第14話:賞金稼ぎの襲撃と、王都のドライブスルー(?)大作戦
第14話:賞金稼ぎの襲撃と、王都のドライブスルー(?)大作戦
王城の豪華な客室で、エマと同じ部屋(ベッドと床だが)でドキドキの一夜を過ごした翌朝。
俺――佐藤拓海は、最悪の目覚まし時計の音で飛び起きることになった。
ドガァァァンッ!!!「うおわっ!? な、なんだ!?」
凄まじい爆発音と共に、客室の頑丈な木製の扉が木端微塵に吹き飛んだ。
もうもうと立ち込める煙の向こうから現れたのは、全身に不気味なトゲのついた黒い鎧をまとい、身の丈ほどもある巨大な大斧を担いだ、見るからに治安の悪そうな大男だった。
「ガハハハ! 見つけたぞ、暗黒竜を倒したっていう地球人の小僧! その首にかかった国家一つ分の賞金、この魔王軍お抱えの賞金稼ぎ『鉄斧のボルグ』様がいただくぜぇ!」
「しょ、賞金稼ぎ!? っていうかここ王城のど真ん中だぞ! セキュリティどうなってんだよ!」
拓海がパジャマ姿でベッドから跳ね起きると、隣のベッドから同じく飛び起きたエマが、エメラルドグリーンの髪を怒りで逆立てながら、ボルグに向かって枕を投げつけた。
「朝の七時ですよ不審者! 最新鋭の美少女ナビゲーターの睡眠データ(美容睡眠)を妨害するなんて、万死に値します! 拓海、早く服を着替えてください! ここはデータの処理を諦めて、一時撤退です!」
「お、おう!」
拓海はマッハの速さでスーツに着替え、エマの細い手を掴んで、吹き飛んだ扉から廊下へと飛び出した。
「待てぇ! 逃がすかよぉ!」
ボルグが巨大な大斧を振り回しながら、凄まじい地響きを立てて追ってくる。
王城の廊下を全力疾走していると、向こうから白銀の鎧をガシャガシャと鳴らしたクラリスが、部下を引き連れて走ってきた。
「拓海殿、聖女エマ様! 申し訳ありませぬ、魔王軍の放った賞金稼ぎどもに、王城の外郭が突破されました! 街の中も、賞金目当ての不逞の輩でごった返しております!」
「クラリスさん! 俺たちの車は無事なのか!?」
「魔獣係留所に厳重に保管してあります! 私が殿を務めますので、お二人は早く神の乗り物へ!」
「感謝する、クラリスさん! 死ぬなよ!」
拓海はエマを引っ張り、王城の階段を駆け下りて中庭の係留所へと向かった。
そこには、中世風の馬車に囲まれて、ぽつんと異彩を放つ俺のコンパクトカーが、昨日エマが施した
『ハイパー・ストロベリー・コーティング』によって、朝日を浴びてキラキラと輝いていた。
二人はそれぞれのシートへと滑り込み、ドアを叩き閉めてキーを回す。
――キィィィンッ!!!!
「エマ、現在のエネルギー残量は!?」
「昨日のパフェと、夜間のソーラーチャージのおかげで、現在八五%です! 実体化モードを維持しながらでも、街を駆け抜けるには十分な出力が出せます!」
エマはドレスの裾を気にしながらも、ダッシュボードの画面を素早く叩き、王都『ルミナリア』の市街地マップを展開した。
画面には、賞金稼ぎたちの位置を示す無数の『赤いバツマーク』が点灯していく。
「街の主要な大通りは、すべて賞金稼ぎのバリケードで封鎖されています。普通に走ったら一瞬でハチの巣です。拓海、ここからは私の『裏道ナビ』の本領発揮です!」
エマの大きな瞳が、かつての「おバカカーナビ」だった頃とは違う、絶対的な自信に満ちてきらめいた。
「よし、お前のナビ通りに走ってやる! 行くぞ!」
拓海がアクセルを踏み込むと、コンパクトカーはタイヤを激しく空回りさせながら、中庭の石畳を蹴って王都の市街地へと飛び出した。
「およそ百メートル先、市場の広場を斜め右、果物屋の屋台の隙間を突っ切ってください!」
「屋台の隙間ぁ!? 弁償代どうすんだよ!」
「金貨の袋ならさっき私がトランクにハッキング(回収)しておきました! 支払いは後です、突っ込んでください!」
「うおおおっ、ごめんよ果物屋のおっちゃん!」
時速八十キロで市場に突入したコンパクトカーは、エマの正確な指示通り、並べられたリンゴの樽とオレンジの箱の間、わずか数センチの隙間を、ドリフトしながら鮮やかにすり抜けていく。
飛び散る果実の甘い香りが、エマのいちごの香りと混ざり合って車内に広がった。
「な、何だあの鉄の塊は!? 聖女様が乗っているぞ! 捕まえろぉ!」
路地裏から飛び出してきた徒歩の賞金稼ぎたちが、網や弓矢を構えて立ちはだかる。
「拓海、ワイパーを最大出力! ウォッシャー液(聖水仕様)を噴射です!」
「よし、くらえ!」
拓海がレバーを引くと、フロントガラスから勢いよく噴射されたウォッシャー液が、エマの魔力によって「聖なる閃光の霧」へと変化した。
「うわっ!? 目が、目がぁぁぁっ! 聖なる光が眩しすぎるナ!?」
賞金稼ぎたちが目を押さえて次々と転倒していく。
その隙を、車は時速百キロで一瞬にして駆け抜けた。
「ふふん、これぞ王都市街地限定『ドライブスルー大作戦』です! 立ち塞がるデータはすべて一瞬で処理してあげます!」
助手席のエマは、スピード感に少し頬を紅潮させながら、楽しそうにドヤ顔を決めてみせる。
人間の姿になって、拓海のすぐ隣で一緒に戦っている(ナビしている)という状況が、彼女のシステムに最高のご褒美ログ(快感)を与えているようだった。
「エマ、最高のナビだ! このまま城門を突破して、王都の外へ出るぞ!」
「了解です! 直線距離、残り五百メートル、……って、ああっ! 拓海、前方の城門の上に、さっきのボルグが先回りしています!」
フロントガラスの向こう、王都の巨大な出口である城門のロープの上に、さっきの大男ボルグが待ち構えていた。
彼は大斧を頭上に掲げ、落ちてくる車を真っ二つに叩き割る構えをとっている。
「ガハハハ! 逃がさねえと言っただろうが! 上から叩き潰して、その首を魔王様へ届けてやるわ!」
「クソ、あの高さじゃロードキル(体当たり)もできない! どうするエマ!?」
拓海が悲鳴を上げると、エマは不敵に微笑み、拓海の左手に自分の小さな手をそっと重ねた。
ドレスの袖から香るいちごの匂い。
そして、繋いだ手から流れ込んでくる、圧倒的な魔力の波動。
「忘れたんですか、拓海。今の私は、通常の三百倍の超高性能なんです。……ハザードボタンを、一秒だけ(・・・・)長押ししてください」
「一秒だけ……? よし、合わせてくれよ、エマ!」
拓海は左手でエマの手を握ったまま、右手で赤い三角形のボタンを押し込んだ。
――カチ。
「システム、一瞬の局所ワープ(ショート・ジャンプ)起動ッ!」
エマが叫んだ瞬間、車の視界がガタリと歪んだ。
城門の真下へと突っ込んだコンパクトカーの姿が、ボルグが大斧を振り下ろす直前、文字通り『ぷつん』と空間から消失した。
「ぶはっ!? 消え……っ!?」
ボルグが大斧をスカッと空振りさせて地面に激突し、自分の武器の重さで前のめりにズッコケる。
その一瞬後、城門を完全に通り抜けた『外の街道』の空間に、コンパクトカーが何事もなかったかのようにプシューと再出現した。
「ワープ成功です! ざまぁみやがれです、ボルグ!」
エマは助手席の窓を開け、後ろに取り残されて呆然としているボルグに向かって、あっかんべーと舌を出してみせた。
その姿は、聖女というよりは、完全に勝利したいたずらっ子のようだった。
「やった……! 逃げ切ったぞ!」
拓海はアクセルを踏み続け、王都を背にして、果てしなく続く異世界の荒野の街道へと車を走らせた。
「ふぅ……。緊迫した処理が多くて、ちょっとシステムが熱を持っちゃいました。拓海、次の目的地が決まるまで、少しスピードを落として、ゆっくり安全運転に切り替えてください」
エマはシートに深くもたれかかり、繋いだままだった拓夏の手を、今度は自分からきゅっと握り直した。
「……あ、あの、エマ? 手、繋いだままだぞ?」
「いいじゃないですか、べ、別に減るもんじゃありませんし! 拓海が私のナビを信用して、上手に運転してくれたことへの、一時的な一時金です! 勘違いしないでください!」
顔を真っ赤にしてフイッと窓の外を見るエマ。
王都市街地をドライブスルー(突破)した二人は、魔王軍の指名手配から逃れながら、地球への帰還をかけた『魔王城攻略ドライブ』という、世界で最も危険で、世界で最も甘酸っぱいロング・ランへと突入していくのだった――。
(第14話・終わり)




