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異世界転生した私、なぜか他人の人生をやり直しています。〜私はまだ、物語の外側にいるはずでした〜  作者: 燈霞


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少年になる。(9)

 内緒で家を抜け出した翌日、今日も朝早くに起床した。ぼんやりとする頭で服を着替え、寝ぼけ眼をこすりながら部屋を後にする。



  「…ぉはやう。かあさん…何すればいい…?」


  「ああ、ちゃんと起きたのね。じゃあ、洗濯物洗ってくれる?私は朝ご飯の準備をするから。何かあったら声をかけてちょうだい。」



いつもより素っ気ないその声に、はーい、とやや間延びした声でその声で答えながらあくびを漏らす。

ねむい。隣で睡魔が枕と干したてふかふかの布団を完備して手招きをする幻想が見えるくらいひたすら眠い。それもそのはず、昨日はあれから午前中みっちり母さんに絞られただけでなく、午後に家中の掃除、畑の手伝い、夜には幼い弟妹達の寝かしつけなどあらゆる雑事にご奉仕させられた。おまけに(こちらに曜日の概念がないため前世で言えば)ちょうど一週間、つまり7日間、朝、早起きをして洗濯やら畑の世話やらを命じられてしまった。


そんなに怒ることか?魔法があって、冒険者も存在する世界なら子どもの一人や二人、朝でも夜でもその辺を駆け回っていても何ら不思議ではないなどと、異世界はこうあるべきといわんばかりの紋切り型の漫画達を思い出しながら、全く思い通りにならない異世界転生をさせられている現状を思い出し、すっと目が覚めていくのを感じた。やめておこう。


洗濯物を持って外の水くみ場に向かう。掘った穴の周りに石を円形に積み上げ、近くに固定してあるロープの先に桶がついている簡素な井戸だ。落ち葉などが入らないようにおいてある蓋を取って桶を穴に放り込む。しばらくすると水の音がしたので桶を引き上げる。滑車とかあったらもっと楽なのにと思いながらようやく桶を引き上げ終え、洗濯物を洗うたらいに傾ける。水が桶から流れてこない。ん?確かに水は入っている。ひっくり返した桶の中を覗き込むと、べチョっと顔を覆う何か。とっさに顔を振ると、その何かは地面へと落ちた。そこにあったのは重力と自重にあらがって球形を保つ水の塊。様子を見るためしばらく凝視していると、井戸の周りを素早く動き始めた。何だこのスライムもどき。レベル1の、物語やゲームのチュートリアルで瞬殺される弱いイメージしかなかったが、危うく窒息死しかけるところだった。確かにチュートリアルも終えられない進行状況ではあるが。

寝不足のせいか前世由来の妄想がはかどるジャックに、再びスライムもどきが顔を狙って飛びかかってくる。思わず腕を前に出す。そのとき、ほのかに明るんでいた稜線から太陽の光が差し込む。瞬間スライムもどきは輪郭を失い、ただの桶一杯分の水がジャックに降りかかって来た。

やっぱり何でもありだなこの世界。ヴァンパイア気質のスライムの残骸にまみれながら、もはや魔法の手ががりだなどと毛の先ほども気分の上がらないジャックだった。


太陽が姿を現せば、そんないかにも異世界という現象は起きることはなく、手早く洗濯を終えて家の中へと戻った。


朝食を終えると、今度は畑仕事だ。母さんの視線が怖いのでおとなしく畑を耕す。でも思ったよりも力が必要で、これに筋トレを加えるなど正気の沙汰ではない。というか前々から思っていたが、この生活をしていれば自然にムキムキになるんじゃないか?未だ出番も、名前も登場してこない父のことを思い浮かべる。猟師として森に入っては自分よりも大きい獲物を担いで帰ってきて、自分で建てた解体小屋で肉をさばき、ここら一帯の畑を整備する彼はおそらくまあまあの化け物だろう。ちなみに父さんは元々この土地のものではないらしく、母のマリーに一目惚れしてプロポーズし、

文字通り自らの手で家を建てたらしい。



 初日のスライムもどきの襲撃以外何らトラブルもなく無事に7日目を迎える。幼いこの身体での早起きはきついが、よくよく思い返せばネット視聴で深夜2時就寝、朝6時起床という不健康オタク生活を送っていたせいで、この身体でも寝不足に慣れるのは早かった。

最終日、ようやく母からのご奉仕を終え、釘を刺すようなご最後のお小言をもらった時のこと。

母さんに怒られている時は、いかにも反省していますという表情をしていたが、内心は明日からのトレーニングメニューで頭がいっぱいだった。自堕落という悪魔の言葉をはねのけ、いかに自分を律するかという最大の壁が立ちはだかる。反省の念を露ほどは持ちながらリビングを後にする。



  「おー!ジャック!今回はずいぶんしっかりと絞られてたなー」


  「まったく、日が昇る前から森へ出かけるなんて正気の沙汰じゃないね。」


  「ライだってたまに朝早くから起きてどっか行ってるだろ。なんで俺だけこんな怒られたんだよ…」


ジャックの肩に腕を乗せ、こちらに寄りかかるライと、本を抱えて馬鹿するような、いや、している視線を向けるフィルに挟まれる。


  「それは、おまえがまだ森のことよくわかってないし、自分で自分のこと守れないからだろー?俺は父さんからいろいろ教わってるからいいの!もうすぐ成人だしな!」


  「深夜から朝にかけては魔物が現れるの知らないの?常識でしょ。よくそんなので森につれてったね、ライ。」


  「森に行ったのは日が昇ってからだし、まあ、俺がついてれば平気だろ、って教えてなかったな。でも、小さい頃は寝物語で聞かされるから知ってると思ったんだけどなぁ。」


そんなもの知らない。というか魔物、夜になれば普通にいるのかよ。確かにスライムに遭遇したのは日が昇る前だったけど。

この世界の寝物語には、前世のお化け的な立ち位置で魔物が出てくるらしい。幼児期に親から植え付けられた「夜は魔物がいるから外に出てはいけないよ」という認識が、成長するにつれ「夜は危険だ」という常識に変わっていくのだろう。しかし、ジャックの記憶にはそういうところがすっぽりと抜け落ちている。ベッドに潜ったら秒で寝るタイプだったのだろう。おかげで冒険者を夢見る少年になったわけだ。



  「ふーん、でも、そういうライはともかく、フィルは夜、魔物に会ったことあるのかよ。」


  「まあ、それはあるよ。」


少し意外だった。森にあまり入りたがらない、フィルが、夜に出る魔物に遭遇していたとは。


  「ははっ、あれは会ったとは言わないんじゃないか?こいつ、小さい頃にお気に入りの絵本を外に忘れて取りに行ったとき、遠目で見ただけじゃなかったっけ?しかも子どものウルフの魔物。確か、目が光って怖かったんだっけ?おまえ、俺の布団に泣きながら飛び込んできて、しばらく一人で眠れなかったもんな。」


  「っっ!なんで毎回余計なこと言うんだよ!」


耳を真っ赤にして少し涙目になったフィルが持っていた本でバシバシとライを叩く。しかし、当の本人は笑いながら流している。


  「そういうことだから、もうあんまり、日が昇る前に森に近づくなよ?」


そう言って未だ攻撃を続けるフィルを小脇に抱え去って行く。まあ、母さんに心配かけるのは良くないから、森には近づかないようにしておこう。


そう思って窓の外を見る。もう暗くなってあまり森の方はよく見えない。しかし、森の上の空で何かが光る。魔物だったら、鳥形でも夜に飛べるのかと思い、玄関のドアを開け、それを確かめる。家からは出ていない、セーフだ。今日は月の光もなく、目が慣れるまでじっと空を見つめる。

全身の毛が泡立つようだった。ジャックのその目に映ったのは竜だ。色まではわからない。しかし、暗闇の中で星のわずかな光さえも集めて光るそれは、全身を覆う硬い鱗。見えない、見えないが、視線が交わっている。感覚でわかる。まるでいつでもおまえを食べることなど容易いというように。


  

「ジャック!あれだけ言ってまだわからないの!?」



そんな母の怒鳴り声でハッと気がつく。森の上空で漂っていた竜はもういなかった。後になって、爪が手の平に食い込み、血がにじんでいたことにジャックは気がついた。


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