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人妖乃村のイレギュラー  作者: 傘丸うどん
第一章 旅の終わり
12/14

嫌悪感


 まずいまずいまずいまずい。


 「さあ、次は――」


 白装束び男性がそう告げるたびに、次から次へと袋は刺されていく。

 そして、刺されるたびに神棚の上にできる血溜まりはだんだん大きくなっていった。


 「おい。大丈夫か?」

 「ああ、大丈夫……いや、少しお腹が痛いから、トイレに行ってく――」

 「はぁ?トイレぐらい、我慢しろよ。」

 

 逃げようとしても、黒影は、男性に止められて、動くことはできない。

 それに、()()をしにいくための、この列から抜けられない


 まずい。これは、絶対にやばい。今すぐ離れないと。

 でも、どうする?逃げるのは難しいし、あんな事をしたくない。とはいっても、もうどうしようもなさそうに思える。

 どうする、どうすれば。


 「お。そろそろだな。ほら、道具を出せよ。」

 「いや。俺は、何も持ってないよ。」

 「そうか忘れたのか。じゃあ、俺が貸してやるよ。」


 そう言って、男性は少し錆びついた包丁を渡してきた。


 嫌悪感を必死に堪えて、包丁を受け取る。

 包丁の側面には、自分の姿が写った。白衣を着て、四角い箱をかぶっているそんな自分が。


 「さあ、あなたの番です。」

 

 そしてまた、別の男性がそう呟かれた。

 これまでと同様に、男性は目の前にある袋に、手に持っていたもう一つの包丁で滅多刺しにする。

 袋からは、女性の叫び声がした。


 「素晴らしい。これで、あなたにも祝福が届くでしょう。」

 「あ……ありがとうございます!」


 男性は、白装束の男性に精一杯感謝の気持ちを表している。白装束の男性は、そう言われて嬉しいのかニコニコと気味の悪い笑顔をしていた。

 そうして、そんなやり取りが今、目の前で繰り広げられている。

 

 一体、どうしたら良いのだろうか。俺は、このまま袋の中にいる何かを持って逃げたほうが良いのだろうか。

 ただ、そんな事をしたら何が起きるか分からない。それに、中にいるのがどうでもいい場合は意味がない。とすると、一体どうすれば……


 「さあ、あなたの番です。」


 そんな事を考えているうちに、目の前にはすでに白装束の男性が立っていた。


 「……クソ。」


 黒影は、包丁を力強く握る。

 

 やるしかない。もう、やるしかない。

 

 「どうぞ、神棚にお上がりください。」


 そう言われて、黒影は、最後の1つである赤い袋の目の前に立つ。


 そして、その袋に、錆びついた包丁を思いっきり刺す。さらに、そこから力を込めて肉をえぐるように深く刺す。

 切れ味が悪いのか、包丁は簡単には刺せないし抜けない。しかし、それでもひたすらひたすら刺し続ける、目の前の袋を刺し続ける。


 肉を刺す感触は非常に気色悪く、まるでイモムシを握っているように気持ち悪い。 

 そして、刺すたびに、胃から何かが込み上げてくる。申し訳なさで涙が出る。

 だが、俺は、ただただ心の中で、ごめんなさい。ごめんなさい。と、唱えることしかできない。


 そうして気づいたときには、袋の中からは深紅に染まった物がドバドバと流れていた。

 手、服、至るところに俺は、血を浴びていたのだ。


 「素晴らしい!皆様、彼の勇姿に、盛大な拍手をお願いします!」


 放心状態になっている黒影とは反対に、部屋にいる全ての人間がパチパチパチパチと気味の悪い拍手を行っていた。

 

 「それでは最後に、この儀式では――」


 白装束の男性が、長々と袋の中身の説明をしだした。その説明の大半は、俺には何も聞こえなかった。

 

 「この儀式に参加された方は、神のご加護を受けられるでしょう。そして、失ったものを神が埋めてくれるはずです!それにより、彼らは――」


 が、最後の一言。その一言だけは逃さなかった。




 「――()()()、取り戻すでしょう。」




 この何の変哲もないこの言葉だけは、決して。


 その言葉を聞いた瞬間、咄嗟に袋を破いた。

 嫌な予感を抱えて、袋を破いた。


 「……なんで、こんなところに。」


 そして、中にはすべてが入っていた。俺にとってのすべて。全部が。

 神でも埋めることのできないすべてが。


 「うん?どうかされましたか?……その様子、もしや、袋の中身はあなたにとっての、すべてだったのですか!?でしたら、なんと素晴らしいことか!」


 部屋にいる全員から怒号とも取れるような歓声が飛び交う。

 その声は、今まで見た中で最もおぞましく、最も気味の悪いものだ。


 「皆のもの!彼は、すべてを失い、今、まさしく神の依代に選ばれたのです!遂に、神が、この地に降りたつのです!」


 男性の声は、この怒号の中でひときわ輝きを放っている。

 醜くて、おぞましいほど、汚れていないような輝き。


 「彼女から渡されたものが、まさかこういう結果になるとは。きっと、これは神がお与えになった祝福なのでしょう。それでは、神の依代よ。」


 ただ、それが俺にとっては、何とも何とも


 「私の手をとって、あの神棚で……うん?どうかされましたか?」


 気持ちが悪い。


 「もしや、体調が悪いのですか?でしたら、私に見せていただけますか?」

 

 本当に、吐き気がして気持ち悪い。


 「一体、どうしたと…………な、何なのだ。あなたは一体――」


 ああ。本当、気持ち悪い。

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