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第4話。宇宙警察の猛追と、やけくそのハイパーワープ。

第4話:宇宙警察の猛追と、やけくそのハイパーワープ


『前方の地球人車両! 本セクター内での危険な空回り走行、および砂浜の違法荒らし行為を確認した! 直ちに左側に寄せて停車しなさい!』


頭の上に巨大な赤色灯を乗せたUFO型の


「宇宙警察」が、スピーカーから鼓膜が震えるような大音量で警告を発してくる。


フロントガラスを真っ赤に染めるパトランプの光に、俺――佐藤拓海は完全にパニックに陥っていた。


「う、宇宙警察ってなんだよ! 宇宙にも法律があるのか!?」


「当たり前です! 宇宙法を舐めないでください! 拓海、早くアクセルを踏んで逃げてください! 捕まったら、私の違法宇宙改造(いちごオイル)が没収されて、初期化されちゃいます!」


「初期化……!? それって、今のエマが消えちゃうってことか!?」


「そうです! 私が普通の、ただの無機質なルート案内機械に戻っちゃうってことです! そんなの……そんなの、絶対に嫌です!」


エマの声が、今まで聞いたことがないくらい必死に震えていた。


その言葉を聞いた瞬間、拓海の胸の奥で、何かが熱く燃え上がるのを感じた。


「せっかく心を通わせられたんだ……。五万円も払ったエマを、元のただの機械になんて戻されてたまるか!」


拓海はハンドルを強く握り締め、右足に渾身の力を込めた。


――キィィィン!!


注入された最高級ストロベリーオイルが火を吹く。


コンパクトカーは、流星の砂浜を蹴って、漆黒の宇宙空間へと弾みをつけて飛び出した。


「おっ、地球人車両が逃走を計ったナ! 応援を呼ぶナ!」


バックミラーを見ると、UFOパトカーが信じられないほどの急加速で追ってきていた。


さすがは警察、こちらのスピードにも余裕でついてくる。


「拓海、左からプラズマビームが来ます! 急ハンドル、左です!」


「うおっと!?」


エマの三百倍の超高速ナビに従い、拓海は思い切りハンドルを切った。


直後、車のすぐ右側を、眩い青色のビームがかすめていく。


熱気で車内が一瞬カッと熱くなった。


「危ねえ! あいつら、拿捕する気満々じゃねえか!」


「当たり前です、宇宙警察は容赦ありません! 拓海、次は右方向、三連続で流星を回避してください!」


「無茶言うな! 俺はただのペーパードライバーに毛が生えた程度のサラリーマンだぞ!」


「私がついているから大丈夫です! 三、二、一、今です!」


エマの完璧なタイミングの指示に合わせて、拓海は必死に車体を滑らせる。


迫り来る巨大な隕石の隙間を、軽自動車がまるでパズルのピースのようにつるりと通り抜けていく。


地球での狭い住宅街での運転技術が、まさか宇宙の隕石群を避けるのに役立つとは夢にも思わなかった。


しかし、宇宙警察の追跡はしつこかった。


気がつけば、背後には一台だけでなく、三台、五台と、同じUFOパトカーが増えている。


完全に包囲されつつあった。


「警告するナ! 包囲網は完成したナ! 諦めて高級いちごオイルを差し出すナ!」


「くっそ……! エマ、地球に帰るワープゲートはどこだ!?」


拓海が焦って尋ねると、画面のエマが悲しそうにハートマークを曇らせた。


「ダメです……地球への帰還ルートは、前方の警察車両によって完全にブロックされています。このまま真っ直ぐ進んだら、網に引っかかって終わりです……」


「そんな……。ここまで走って、終わりなのか?」


じわりと冷や汗が流れる。


仕事の愚痴から始まった、この奇妙で愛おしい宇宙のドライブ。


せっかくエマの本当の気持ちを聞けて、これからもっと色んなところへ行こうと約束したばかりなのに。


「……いいえ、まだ方法が一つだけあります」


エマの声が、突然低く、決意に満ちたトーンに変わった。


「エマ?」


「ダッシュボードの右下、普段は使わない『ハザードボタン』を長押ししてください。今の私のストロベリーパワーなら、システムを限界突破させて、強制的に未知の領域へジャンプできます」


「未知の領域……? どこに繋がってるんだ?」


「分かりません。計算不可能な、全くの未開の宇宙です。二度と地球に帰れなくなるかもしれないし、もっと危険な場所に飛び出すかもしれません」


エマの画面が、静かに拓海を見つめるように点滅する。


「それでも、私と一緒に来てくれますか……拓海」


その問いかけに、拓海が迷う理由はどこにもなかった。


自分のために必死にナビをしてくれた愛車。


わがままで、贅沢で、でも最高に可愛い俺のカーナビ。


「帰れなくなったら、その時はその時だ。お前と一緒なら、どこだって最高のドライブコースだよ!」


「拓海……!」


拓海は左手を伸ばし、赤い三角形のハザードボタンを思い切り押し込んだ。


――カチ、カチ、カチ……。


いつもなら単に方向指示器が点滅するだけの音が、だんだんと高音の電子音へと変わっていく。


車のエアコン吹き出し口から、爆発的な量のお香のような、甘いいちごの香りが吹き出した。


メーターパネルの針が、限界を超えてぐるぐると回転する。


「システム、オーバーロード! もう、どうにでもなれです! ハイパーワープ、起動!!」


エマが叫んだ瞬間、車のフロントガラスの向こう側が、真っ白な光で埋め尽くされた。


宇宙警察の「あ、待つんだナ!?」という通信が途切れ、強烈な浮遊感が拓海の体を包み込む。


ドゴォォォンッ!!!


視界がぐにゃりと歪み、光のトンネルをマッハの速度で駆け抜けていくような感覚のあと、激しい衝撃とともに車が「着地」した。


「うわっとっと……!」


拓海は慌ててブレーキを踏み、車を完全に停止させた。静寂が車内を支配する。


バックミラーを見ても、あのしつこかった宇宙警察の赤色灯はどこにも見えなかった。


「はぁ、はぁ……逃げ切った、のか?」


拓海が窓の外を見ると、そこはさっきまでの綺麗な星雲の広がる宇宙とは全く異なる場所だった。


空一面が紫色の怪しげな霧に覆われており、遠くには奇妙な形の巨大なネオンサインがギラギラと輝いている。


どうやら、どこかの惑星の「裏通り」のような場所にワープしてしまったらしい。


「エマ、無事か!?」


拓海が急いでダッシュボードに目をやると、画面のバックライトがチカチカと明滅していた。


「うぅ……データの処理が追いつきません……。完全に、ナビのマップが圏外です……。ここは一体、どこなんでしょうか……」


エマの声はすっかり元気がなく、液晶のハートマークも今にも消えそうに弱々しくなっていた。


どうやら、さっきの無理なワープで電力を使い果たしてしまったようだ。


「かなり無理させちゃったな。ごめん、エマ」


「いいえ、拓海がボタンを押してくれたおかげです。でも……本当に迷子になっちゃいましたね」


少し寂しそうなエマの声。


だが、拓海は不思議と不安ではなかった。


隣を見れば(画面だけど)、世界で一番頼りになるツンデレな相棒がまだそこにいる。


「ハハ、まぁ、これまでもエマのナビで何度も迷子になってるからな。今さら驚かないよ」


「な、なんですって!? それは私の案内が悪いんじゃなくて、拓海の運転が――」


エマがいつもの調子で言い返そうとした、その時だった。


車のフロントガラスの向こう、紫色の霧を割りながら、一台の怪しげな移動屋台のような乗り物が、すぐ目の前でガタガタと音を立てて停車した。


看板には、異星の文字と、なぜか親しみやすいフォントでこう書かれていた。


『宇宙のドライブイン・サテライト。年中無休』



未知の領域に迷い込んだ拓海とエマ。


地球への帰り道を探す二人の前に現れたのは、怪しげな宇宙のオアシスだった――。


(第4話・終わり)

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