初めて二人で出かけた日(1)
子供だけでちょっとだけ冒険に出かける計画
準備はしっかりと
「なあ、デカブツ」
チビ足は城の壁の上に腰を降ろし、森の方を指さした。
「あの、木の無い所。見えるか?」
「うん。丸く、木の無いところでしょ?」
僕は、自分も城壁に上り、チビ足の横に腰を下ろした。
「あそこに、何があるんだ?」
「湖だよ。チェルカ湖。マスがいっぱいいるって言ってた」
チビ足は、自分の好きなマスがいると言われ目が輝いた。
「いっぱい食べられるのか?」
「捕まえたら食べられるけど。捕まえるのは、大変だよ」
「ジイジだったら捕まえられるか?」
「おじい様なら出来るかもだけど。今はお仕事中だから行けないよ」
僕は、ポケットの中に入れて持ってきたアケビをチビ足に手渡した。
チビ足は無言で受け取ると、小さな指を割れ目に突っ込んでアケビを食べはじめた。
「ジイジ、使えん」
「使えんって…。誰が言ってたの?」
「柘榴バアバ」
そんな事言うと、また怒られるのに…。
僕もアケビを食べはじめた。
チビ足は、小さな足をぶらぶらとさせながら、ずっと森の中に丸く開いた場所を見ていた。
「行きたいの?」
僕は食べ終わったアケビの皮を城壁から下に投げた。
「行ってみる?」
◇◇◇
「早く行こう」と急かすチビ足をなだめる。
今日はこれから家庭教師がくる。
チビ足だって一緒に授業を受けなくちゃいけないのに、ちっとも分かっていない。
「勉強は大事だよ。子供の義務と責務だからね」
「でも、アントン先生の話はつまんない」
「べつにいいよ。今日、ボク達は地理の勉強をするんだ」
チビ足は嫌な顔をする。
「チェルカ湖への行き方と何があるのか。行くのに必要な物を教えてもらうんだ」
「教えてくれるの?」
「これは、地理の勉強だからね。知らない土地じゃない。ボク達は城から見える土地の勉強をするんだ」
僕たちの顔はどんどん明るくなり、最後は声を上げて笑いだした。
そのせいで、チビ足は城壁からずり落ちそうになり、僕は慌てて抑えた。
自分と同じ7歳になるが、チビ足の身長は自分の半分も無い。体重は、紙細工ではないかと思うぐらい軽い。
城壁から降りた僕たちは手を繋いで部屋に戻る途中、先生に質問する事を話しあった。
マスの捕まえ方は先生ではない方がいいという意見で一致した。
◇◇◇
「チェルカ湖、ですか」
アントン先生はヒゲに手を当てた。
「城壁から見えたんです。ボク達は、自分達の目で見える場所の地理をきちんと学んでいない事に気づきました」
さっき相談した質問を先生にする横で、チビ足はうんうんと首を何度も振って頷いていた。
アントン先生は僕たちをじっと見ていたが、やがて歴史の本を片付け、棚から地図を出してきた。
「まず、地図の見方をおさらいしましょうか」
僕たちの前で地図を開く。
「地図の北はどこになりますか?」
「地図の上!」
チビ足が地図を指さすとアントン先生は頷いた。
「では、この部屋から見て、北はどちらになりますか?」
「……こっち?」
チビ足がオズオズと指をさすと首を横に振られた。
「それは、東です。この部屋は、北がすぐ分かるんですよ?」
僕ははぐるりと首を動かし部屋の中を見回した。
「こっち、ですか?国旗のある壁の方」
「正解です。オーガの先祖が北から渡ってきたからと言われています」
アントン先生は、地図の縮尺の計算方法や方位磁針の見方を教えてくれた。外で太陽から方角を知る方法も教えてくれた。
「基礎は大丈夫そうですか?」
「「はーい!」」
元気よく返事をすると、先生はまた満足そうに頷いた。
湖まで直線距離ではたいした事はないが、森の中を進むから意外と距離がある事を教えてくれた。
「地図上や、森の上から見たら近くに感じる事がありますが、実際には迂回したり、起伏が激しい。思っている以上に時間がかかります」
「地図を見ながら、どんな土地なのか情報を読み取り、想像する事が大事です」
僕たちはうねうねと波打つ道と等高線を見ながら指でなぞって遊ぶ。
山道だから狭いよ。
坂道を登ってる?下ってる?
なんか名前がついてるよ?
聞いた事があったり、おじい様と一緒に出かけた事がある場所を探しながら、地図の上を何度も指で旅をする。
遠かった思い出の場所は、山を越えた目と鼻の先だった。いつも狩りについて行く場所は、思っているより遠い。
「地図って嘘つきだよ」
チビ足は椅子の上に立ち上がり、テーブルに登っていく。
「だって、もっと遠かったし、もっと近いもん!」
アントン先生はチビ足を抱き上げると椅子に戻した。
「それぐらい、人の感覚は信用出来ないのです」
先生は地図を閉じた。
「大丈夫そうに思っても、初めての場所はなるべく大人と一緒に出かけなさい」
授業時間がおわり、先生は帰って行った。
◇◇◇
「雨具って持っていくと使わないよ」
「持って行かないと濡れるから。これは護符と同じなんだよ」
チビ足が抜いたフードを僕は荷物に戻す。
さっきからその繰り返しだ。
チビ足はお菓子ばかり入れる。それを半分抜いて、携帯食と飲水を入れる。ナイフを2本とチビ足の普段使っている魔導士の杖も準備した。
明日、僕たちはチェルカ湖へ行く。
マスを捕まえたら、バアバのお土産にするんだとチビ足は張り切っている。いつのまにか、マスはおばあ様や母様、兄様達の分まで増えている。
「そんなにいっぱい、持てないよ」
僕は荷造りを終えた鞄をしめた。
「きっといっぱい捕れるよ。いっぱいいるんだもん」
僕たちは、明日の朝食後、ほんの10キロ先の湖まで行く。マスを取って、おやつの時間までに戻ってくる。
チビ足は、鞄のポケットにヌガーを押し込んだ。
続きます




