
高台から場内を見渡す、すると端の方にひと際、素早い動きの兵士が一人、しばらくじっと見つめているとその視線に感づいたのか、こちらをじっと見返す。
栗色の髪を肩まで伸ばしたその兵士は、
少々悪い目つきながらも満足気な可愛らしい笑顔を見せ、
おもむろに右手の人差し指と中指だけを立て、こちらに向かって突き出すのだった。
これにて、一巻の終わりと相成りました。最後まで読んでいただいてありがとうございます。
なお、ここに長々と書き込むのもどうかと思い、活動報告に「あとがきのようなもの」を書かせてもらいました。
お暇なときにでもお読みいただければ幸いです。




