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異世界転生した私、なぜか他人の人生をやり直しています。〜私はまだ、物語の外側にいるはずでした〜  作者: 燈霞


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少年になる。(10)


 それからは家の手伝いの(かたわ)ら、身体を鍛えたり、ライとともに森に潜って身体の使い方、狩猟や採集の知識を学んだ。フィルからもこの世界についていろいろ教えてもらった。読み書き、算術、その他には、彼が本で得た魔法の知識などだ。この身体に宿っていた魂の記憶とでも言うのだろうか、佐良ではない誰かが時々、ジャックの身体を操っているような感覚がした。ただひたすら、こぼれ落ちる知識がないようにと。


 もうすぐこの身体に転生して3年になる。つまり、転換点が起こる10歳だ。そう佐良に伝えた神様とはあれから意識をつないでいない。これまでで魔法に関連することといえば、時折森に現れる魔物や、あのとき手に入れた魔法の種だけだ。この種には今でも魔力を()めるそぶりを続けている。しかし、それ以外にはこれと言って進展はなかった。



  「ジャック、おまえもそろそろ一人で森に入ってもいいかもしれないな。」


森からの帰り道、少し前を歩くライが言う。本日の獲物であるイノシシを片腕で担いでいる。このイノシシは罠にかかったものではなく、襲ってきたものを二人で討伐したのだ。


  「俺も子どもが生まれたし、これからはあまり一緒に森に入れなくなるからな。」


ライは町の材木屋の一人娘、アイリスと昨年の暮れに結婚した。先月、女の子が生まれたばかりだ。ジャックも何度か会っているが、物腰の柔らかな美しい人だ。数年前、この町に引っ越してきたばかりで、彼女がまとう雰囲気は町のものとはずいぶん違う。都市へ出れば貴族のお目にもかかりそうなほど。まあ、ライが惚れるのも無理ない。

この世界では子だくさんが当たり前で、子どもが一人、ましてや一人娘のみという家庭は珍しい。そんな高嶺の花をライはどうやって手に入れたのか?まあ、物語にあるあるの展開である。可愛い一人娘を嫁に出したくない、これまた典型的な頑固親父が求婚者らに課題を出した。その課題とは、材木屋にちなみ、この村、ないし町の外れにある山のてっぺんにのみ生える、ある材木を取ってくること。なんだそれだけか、とお思いだろう。しかし、これはある種のかぐや姫形式の難題であった。まず、山の麓につくまでが第一関門だ。すぐ近くに見えるのに、なぜか一向にたどり着けないらしい。何でも昔、ある冒険者が魔物よけの魔導具を誤作動させたせいで、特定のルートを通らなければ麓までたどり着けないようだ。ここまでで求婚者の約半数が脱落した。

次なる第二の関門は、キノコである。なぜそんなものが問題なのかと疑問に思うだろう。確かに毒キノコなら取って食べなければいい話だし、もし胞子で眠りにつくというなら吸い込まなければいい話だ。しかし、思い出してみてほしい。以前、ライが言葉を濁したキノコのことを。そう、その森には自動追尾式の爆発キノコがいるのだ。しかもどうやら群生地のようで、なんとか一匹やり過ごしたかと思うと、他のキノコがどこからともなくやってくるらしい。しかも笑顔で。そして、眠らせる胞子をまくキノコもいるそうで、寝たまま吹っ飛ばされた求婚者もいたらしい。怖すぎる。ここで求婚者は5分の1ほどになった。

最後の第三の関門がこれまた難しい。キノコの森をやっとの思いで抜けたところで、目的の木が生えるのは真夜中。なんでも太陽が当たった瞬間透き通るようにして消えてしまうらしい。ただ、枝を切ってしまえばその枝は消えることがないというなんとも不思議な植物(おそらく魔物?)である。そうなると必然的に最後は魔物と戦わなければならないのだ。夜になれば森のどこに隠れていたのか、どこからともなくやってくる魔物達相手に、その木が生えてくるまで耐えなければならない。また、お目当てのものが手に入ったとしても、キノコの森を通って戻らなければならない。最初のたどり着けない道は、出る分には問題ないらしい。少しばかりの慈悲である。


そんな無理難題をこなしたのがうちの長男、ライだったわけだ。しかもライは、その木にちょうど満月の日にしか咲かないという花をつけた枝を彼女に渡してプロポーズしたのだ。月の光をわずかにこぼすその花を捧げられ、どこぞの王子様の様に膝をついて愛をささやくその姿は、世界共通、乙女の理想、アイリスの心も見事にかっさらったようで、無事プロポーズは成功したようだ。

後から聞けば、もともとアイリスとライは知り合いだったらしい。何でも、彼女がこちらに引っ越して来たばかりの頃、ライが助けてあげたことがあるらしい。前にうちへ来たとき、彼女がこっそりと教えてくれた。彼女の一目惚れだったことも。

なんとも人騒がせなことだ。確かに前世であれば、私も一度は妄想しただろうが、現実を知ってしまえば、争いに敗れた勇敢な(おとこ)達に同情を禁じ得ない。

そして、隣でイチャコラされるのにとてつもない不快感を感じるのは、果たして誰の念だろうか。


そんなライは家を出て、材木屋の婿養子となった。うちの両親も同じような経緯をたどっているため、何らとがめるものもおらず、新婚生活を満喫している。時折こちらに帰ってきては、ジャックと森に潜ったり、少し成長した弟妹の面倒を見ている。



  「いいの?また母さんに怒られる気がするんだけど。」


  「俺が言っといてやるよ。これもついでに見せれば大丈夫だって。」


ライは、イノシシを担いだまま、肩を上げた。


  「じゃあ、許可がもらえたら、ライに何か取ってくるよ。子どもが生まれたお祝いみたいなの、まだ出来てないし…。」


少し照れくさいが、祝いたい気持ちは本当だ。側にあった小石を蹴りながら言った。


  「おー!じゃあ、せっかくだから、フェラリルの角とかがいいな。子どものお守り!」


フェラリルとは、オオカミに似た、銀の毛皮を持つ魔物だ。伝説上のフェンリルによく似ていることからそうな名付けられたらしい。この森にもいるらしいが、ジャックはまだ見たことがない。フェラリルの角には、魔除けの効果があり、貴族の子どもは幼少期、これを装飾品として身につけるのが一般的らしい。


  「うーん、出来たらそうするよ…」


楽しみにしてる、とライが言う。森の奥深くまで行かなければフェラリルには遭遇しないだろう。まずは母さんの説得からだなと思うジャックだった。


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