『俺の愛車カーナビがツンデレ彼女に進化して、宇宙へドライブすることになった件』第12話:空飛ぶ暗黒竜と、三次元の立体ナビゲーション。
『俺の愛車がツンデレ彼女に進化して、宇宙へドライブすることになった件』
第12話:空飛ぶ暗黒竜と、三次元の立体ナビゲーション
『グオォォォォォンッ!!!』漆黒の鱗に包まれた『魔王軍の暗黒竜』の咆哮が、白亜の王都『ルミナリア』を激しく揺らす。王都の住人たちが悲鳴を上げて逃げ惑い、空を見上げた聖騎士クラリスの顔は、絶望に青ざめていた。
「嘘だろ……。魔王軍の暗黒竜が、なぜこんなタイミングで……っ! 我が王国の対空魔導砲では、あの強固な逆鱗を貫くことはできん!」
「クラリスさん、諦めるのはまだ早いです。……拓海、お着替えデータの観賞会はここまでです。急いで車に戻りますよ!」
上品なピンクのドレスをなびかせながら、エマが拓海の腕を引っ張った。
人間の姿になった彼女の足取りは、先ほどの魔力果実の効果で驚くほど軽い。
「おう! ドラゴンだろうが何だろうが、俺たちのドライブを邪魔する奴は全員ロードキルだ!」
拓海はドレスショップを飛び出し、城門の近くに停めてあった愛車へと全力で走った。
車のドアを開け、二人はそれぞれのシートへと滑り込む。
クラリスも慌てて後部座席へと飛び込んできた。
キーを回すと、高級いちごオイルと魔力果実のハイブリッドエネルギーが、コンパクトカーの心臓部を力強く目覚めさせる。
――キィィィンッ!!!!
「エマ、相手は空を飛んでるぞ! こっちはただのコンパクトカーだ、どうやって戦うんだよ!?」
「忘れたんですか、拓海? 私たちはさっき、宇宙警察から逃げるために『崖から宇宙へジャンプ』したじゃないですか。あの時のワープ慣性と重力制御のログは、すべて私のシステムに保存されています!」
エマはドレスの袖をまくり、ダッシュボードの画面を素早くタップした。
画面には、王都の上空を旋回する暗黒竜の『三次元立体マップ』がリアルタイムで構築されていく。
「現在の私の魔力残量は一二〇%。この車を一時的に『完全対空飛翔モード(スカイ・ドライブ)』へとシフトさせます。拓海、おねがいです……私を信じて、大空へ舵を取ってください!」
「お前を信じないわけがないだろ! フライトモード、オンだ!!」
拓海がハザードボタンを再び長押しすると、コンパクトカーの四つのタイヤがキュインと真横に変形し、下方向に向けて強烈な虹色の魔力ジェットを噴射し始めた。
ドゴォォォンッ!!!
中古の軽自動車が、重力を完全に無視して、王都の大通りから垂直に急上昇を始めた。
「ひゃああああっ!? また浮いたぁぁぁ! 今度は本当に空を飛んでいるぞぉぉぉ!?」
後部座席のクラリスが、再びおよそ聖騎士とは思えない悲鳴を上げる。
フロントガラスの向こう、白亜の王都の街並みが一瞬で眼下に遠ざかり、目の前には巨大な黒いドラゴンの胴体が迫ってくる。
『ヌオッ!? 何だ、その鉄の羽虫は……!』
暗黒竜が巨体に見合わぬ素早さで反転し、その巨大な口を開いた。
喉の奥で、ドス黒い破壊の魔力ブレスが収束していく。
「拓海、正面から高エネルギー熱線が来ます! 三秒後に『急降下』です! 三、二、一、今ッ!」
「うおおおっ!」
拓海はハンドルを思い切り前に押し込み、アクセルを踏み込んだ。
直後、コンパクトカーは急降下爆撃機のような角度で真下へと落下する。
その一瞬後、さっきまで車がいた空間を、街を一つ消し去るほどの暗黒ブレスが轟音を立てて貫いていった。
「危ねえ……! 直撃してたらワックスが剥がれるどころじゃ済まなかったぞ!」
「感心している暇はありません! 暗黒竜の防壁データに一箇所だけ、魔力の流れが滞っている『バグ』、つまり逆鱗(弱点)を見つけました! ちょうどあのトカゲの眉間の部分です!」
エマが助手席から身を乗り出し、フロントガラス越しにドラゴンの顔を指差した。
「あそこに、私たちの全魔力を込めた『聖水体当たり』をブチ込みます! ですが、相手も馬鹿じゃありません。直線で突っ込んだら叩き落とされます。私のナビゲートの通りに、空中を立体的に『ドリフト』してください!」
「空中でドリフト!? やってやるよ、俺のゴールド免許を舐めるな!」
拓海は覚悟を決めた。
暗黒竜が長い尻尾を激しく振り回し、空飛ぶコンパクトカーを叩き潰そうと迫ってくる。
「右に二メートル、ロール! 次は左にスピン!」
「おおおっ!」
エマの超絶立体ナビに従い、拓海はハンドルを狂ったように回す。
空中に目に見えない『光のレーン』がエマの魔力によって敷かれ、車のタイヤがその光の壁をガチガチと捉えながら、三次元の空空間を縦横無尽に跳ね回る。
ドラゴンの尻尾の猛撃を、紙一重のローリングで回避し、剥がれ落ちた漆黒の鱗の破片を、華麗なスラロームで潜り抜けていく。
「すごい……! なんという空中機動……! まるで伝説の天空騎士だ……!」
クラリスが後部座席で涙を流しながら感動していた。
「拓海、ルートは完全に開けました! 直線距離、残り二百メートル! 聖なる魔力バンパー、最大出力です!」
「これで終わりだ、トカゲ野郎!!」
拓海がアクセルを床まで踏みちぎると、コンパクトカーのヘッドライトから、先ほどのギガント・ボア戦の十倍を超える、眩い純白の聖なる光が噴き出した。
車全体が、まるで巨大な光の剣のようになって、暗黒竜の眉間へと一直線に突き進む。
『な、何だこの光はあぁぁぁっ!?』
暗黒竜が恐怖に目をみはったその瞬間、時速二百五十キロの聖なる軽自動車が、その眉間の逆鱗へと完璧に突き刺さった。
ドォォォォォォォンッ!!!!!
王都の上空に、今日一番の美しい光の爆発が巻き起こる。
闇の魔力で出来ていた暗黒竜は、聖なる光の衝撃に耐えきれず、断末魔の悲鳴を上げながら、光のチリとなって空へと霧散していった。
暗雲が晴れ、美しい夕焼けの光が、王都と、ゆっくりと大通りへと着陸していくコンパクトカーを優しく照らし出す。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やった、のか?」
拓海がハンドルから手を離すと、その手はガクガクと震えていた。
だが、胸の奥には確かな達成感があった。
「お疲れ様です、拓海。……私の言った通り、完璧なドライブでしたよ」
助手席のエマが、少し息を切らせながらも、今までで一番優しく、一番美しい微笑みを拓海に向けた。
ピンクのドレスが夕日に染まって、信じられないほど綺麗だ。
「ありがとう、エマ。お前のナビのおかげだ」
「ふ、フン……。当然です。私は拓海のナビゲーターなんですから。……あ、でも、さっきの空中ドリフトでドレスの裾がちょっとシワになっちゃいました。地球に帰ったら、もっと高い本物のドレスを買ってもらいますからね!」
ツンとそっぽを向くエマ。
だが、その耳のあたりは真っ赤に染まっていた。
「ああ、いくらでも買ってやるよ」
拓海が笑うと、後部座席のクラリスがガタッと立ち上がり、興奮した様子で二人に頭を下げた。
「聖女エマ様、神聖騎士拓海様……っ! まさか魔王軍の暗黒竜をも一撃で討ち果たすとは……! 国王陛下も、いや、この世界の全人類が皆様を称えることでしょう! 是非、このまま城へ! 最大の宴の準備をさせます!」
こうして、異世界最強の竜を『ロードキル』してしまった拓海とエマ。
彼らの名は一瞬にして世界中に広まり、地球への帰り道を探すはずの旅は、なぜか「魔王軍から世界を救う」という、とんでもない壮大なルートへと再検索されようとしていた――。
(第12話・終わり)




