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異世界転生した私、なぜか他人の人生をやり直しています。〜私はまだ、物語の外側にいるはずでした〜  作者: 燈霞


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4/12

少年になる。(3)

 いったん魔導書については置いておいて、とりあえず情報収集に徹することにした。とは言うものの、ジャックの家の周りには畑と森以外ほとんどない。このあたりには農場や牧場が多いらしく、現代でいえば数百メートル行って、やっと隣家がある程度の人口密度だ。あの極狭(ごくせま)アパートに住んでいた身からすればとんでもない広さである。

 数キロ離れたところには集落という程度の小さな町があり、商業ギルドがある。そこの市場で作物を売ったり、服飾関係の職に就く人なんかの工房があったりするらしい。このあたりの長はその町に住んでいるそうだ。ただ、その町長であっても身分は平民。お貴族様はここから馬車で5日間ほど揺られていく都市に、やっと数世帯いるらしい。


…10歳までに魔法どころか貴族にさえ会えない気がする…。いや、でもジャックは以前、どこかの森で魔法を目にしている。このあたりを魔法使いが通りかかることもあるのだ。ワンチャンある。大丈夫。


 とりあえず、人が多いところに行きたい。何か手がかりがあるはずだ。そこでジャックはあることを思いつく。このごろのジャックはひどくヤンチャをして、母を困らせていたようだ。ならば、改心したふりでもして、町へ行こうという魂胆(こんたん)である。

早速母のいる台所へと向かった。



 「母さん、俺、町へ行きたい!今週の分の作物、まだ売りに行ってなかったでしょ?それに、買い出しも。いつも母さんとライ達だけで行ってるけど、俺も手伝いたい!!一人でも多い方がもっといっぱい、いろいろなものを運べるだろ?」



 ライというのは15歳の長男だ。いつも町へ買い出しに行くのはマリー母さんと長男のライか10歳の次男、フィル。



 「あらあら、この間は魔法なんて突拍子もないことを言い出すからどうしたものかと思ったけれど。いいわ。じゃあ今日はジャックも連れて行ってあげましょう。今日一緒に行ってくれるのはライじゃなくてフィルだしね。」


 勝った。曇りなき眼で母を見つめる一方、内心でほくそ笑む。しかし、それを阻むものが階段を降りてジャック達のいる台所へとやってくる。



 「ちょっと母さん、それはひどくないかい?付き添いは僕一人でも十分だろう。大体、ジャックなんて連れて行ったら、お守りの手間がかかるだけだよ。」



フィルは10歳とは思えないほど大人びている。どちらかというと脳筋のライとは全く性格が似ていない。



 「しかも、よく見てよ。この顔、絶対に何か企んでるでしょ。」



脇に抱えていた本の表紙でペシペシと頭を叩かれる。クソ、順調にうまく丸め込めそうだったのに…。



 「で、でも、おまえ、重いものあんまり持てねーじゃん!俺が行った方が絶対に役に立つだろ!」


 「はぁ?僕だっておまえが持てるものくらい普通に持てるし!」

 

 フィルは本をジャックに押しつけると、近くに置いてあった小麦粉の入った袋に手をかける。んっ、んっ、と声を出しながら袋を持ち上げようとするが、毛の先ほども浮き上がる気配がない。けなげに頑張っていたが、するっと袋から手が離れたフィルが尻餅をつく。

 そんなに重いのだろうか。俺、持ち上げられるかな、とジャックはその袋をつかむ。年長のフィルが持ち上げられないのだからと身体にふんっと力を込めたところ、すっと持ち上がってしまった。それはもう、いとも簡単に。7歳のジャックの身体からすれば少し重いと感じたが、持ち上げられないことはない。

尻餅をついたままこちらを見上げる涙目の兄とばっちり目が合う。少し申し訳ない気持ちになった



 

 無事、町に行く権利を手に入れたジャックは、母が引く荷車を押す。その間、家と、周辺の森以外から出たことがあまりない彼は、あたりをキョロキョロと見回す。


 

 「おい、危ないだろ。ちゃんと前見て歩けよ。」


 「うるさいな、何にもしてないくせに。」


 「おまえは荷物を運ぶためにくっついてきたんだから集中しろよ。どうせ荷物運びくらいしか出来ないんだから。」



ジャックの少し後ろを歩くフィル。先ほどのことを根に持っているようだ。あー、こういうときは何もいわずに黙っていた方がいいな。ジャックの中の社会人12年目が空気を読んだ。



 町に近づくと人通りも多くなった。まずは、作物を売るところからだ。市場の入り口あたりに立つ商業ギルド員に場所代を払い、好きな場所で店を開く仕組みのようだ。なるほど、銅貨三枚か。ギルドの管轄(かんかつ)ということもあり、良心的な値段だ。

売り手も買い手も次々と入れ替わる市場で、ちょうど良さそうな場所が空いたのでそこを陣取って店を開く。



  「それ、3つと、あれ5つ。なあ、1つ負けてくんねえか?次来たときまた多めに買うからよ。」


  「それ、前回も言ってましたよね。今回はだめです。鉄貨6枚と銅貨1枚です。」


  「あら、フィル君。こんにちは。今日もお手伝いして偉いわねえ。見かけない顔もあるけど…。弟君かしら。ああ、そこの…そう、それを10個と、その果物5つお願いできるかしら。今日、娘の誕生日なのよ。ちょっと豪勢な夕飯でも作ってあげたくて。」

   

  「はい、弟のジャックです。そうなんですか。おめでたいですね。銀貨3枚です。以前小麦粉を譲ってもらったので、お気持ち程度引いておきますね。あと、これも。夕飯のおまけにでも。」



次々と来る客をテキパキとさばくフィル。計算ももちろんのこと、主婦のハートもしっかりつかむ。うちの次男、出来る。


 

  「あら、いいの?ありがとう!ライ君じゃあこうは行かないものねぇ。また帰りにでもうちによって頂戴。パンでもお裾分けしてあげるわ。」



 そんなこんなであっという間に持ってきたものすべてを売り切った。場所を片づけ、今度は買い手に回る。肉、チーズ、野菜、果物…自分の家で作っている時から思っていたが、見慣れないものも多い。どんな味がするのだろうか。服や食器なども売られている。

今日のご褒美にと買ってもらった串焼きを片手に持ちながら、真新しい光景に目を奪われていると、ふと周りに母さんとフィルがいないことに気づく。市場も端まできてしまったようだ。店が全くなくなっている。慌てて引き返そうと身体の向きを変えた時、ふと一つの看板が目に入った。



  「「魔法の種販売中」」



無意識にそれを読み上げる。周りにも市場へ向かう人はいるものの、誰一人気にかける様子はない。文字のかすれた看板に自然と足が引き寄せられる。



  「おまえさん、これに興味があるのかい?」



 突然、その看板の後ろから声がする。男だろうが、老人のような、少年のような、どちらともつかない声だった。一瞬身を引くと、それは動いた。びっくりした。人だったのか。看板の側にあった布の塊は。



  「で、でも、俺、お金持ってないし…」


  「今、とてもおなかが空いているんだ。だから、お代はそれ。その串焼きでいいよ。」


  「…魔法の種ってなに?」


  「そりゃあ魔法の種さ。大切に魔力をこめ続ければなにか、いいことが起こるかもしれない。さあ、取引するかい?」


  「魔力…でも、平民には魔力はほぼないって…。」


  「ないと思えばない。あると思えばある。魔法ってのはそういうものだよ。ようはイメージの世界だ。さあ、どうする?」



気がつくと手には袋が握られていた。中身は確かに種みたいなものだった。

魔法はイメージ、か。


周りが騒がしい。そう思って視線を上げると市場の中にいた。さっきまで端っこにいたはずなのに…。すると突然、後ろから肩をつかまれる。



  「やっと見つかった。どこ行ってたんだよ。やっぱり迷子になるじゃないか。ほら、おまえがいない間に買い物は済ませたからさっさと帰るぞ。ん、何だそれ。」


  「な、何でもないよ。あっ、買った荷物どこ?俺が持って帰らなきゃね。」



手を後ろに素早く隠す。



  「はぁ!?僕だって持てるし!」


  「持ててなかったじゃん。」


  「…っつ!あれは、」


軽口を叩きながら遠くに見つけた母さんのもとへと二人で駆けていく。良かった。気づかれなかったみたいだ。その袋を服の中にしまい、布の上からそっとそれを押さえた。


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