#46 第五十六噺
ピチピチの白セーラーを纏った木守紬は、ふうふう言いながら交差の路の石段を登る宮代蛍の背中を押していた。
2人は代わる代わる、スッpongpongの愛衣花・エル・ターナーを背負いながら、宮代の杜を目指し、ひたすら山道を登っていく。
「……ちょっ、きゅ、きゅ、休憩しましょう……」と蛍が掠れた声を出し、ドサッと気絶した白い少女を石の上に下ろした。
「ホタル…どんだけ強くメイカちゃんを殴ったのよ……大丈夫?頭、陥没してない?」と言いながら、紬が金髪の後ろを撫でてやると、大きなタンコブが触れた。「凹んでないなら大丈夫よ。後で冷やしてやりましょう。」と蛍が汗を拭きながら言う。
実は学校を出る時に、『剥き出しはあまりにも可哀想ではないか……』との蛍の計らいで、愛衣花の身体にはガムテープが貼られており、親しき仲にも礼儀として、2人の友人が直接危険な場所をガン見しないで済むように工夫されていた。
「あの時はいいアイデアだと思ったけどさ…」と紬が言う。「ガムテープってマズくないかな??剥がす時、その勢いで蓄火が消えたりしないかしら……」
「……大丈夫っしょ。まあ、うちに帰れば除光液とかあるから。それを塗れば剥がせるんじゃない?」と蛍が竹筒に口を付けた後、「ん」と紬にも差し出した。
紬は「ありがと」と言ってそれを受け取り、……んぐんぐんぐ……と中に入った冷たい水を飲んでいく。
そして、「いや、除光液はダメでしょ。肌が荒れるから。」と言う。「今回はメイカちゃんに命を助けられたからね……」と紬は、汗で肌に張り付いたピチピチの白セーラー服の肩を引っ張り、スカートの下に履いた魔法少女パンツのよれを気付かれないように直しながら言った。
それに目ざとく気付いた蛍が、「そのパンツ、小さい頃兄貴達の誰かが履いてたやつでしょ?そこら辺の低級霊なら手出しできない呪いがかかっているから安心していいよ」と笑った。
「……じゃあ尚更、メイカちゃんには悪かったな……。加護を奪ってしまって………。ねえ、ホタル?メイカちゃんのガムテープ、きちんと剥がせる宮代様のいい技とかはないの?」と紬が落ち込んだような表情で言う。
「……いや、タンスについたシールとかを剥がす技はあるんだけどね……よく考えたら宮代の知恵も人間の肌までは想定してなかったかも。自然に剥がれるのを待てば?古い段ボールとかに付いたガムテープとかは、いつかカピカピになって剥がれるじゃん」
「いつか……って。無責任すぎない??今回はメイカちゃんのお洋服に助けられたんだし、ホタル?アナタ、メイカちゃんが命より大切にしているスク水も滅多切りにしちゃったんでしょ?……もっと真剣に考えてあげて!!」
急に不機嫌になった許嫁に、蛍はアワアワとし、「お、怒らないでよツムちゃん……こう見えてホタルも一生懸命やってるんだから……」と涙目になって、紬の上着に触れようとした。
その手をパシッ!と振り払い、紬が「元はと言えば、アナタが入浴中の私をひどいやり方で追い出したのが始まりなんだからね!!少し前まで優しかった蟲姫様が何であんなに怒るのよ??!大方ホタルがなんかしたせいなんでしょ?!」と言った。
昨日までの出来事を思い出し、フツフツと怒りが込み上げてきた少女は、「臭い銀杏の木の上で一晩明かさなきゃならなかった私の身にもなってよね!雨にも降られたんだから!!」と言ってプイ!と橫を向いてしまう。
「怒らないでよ~~」
と蛍は、石の上に踞る愛衣花・エル・ターナーを見下ろした後、幼馴染みの少女を見つめ、
次に再び、ご丁寧に後ろ側までピッチリと密封されたガムテープの封印を恨めしそうに眺めると、
「わかったよ~、ちょっと調べてくるから待ってて……」と言って道を外れていった。
一人になった蛍は、密集した竹林の隙間に体を滑り込ませると、巾着袋から鉄の御札を取り出し、
「おちゃっぴー??友人のお肌に付いたガムテープを痛くないように剥がすのは、どーしたらいい??」と聞いた。
『いい質問だね!お友達は大丈夫かな?…そうだね、痛くないようにガムテープを剥がすには……、まず、ドライヤーでテープの表面を20秒ほど温風で温めてからね、柔らかくなったところを、端から摘まんでゆっくり剥がすんだ。あ、でもプラスチック製品の場合は熱での変形に注意してね。』
「……友達は、多分プラスチックじゃないと思うけど……ちょっとソフビ人形っぽいところもあるから、一応、他のやり方も聞いていいかしら?」
『そうだね。それならお酢がオススメだね。お酢だけに(笑)。臭いが苦手な人もいるから、オスの原液を水で1:1に薄めたものを、たっぷり塗るといいッピよ。で、乾燥しないようにラップでくるんで10分ほど放置する。このやり方ならお肌を傷めず綺麗に剥がせるはずだよ!』
「……雄の原液ってナニ……?筋トレした後、清一郎兄さんがよく部屋に籠って出してたやつのこと言ってるの??……うちにはもう男子はいないわよ……」
『じゃあ、知り合いに男の子はいないの?例えば高校生くらいのサラサラ前髪の子とか……』
「さあ?心当たりはないわね……」と蛍は言い、溜め息を吐いてアプリを終了した。
……やっぱり何回か御手洗いに行けば、自然と剥がれるんじゃないかしら……。まんいちのことを考えて、メイカっちのまんいっちを隠してあげたんだし……。て言うか公衆の場で脱いでも平気なように、いっそ一生貼りっぱなしでいーんじゃないかしら……。
キンコーン、カンコーン………
交差の路の石段の向こうで、授業が始まるチャイムが聞こえてきた。
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「ツムちゃん、まだ怒ってる??」
「もういいわよ。悪気はなかったのは分かってるわ」とだけ言って、紬は背中に剥き身の金髪少女を背負って石段を下っていた。
「……ホントに今の時期、花粉は大丈夫なんでしょうね?」と紬は呟き、
シットリと汗をかく愛衣花・エル・ターナーの身体を、よいしょ!と背中に引き上げ直す。
「ええ、大丈夫よ。でも村の人達には内緒よ?勝手に通行されたらマズいし、……何より…本当にヤバい季節に通られたら死人が出るからね。」
石段の脇に建てられた複数の塚を見下ろしながら、紬は念のために息を止めて下りていった。
一本鳥居を抜け、今度は蛍が愛衣花を背負うとヒイヒイと言いながら社に向かっていく。
「今日はこのまま学校休む?」
「いえ、駄目よホタル。遅れてもいいから登校しましょ。ズル休みは良くないわ。」
玄関に入り、白人少女を真っ直ぐに寝かせると、蛍は奥の部屋に入っていき、自分と紬のセーラー服他、肌着一式と、適当に見繕ったお受験面接風の紺色のワンピースを抱えて戻ってきた。
2人の少女は急いで制服に着替え、次に金髪少女の上半身と下半身を手分けして代わり番子に持ち上げると、スッポリと身体に服を着せてやった。
「これで一安心ね。」と手をパンパンとはたきながら蛍が満足そうに言う。
「ツムちゃん、考えてもみて。メイカっちは目を離すとすぐ脱ぎたがる危険な少女よ。私達のいないところで事故らないよう、常にガムテープを貼っておくのはアリなんじゃないかしら………」
「……確かに……」と紬が細い顎に人差し指をあてながら答える。「……アナタの言うことにも一炉理あるわね」
「でしょ?あ、そうだ、ツムギ?今日からメイカっちのおうちに泊まらせてもらえることになったの。だからお風呂の心配はしないでね!」
「……ん、メイカちゃんのおうち??」「そうよ。」「……あそこユニットバスだよね……」「ゆにっとばす??」と蛍が首を傾げる。
「……ま、まあ今はいいわ。後できちんと話し合いましょう。とにかく、今はこれ以上授業に遅れないように、急いで登校しましょう。」
「大丈夫よ。どうせ、2限目のプールは中止になるわ。ゆっくり行きましょ。」と蛍が言った。
「プールが中止??!」
と言ってガバッと金髪碧眼の少女が、座椅子のようにピョコン!と上半身を跳ね上げて起き上がる。
「あ、メイカちゃん目が覚めた?大丈夫??」
愛衣花・エル・ターナーは、一瞬自分が何処にいるか分からない様子で、キョロキョロと玄関を見渡し……「ん?ここホタルんち?」と言った。
「……そうよ。アナタ、倒れたから2人でここに運んできたの……」と紬が目を逸らしながら言った。
「…………」
「…………」
「…………」
「あ!ホタル??メイカのスク水はどうなりました??返してくダサイ!!」
「え……」と蛍が絶句して、紬に助けを求めるように袖を引っ張る。
紬はその手を肩を回して振り払い、蛍は諦めて「メイカちゃん……記憶が翔んじゃったかもしれないけど……言いにくいんだけど………、アナタの水着はもう無いわ。粉々になって風になってしまったの……」と済まなそうに言った。
「ええ??!」と愛衣花が叫ぶ。
「悪かったわ!!待ってて!」ドタドタドタ……と蛍は廊下を走っていき、「私のスク水をあげるから……これで許して……」と言って、ドピュッ!と黒い布の固まりを差し出した。
「まあ、So云うことならEですけど……。でもそれじゃ、ホタルもツムギもプールの授業受けられないってことになりますよね??」
「……構わないわ。どのみち今日はプールの授業はないはずよ。フェンスが破れたからね。」蛍は黒い水着の肩紐を掴んで、金髪の友人にそれを進呈し、「ゼッケンはママにでも付け替えてもらって」と言った。
「………今日のプールが中止とは…ショックです。」と愛衣花は項垂れながら言い、「じゃあ今日はこのまま学校を休んで川にでも泳ぎに行きますか??」と笑顔になって2人の顔を見た。
「駄目でしょ!!どうしてアナタ達はそうなの??ズル休みばっかりしていると、蟲姫様みたいな不登校児になっちゃうわよ??!」
「「は~~~い。ママごめんなさ~い」」と2人の少女は声を揃えて言い、
紬が「さ、行きましょ!」と立ち上がった。
「……ちょっと待ってツム。」と愛衣花が言う。
「ホタル………?その…ちょこっと御手洗い貸してください。」
「「え」」と今度は蛍と紬が声を合わせて振り返る。
「……どこですか?中にあるのですか?それとも離れ?」と 愛衣花が聞いてくる。
「お、御手洗い?」と蛍がもう一度聞き返した。「え?メイカちゃんはお手々を洗いたいの??それなら、台所でいいわ……こっちよ。」「いやいやyear……」とネイティブ少女が言う。
「手を洗うってそーいう意味じゃないですから!日本語ってホントむづかしい……おトイレですよ、おトイレ!」と彼女はポッと頬を染めながら言った。
「おトイレ??」と蛍が小さく叫び、また助けを求めるように紬の顔を見る。長い髪の親友は、自分には関係ない……といった表情でよその方向を向いていた。
「お、ト、イ、レ、ですよ!ナニをそんなに驚いた顔をしているのですか?」と愛衣花が若干腰をもぞもぞとさせながら言った。
「いや、その………おトイレの場所を教えてもいいけど………その……驚かないでね?」
「はい???ホタルのおうちのヤツはナニか驚くような仕掛けでもあると言うのですか?」
「いや、そうとも言えるし、そうとも言えないかも……」
「じゃあナンデスカ?!いい加減早く教えてくだサイませんか!?」と、お受験ワンピースを着た金髪少女は身悶えしながら、天に向かって謎の創作ダンス表現を指先でしながら叫んだ。
「ち、ちなみに、メイカちゃん?……大きい方?小さい方?」と蛍が喉が渇ききったような掠れた声で尋ねる。
「それ、申告しなきゃダメですか?!」
「いや……大きい方を選んだら中から化け物が出てきちゃったりして、……アハハ……」と蛍がわざとらしく笑った。
「ホタル!諦めましょう!!これ以上はメイカちゃんが可哀想よ!」と紬が叫び、愛衣花・エル・ターナーは、「ツムちゃん……」と涙ぐみながら同級生のセーラー服に縋った。
「メイカちゃん?私昨日、途中まで泊まったから御手洗いの場所は分かるわ。一緒に行ってあげるから気をシッカリ持って!」「ツムギ……ありがとう……でも出来たら一人で行きたいかも……」「この期に及んで贅沢言わない!ほら、連れてってあげるから文句を言わないこと!!」「文句とは………」そう言いながら紬に手を引かれていく金髪少女の背中を、宮代蛍は神妙な顔をして見送った。
「……で、ダイなの?ショウなの??」
「そ、それはツムギにとって重要ですか……」
「わ、わからないけど、一応??か、覚悟を決める必要があるから!アナタも私も!」
愛衣花は身体をブルブルと震わせながら「die……&そして多分show……」と呟く。
「まさに公開処刑……。」と紬はうまいことを言い、「メイカちゃん……ショックを受けないでね……」と言うと、到着した目の前の木の扉を開け放ち、
バーン!!と宮代家の御手洗いを公開した。
「こ、これは…………??」と愛衣花・エル・ターナーは、自分の視界に入ったものを呆然とした様子で見つめていた。
「ホタルのうちのやつ……凄いでしょ?」と紬が改めて自分も驚いたような顔をして言う。
2人の少女の目の前には、飛行機のコックピットに似た、複雑なコントロールパネルを備えた未来型のトイレが鎮座していた。
「こんなの見たことないよね?私も昨日、初めて見た時驚いた。これ、とてもおトイレに見えないよね?触わると感電しそうで怖いよね……」
一瞬呆気に取られていた様子の愛衣花だったが、……すぐに差し迫った危機を思い出し、
「さっきから驚くと言っていたのはこのことデスカ??た、確かに少し驚きましたが、メイカのおうちだって洋風ですよ?基本的な使い方は同じはずですよね??さ、早くツムギは退出してください。で、半径10メートル以上には近寄らないようにしてく(ダ)さい……」
「メイカちゃん……もう一つアナタには確認してもらいたいことがあるの……」
「なんなんでスカ、いったい??!早くメイカを一人にしてクダサイ!!」
と叫んだ金髪の少女は、ドン!と足の裏で紬のお腹を蹴り、素早くバタン!!と扉を閉めた。
「…………」
10秒……1、2、3………4の5…ハネ。
「………はあ??!な、な、な、な、なんなんですかこれは?…そして、ウッ…は、剥がれないだと??どーなってるんですか??誰がこんなイタズラを?!た、たしゅけて…ツムちゃん…………」
鍵のかかったままのドアノブを虚しく捻る紬の耳に、
『♡♡♡♡ム♡♡♡♡………♡♡♡リュ♡♡……ニュ♡……チョロチョロチョロ……』「ぐすん………」と涙声が聞こえてきた。
「メイカちゃん!『洗浄』と書かれているボタンを押して!!最大出力で出せばきっと洗い流せるわ!」
「ごれ”……?」と鼻をすすりながら囁く声が聞こえた次の瞬間、「ぐうぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………?!!」という呻き声と共に、ブシャァァァァァァ!と水が噴射される音がして、扉にドスン!!と体がぶつかり壁全体が震えるのが分かった。
「洗えた??剥がれた??痛くなかった??」と紬が叫ぶ。
「…………」
「……大丈夫なの?生きてる?……返事をして……」
「と、取れました………。」
「そ……。よ、良かったね………」
「今から出ます。」
カチャリ…と鍵の外れる音がして、鎖骨のところまで、お受験ワンピースを捲り上げた愛衣花が、お憔悴しきった様子でフラフラと出てくる。
下は………………、剥がれた茶色いテープがフンドシのようにぶら下がっていて、肌は濡れて少し赤くなっていた。
上は………、まだビッチリと横一文字にテープが貼り付いたままになっていて、剥がそうとした痛々しい跡が残っていた。
「そっちも濡らして取れないの?」と紬が言う。
「……いえ、それは無理なようです…」と愛衣花が答えた。「……メイカはツムギと違ってまだ母乳は出ませんから。……下と同じように、内側から濡らして剥がすのは不可能かと……」
「ホワッ??!私に、ち、ち、……乳が!出せるわけ…!ないやろがぁ~~~い!!?」と紬は怒鳴りながら、勢い良く腕を旋回させ、思わずベリベリッ!!と白人少女の胸からガムテープをひっぺがしていた。そして2回転目に、宙を舞うテープ片を使ってピシリ!と彼女の額に華麗に突っ込みを入れ、
よろけて、もう一度水壺にお尻を突っ込んだ愛衣花・エル・ターナーのお腹の下から、江戸時代からの伝統芸のようにピューー……と噴水が吹き出すのを見ていた。
そして紬の後ろから、いつの間にかやってきた宮代蛍が顔を覗かせると、「メイカっちはマジで雨乞いの儀に向いてるみたいね…。」と感心したように呟くのを聞いていた。




