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第12話 王子 セイの逡巡-1

 頭痛がする。

 頭の中に声が響ている、誰のだろう。

 ふと、気づく、誰かが近くで言い争っているようだ。

 はっとした、急に意識が覚醒してくる。目を覚まし、ガバッと上半身を起こす、どうやらベッドに寝かされていたようだ。一体ここはどこだ。

 辺りを見渡すと、見覚えがある。屋敷の自分の部屋だ。そうだ、私は姉上に呼び出され、屋敷で何か薬を飲まされたのだった。くそ、なんなんだ一体。

「ちょっと、そこをどきなさい。ここは私の屋敷ですよっ」

 部屋の外から声が響く。母上の声だ。すると、ガチャッと扉が開く。

「やっぱり、セイいたのね。もうっ、なんで隠すのかしら。セイ、一体どうなっているのでしょう。今日も晩餐会に呼ばれていたのに、屋敷に帰されてしまったわ」

 母の後ろには困り果てたという顔の姉上の兵がいる。母に無理やり押し切られたのだろう。

「あら、セイ。あなた、顔色があまり良くないわ。大丈夫なの」

 そんなにひどい顔をしているのか、母が心配気に顔を覗き込んでくる。

「はい、おそらく……」

 その時、外で爆発音が、この音は聞き覚えがあった。薬で眠らされる直前の記憶が(よみがえ)る。

『お前がいると、少々面倒なことになるんでね』そう姉上は言っていたはずだ、嫌な予感がする。その予感に突き動かされるように部屋を駆け出していた。


「ちょっと、セイ。どこに行くの」

 後ろから母が呼びかけてくる。

「すいません、急用がありまして」

 走りながら、そう言うと

 「もうっ。」

 と母の不満の声が聞こえたが、取り合う暇はなかった。嫌な汗が背中を伝う。


 屋敷を飛び出て、音の聞こえた方に急ぐ。まだ、爆発音は続いている。

 たどり着くと、そこには二つの遺体、騎士団の服を着ている。何が起きているんだ。

『パンッ』また爆発音。音のした城壁の上方を見上げると二人分の人影が。目を凝らす、あれはっ、ソンダーツではないか。片膝をつき、銃らしきものを突き付けられている。まずいっ、一瞬の判断だった、右手に炎球を創り出し、放つ。

 もう一人の影はギリギリでそれを(かわ)すと城壁の上をゴロゴロと転がり距離を取った。しかし、まだ奴は銃をソンダーツに向けて一発放つ。

「グアッ」

 短いうめき声がする。くそっ。

 右手を地面に着き、地面が水のように波打ち隆起する様子を想起しつつ、力を籠める。地面が音を立て、まるで踏み台のように城壁際で隆起する。それを足掛かりに城壁上に飛び上がる。

 ソンダーツに駆け寄ると、右脚にはナイフが突き立っており、左肩からは流血している。

「セイ、私は大丈夫。奴を仕留めるんだ。奴は四人も騎士を倒している。油断してはいけないね」

 怪我はしているが、命に別状はない様に見える。とりあえず間に合ってよか

った。


「おいっ、そこの男。貴様、何者だ」

 相手の顔を見据える。暗闇の中、破れた仮面の下が覗く。見覚えのあるような、ないような男の顔。

 まだ、薬が効いているのか、そんな状態で魔法を使った疲れの影響なのか、思考が定まらない。

「私が、分かりませんか王子さま。男と間違えたのは二度目ですね」

 しわがれた声でそう言う。はっとする。もう一度、じっと見つめる。

 短い髪に、男の様な相貌(そうぼう)、低くしわがれた声だが、確かにその瞳はあの盗賊の少女、ヨークのもの。

 その手に持つ銃にも見覚えがあった。言われなければ気付かなかったかもしれない。しかしなぜだ、なぜ彼女が、

「なぜ君が、騎士たちを襲うんだ。姉上の差し金か」

「簡単な話さ。そいつが私の大事な人々を奪ったからさ。だからそこを退いて貰おうか。こんな機会二度とは訪れない、そいつを逃がすわけにはいかないんだ」 そんなはずはない。そんな馬鹿なことあるはずがない。

「彼が、君の両親を殺したなんて、人違いでは。そんなことするはずは……」

『パンッ』乾いた音が響く。足元が弾ける。

 彼女が銃を折ると、空の弾がはじき出される、キンキンッとそれが地面に落ちる音。弾を込めながら、

「いいから、そこを退くんだ。確かに、幼い時の話さ。でもね、他の子供ならいざ知らず、私にそんな間違いは万が一にもない」

 鬼気迫った瞳がこちらを射抜くようだ。


「ソンダーツ副団長、これは一体。一体どういうことなんです」

 視線はそのまま彼女の方に残し、彼に尋ねる。

「君は、私よりも奴を信じるのかね。セイ」

 沈黙が重い。確かにソンダーツの言う通りだ。彼より彼女の方を信じる謂れはない。しかし、何故だろう。彼女の瞳から目を逸らせない。嘘を言っている様には見えない。すると、ソンダーツが沈黙を破った。

「ふーっ、わかったよ。確かに彼女の言ったようなことはあったかも知れないね。でもね、セイ、それは大義のためだ。彼女には可哀想なことかもしれないが、そうせねばならない事情があったのだよ」

 衝撃だった。まさか、彼の口からそんな疑惑が語られるとは。どうする、どうすればいいんだ。でも、

「退くわけにはいかないんだ。彼は恩人なんだ。彼がいなかったら私は今の私は存在してないんだっ。せめて事情を、事情を聴いては貰えないか」

 声は()れ、まるで涙声の様になってしまった。

「そいつが貴方の恩人だというのは解ったし、言い分も解ったとしよう。でもね、私はそいつが無慈悲にも両親に刃を振り下ろす場面が頭から離れないし、なんと言ってもさ、今でも妹が悪夢にうなされて、泣くんだ。両親を想って泣くんだよ。だから、だから… そいつがこの世から消えない限り、安心して、笑い合って、愉快に暮らせないんだよっ」

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