理想の結果
ズッ、ズッ、ズッ、
動かすことのできない右足を引きずりながら、先へと進み続ける。
何も残っていないはずにも関わらず、なぜか体か勝手に前へと進む。
うるさい、くさい、なんて気持ち悪いものか。
歩けば歩くほど、拍手の耳障りな音が耳を刺し、肉が腐敗したような匂いが鼻を突き抜ける。
醜い、汚らわしい、おぞましい。
そのたびに、怒り、憎悪、悲哀、どれとも相容れないような感情がひたすらに込み上げて、ドチャリドチャリと重い音を立てながらこぼれ落ちる。
一体、この地獄はいつまで続くんだ。永遠か?それとも、俺が死ぬまでか?
そして、それらはより深く、強くなっていく。
もう、もう嫌だ。もう無理だ。 耐えられない、耐えられるようなものではない。
なんで、こんな目に俺が合わなければならないんだ?俺は、ひたすらひたすら我慢し続けたのに。
どうして……どうして……
そんな事を思っていると、廊下の奥からカッカッと靴の音が鳴り響いた。
「こんにちは。」
そして、そこから靴の音の主が現れた。
「今夜は月夜がきれいで、とっても良い夜ね。」
誰だ?こいつ。
女……か?
顔は、黒く塗りつぶされているため分からない。
しかし、ドレスを着ているため、おそらく、女性だろう。
「こんな素敵な日には、月をゆっくりと眺めていたいのだけれど……どうやら、そんな時間はなさそうね。」
すると、謎の人物は腰に掲げていた剣を抜いて、切っ先をこちらに向けてきた。
「その手に持っているものを、こっちに渡しなさい。さもないと、その腹を掻っ捌くわよ。」
「……」
渡す?この手に持っているのを?
馬鹿げている。そんな要求、頷けるわけがない。
「……雰囲気が変わったわね。つまり、嫌だ、ということかしら?」
すると、謎の人物の雰囲気が変わった。
その様子は、まるで、死を連想させる。
「忠告はしたからね。」
そう謎の人物が言った次の瞬間、空を切るような鋭い音とともに体が段々軽くなっていった。
不思議に思い見下ろすと、腹から血と臓物が混じって流れていた。
何が……起こって……
そう気づいたときには足の感覚もなくなり、ついには地面に倒れた。
「正直、あなたは危険だから、答えようが答えまいがどうせ殺す予定だったのよね。」
そして、胴のない下半身のあるであろう場所から謎の人物は現れた。
「じゃあ、これは貰っていくから。せいぜい、眺めることしかできない自分でも悲観してなさい。」
そう言って、謎の人物は持ち去ろうとする。
そんな姿を、朦朧とした意識の中、ただ見ていることしかできない。また、そんなことしかできない。
……いや、駄目だ。
力を振り絞り、謎の人物の足を掴む。
絶対に渡さない。こんな訳のわからんやつには、絶対に。
「……そんなに大事?こんなものが?」
そんな質問に、ただただ頷く。
「ふーん……」
すると、願いを聞き入れてくれたのか謎の人物は持ち去るのを止めてくれた。
「まあ、そこまで言うのなら、もう少しだけ時間をあげる。けど……」
が、それと同時に掴んでいた方の手が真っ二つに切らる。
そして、再びこちらに切っ先を向ける。
「少しでも触れたら叩き切るからね。」
そう言われた途端、先ほどまであったはずの気力が嘘のように抜けていった。
ああ、なるほど。やっぱり、こうなるのか。
結局、何も答えを見いだせないまま、何もせず、何もないまま終わるのか。最悪だな。
……ただ、もし、これが俺の運命であるなら、もう受け入れるべきだろう。
そんな事を思っているうちに、痛みが段々強まり、意識も朦朧としてきた。
目の前もだんだん暗くなっていき、何も感じなくなっていく。
そんな中、力を振り絞り、這いずって、手を伸ばす。しかし、手1本分ほど足りない。
もっと、もっと必要だというのに。
「……あなた、ま…か、……が…あるの!?」
謎の人物が、なにか言ってきているが、ぼやけており、何もわからない。
それに、寒くなって……き……
「待ちなさい。まだ、死ぬのは早いわ。」
突然、痛みが引くとともに、意識もはっきりする。
それに、暗かったはずの視界が急に明るくなり、うるさかった拍手も聞こえない。
見上げると、謎の人物が首から血を垂らしていた。
「その力を持っているのなら、早く言いなさいよ。今なら、まだ間に合うんだから。」
そう言うと、謎の人物は剣を俺の目の前に突き立てた。
剣の刀身には、ところどころ錆のようなものが張り付いている。
「あなた、こんな事になって、快く思ってないでしょ?」
そうだ。
こんなもの、俺は望んでなんかいない。逆に、最悪な方だ。
そう心のなかで答えると、刀身に張り付いている錆がより一層、広がっていった。
「私も、こんな惨めな結果じゃなくて、より良い、理想の結果が欲しいの。何もかもが私の思い通りになる、そんな結果がね。だから……」
すると、先程まで見えなかった、謎の人物の顔が少しだけ明るみになった。
その瞳は深紅に染まっており、赤く、そして残忍な輝きを放っていた。
「少し、力を貸してくれない?」




