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第11話 旅芸人 ヨークの大仕事-2

 王城、城壁の西の端。

 月明りからも影になり、一寸先も見えない、まさに漆黒の闇といった感じだ。再び、その闇に溶けるかのように黒い外套と仮面を身に着ける。おもむろに指を(くわ)え、思い切り息を吹く。甲高い音があたりに響く。

 しばらくすると、「ドスッ」と重い物の落ちる音、近づくと砂袋を結び付けたロープの一端が城の堀付近に垂らされている。

 軽く一度引き、しっかりと結ばれているの確認する、後は所謂(いわゆる)ターザンごっこの要領で城壁に向かって跳躍。思いのほか勢いは強く、足がジンジンと痺れるが、こんなところでいつまでもぶら下がっているわけにはいかない。構わず、一歩一歩城壁を歩くように登っていく。くそっ、荷物が重い、足が滑る。

 やっとの思いで登り切ると、インジがいつもの微笑をたたえながらそこにいた。


「やっと、来ましたね。色々お話ししたいところですが、あまり時間がありません。準備は出来てます。すべてそこの箱の中に」

 インジと共にその箱に近づき開ける。中には剣に四丁の拳銃、一丁の小銃、それに頼んでいた銃弾が入っていた。

 まず、小銃を手に取り、長い銃身と持ち手のところを折るように開き、人差し指ほどの大きさの銃弾を一発込める。銃身を戻し、軽く構えてみる。うん、大丈夫そうだ。

 この小銃は以前、盗んだ銃を元に自作した物の第一号、狩猟用狙撃銃を改造したものである。奪った銃のうち最もブレの少ないものを選別し、銃身を長くしてみたり、弾丸の火薬量を調整してみたりと工夫を重ねた逸品である。一発ずつしか撃てないのが難点だが。


 しかし遠くから敵を狙うだけなら最適だな。城壁から周辺を眺める。

「あんまり、王城の警備が多くないな」

 ふと疑問に思う。

「カイカ様が、なるべく分散されるようにいろいろ手を回しているんですよ。王都の門に検問を敷いてみたりして」

 なるほど。

「ヨークさん」

 呼ぶ声に振り返ってみると、真剣な面持ちでこちらを見つめるインジ。

「なにさっ?」

 尋ねると、彼女が伏し目がちに語りだす。

「本当はね、私があの男を殺してやりたいんです。この世で二人きりの兄妹でしたから。でも、今回の計画において、万が一にもカイカ様の下で働く私が奴らと闘うところは見られるわけにはいかないんです。だから陰ながら手助けすることしかできません」

「わかっているさ。上手くやる、誓うよ。父にも母にもインジの兄さんにも。奴は絶対逃がさない」

 力強く見つめ返す。

「本当によかった。代わりに敵を討ってくれるのがあなたで。あなただから任せられる。おっと、そろそろ、やつらも訪れるころです。私も行かなくては。生きていれば、また会えることもあるかもしれませんね。ではっ、ご武運を」

 そういうと、インジは闇の中に消えてしまった。

 そうだな、インジとならまた会いたいかもね。


 城壁の上を少し移動し、狙いやすい場所を探す。ここなら、いいかもしれない。ビルの二階ほどの高さ、これなら下の道が見渡せる。道は、王城の中で唯一行ったことのある場所、カイカ王女の屋敷に通じている。

 屋敷に向かうだろう奴らを、ここなら狙い打てる。


 準備を整え、右耳に耳栓をする。城壁の上に腹ばいになり、銃床(じゅうしょう)を肩に当て構える。すると、誰かが城門の方からこちらへやって来る気配がする。全部で五人はいるようだ。

 まったく奴らの行動を言い当てた王女様の慧眼には恐れ入る。見えてきたのは騎士の格好をした五人、標的たちであった。距離にして五十メートル程であろうか、何とか射程距離と言うところか。

 狙いをつけるよう銃身先の照星(しょうせい)と持ち手にある照門(しょうもん)を合わせる。いくら相手気取られてはいないとはいえ、この距離では最初の貴族の時のように頭を撃ち抜くのは難しい、集団の中心にいる人物の身体中央に照準を定め、「フーっ」と大きく息を吐く、そして「スーッ」と深く息を吸い、止める。

 引き鉄に乗った人差し指を一気に引き絞る。


 大きな爆発音が王城の一角に響き、ほぼ同時に男が一人倒れ込む。狙いよりもやや低い腰のあたりに着弾したらしく、身体がくの字に折れるように後方に弾ける様に飛んだ。

 その様子を確認しながら、銃身を折り、次弾を装填、再び狙いをつけ引き金を引く。二発目は倒れた仲間に駆け寄った男の足に当たった。二人目はまだ死んではいないようだ。

 続け様に三弾目を込め構えたが、さすが騎士と言うべきか、弱小貴族の私兵のようにその場に立ち尽くすようなことはなく、既に皆、物陰に飛び込んでいる。 まだ息の根のある仲間の下に駆け寄ってでもくれれば仕留められるが。


「お前たち、そこから動くな」

 静かながら、よく通る声が響く。

「しかし、彼らはまだ……」

「わかっているがね。飛び出せばやられるのは確かだね」

 チッ、やっぱり出てこないか。もう一人くらい始末しておきたかったが。

「その城壁の上だ、私はこちらの階段から回り込む。お前たちは向こうから」

「はいっ!」

 若い二人の騎士の声が重なる。

 くそっ、もう場所がバレたか。とにかく、一人も逃がすわけにはいかない、三発目を下の生き残りの騎士に打ち込み、すぐさま移動する。(はさ)()ちは避けたかったが、すぐに二人の若い騎士が城壁上に現れた。

 くそっ、こう近くては長い銃身のこの銃は邪魔になる。後でインジが回収することを期待して、城壁傍に投げ落とすと、腰につけていた拳銃を手に取り、相手に向けて引き金を引く。

 パンと乾いた破裂音が鳴ったが、しかし弾丸は騎士の足元で弾ける。すると、二発目までは時間がかかると思ったのか、彼らが躍りかかってきた。

 一度引いた引き鉄もう一度強く引き絞る。横並びになっている撃鉄のもう一つが弾丸を強打する。二発目の弾丸が先頭の騎士の額にめり込み、頭を後方に弾けさせた。騎士はそのまま後ろ倒しになり沈黙する。

 その後ろに控える騎士から少し距離を取り、拳銃を二丁目に取り換える。


 少しの間の後、四人目の騎士が斬りかかってくる。

 右手に構える銃の引き鉄を引く、その瞬間、騎士がターンするようにして弾丸を(かわ)す。王子様といいコイツといい、騎士ってのは何でこんなに反応がいいんだ。

 二発目、またターンをする。が、二度もおんなじ手に乗ると思うなと、左手で掴んだ三丁目で続け様に三発目、騎士はかろうじて避けたがバランスを崩し前のめりになる。

 今だっ!右手の拳銃を投げ捨て、腰の剣に手を回し、居合切りよろしく一閃(いっせん)

 四人目の騎士は首から血を吹きうつぶせに倒れていった。


 後ろから足音がした。振り向くと、神経質そうな陰気な顔をした騎士が立っていた。

「なかなかやるもんだね。騎士を相手にここまでの立ち回り称賛に値する腕前だね。君は何者だい?一体なぜここに」

「ふんっ。とあるお方に頼まれてあんたを消すために来たのさ。大体、あんた俺の手の内を見るために、こいつら捨て駒にしたろ」

「まぁ、そんな気持ちがなかったとは言わないよ。万が一にもやられるわけにはいかないのでね」

 その顔が父たちを殺した時の顔に重なる。もう居ても立っても居られない。

 左手の引き鉄を引き、同時に斬りかかる。

 しかし、奴は目にも止まらぬ速さで右斜め下から剣を切り上げる、弾丸と私の剣撃を跳ね返した。

 次いで、上から叩きつけるような一撃、剣で受けるがそれで精一杯。

 次の瞬間には腹に前蹴りを入れられ、後方に吹っ飛んでいた。こいつはまずい、ナイフ一本で戦うなんて無理だというはずだよ。


 ゲホゲホとえずく、苦しい、女の腹を蹴るなんてなんてふてえ野郎だ。今は男装してるけど。四丁目の拳銃を持ち、構える。奴がニヤリと笑う。

「見たところ、それが最後の銃みたいだね。私だって銃の存在くらい知っているさ。それはどうやら改造されているみたいだけど。でも、次々銃を取り換えるのを見る限り、連射は出来ないようだね」

 確かに装填するには奴の隙は少ない、でも、

「フンッ、よく狙うんだね。その二発が外れた時が君の最後だよ」

 そう言い放つと、奴が距離を一気に詰めてきた。

 奴に向けて、引き鉄を引く。叩き落とすような剣撃によって弾き落とされる。

 更にもう一発。今度は身を(ひるがえ)す様に避けられる。

 次の瞬間、

「グッ」

 短いうめき声をあげ、バランスを崩し倒れ込む、騎士の姿。奴の右脚には深々とナイフが刺さっている。

 その隙に王女様謹製(きんせい)の銃を折るように開く、遠心力により空薬莢(からやっきょう)が飛び出す。手早く装填し、片膝をつき立ち上がろうとする奴の頭に向けて構える。

「何も飛び道具は銃だけじゃないさ。妹が言うには俺のナイフ投げの技は最高なんだそうな」

 そう言いつつ、引き鉄を引き絞ろうとしたその時、『ゴウッ』と言う轟音と共に炎の球がこちらに迫って来た。

 何とか身を(よじ)り、転がるように避ける。くそっ、なんなんだ。炎が来たその先に視線をやる。

 そこにはあの王子が怒りに満ちた様子でこちらを見据えていた。


 王女様よ。ちょっと話が違うぜ。ちくしょう。

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