597、敵も味方も死に物狂い
「 うおおおおおお!! 」
ギンッガンガンガン! シャーーッ! ガンッ!
馬車を守り、周囲でそれぞれ剣を合わせる音が、無数に暗い森の中に響く。
「ぐあっ! 」 ドッ!
ヒュンッ! ドスッ!
「く、クソッ! 」
「下がれオットー! 無理するな! 」
ガンッ!
肩口を刺されたレナントの騎士オットーに、トドメを刺そうと敵兵が振り上げた剣を仲間が受け止めた。
血を流すオットーが、痛みに足を取られる。
「す、すまん 」
「早く馬車へ! 」
ブルースが援護しながら、彼を馬車とミュー馬の間に誘導する。
死に物狂いの敵兵たちは、それでも死者を増やしながらジリジリと馬車に近づいて行く。
「マズいぞ、こいつら死んでも向かってくる勢いだ。」
「敵が死に物狂いなら、こっちも死に物狂いになるだけだ。」
「おうよ。」
一行は囲まれて襲われながら、何とか馬車を死守している。
だが、すでに2人が倒れ、生きているのか死んでいるのかさえわからない。
ケガをしたものも続々と増えて行く中、体力も削られ、次第に追い詰められていった。
ギリギリギリガーンッ ガガッ!
バーンッ!
「うおっ! 」
アトラーナの1人が力任せに剣ごと跳ね飛ばされ、尻餅をついた拍子に敵兵が2人馬車へと駆け寄って行く。
「おおおおお! 」「馬車を壊せ! 」
「 シッ! 」
グレンが馬車の上から、口元に指を立て何かを飛ばすと、2人がそのまま馬車にぶつかり昏倒した。
ドンッ、ドスンッ、ザザッ!
グレンが顔を上げ、周囲の意識を探る。
そこには、敵の背後から更に新しい人間たちの意識が見える。
「マズい、増援が来る! いや、敵か、味方か。」
「なにいっ?! 増援だと? どちらだ! 」
馬車を降りて戦っているブルースが、グレンが指し示す方へと馬車を回り込む。
…… ドドドドドドド
次第に音が大きくなり、そして、彼らは突然現れた。
「 なに?! 」
「うわああっ! 」
「ケイルフリントだ! 」
先頭の騎兵がドンッと、敵兵を長槍で突き、一気になだれ込むと次々敵兵を倒して行く。
「友好国アトラーナの一行とお見受けいたす!
フェルグ隊! 加勢に参った! 」
女隊長の声が響き渡り、人数が少ないとは言え、その容赦の無い攻撃に敵兵がバタバタと倒れて道を空けて行く。
彼らが着けている、その毛皮の帽子は見覚えがあった。
敵の隊長が、焦って声を上げる。
それは、現状最悪の状況だった。
「フェルグ…… 山犬隊か! 手強いぞ、引け! 引いて一旦建て直すぞ! 」
コンコンコンコンコン
木板を激しく叩く音が響く。
それは、敵兵の撤退の合図なのだろう、一斉に音の方向へと逃げ始めた。
「逃すか、残党は残さず刈り尽くせ! 国境隊前へ!
我が国、国境隊の雄姿を見せろーっ! 」
ドドドドドド! ミューミューミュー
「「「 おおおおおおおお! 」」」
地響きを上げて、多数のミュー馬が駆け抜ける。
何と、フェルグ隊の後ろからモ100人ほどが現れて追いかけては倒して行く。
別の兵に剣を振り上げられ、慌ててアトラーナの兵が首を振った。
だが、良く見るとその兵は女だ。しかも、見知った者だった。
「待て! アトラーナだ。その方ら、アウロラ殿の……? 」
「おお、すまん、暗くて誤った。こっちだ。」
ドッ! 「ぐあっ! 」
ミランダが、その場に残って1人でも倒そうと向かってくる敵兵を容赦なく撃ち取り、ニッと笑う。
「おうよ! 巫子殿の加勢を言い付かって参上した!
ご無事で何より! 」
「これは助かる! 敵は一体何者か?! 」
「ティルクの残存兵だ! 村が一つ襲われて探していたのだ。
こんな所に隠れていた! 」
ガンガンッ! キンッ! ギィンッガンギン!
シャーッ ドッ!
「ギャアッ! 」
「助けてくれ! わぁーー! 」
「投降する! 頼む! 」
ドッ! バキィッ!
「何が投降だ! 死んで詫びに行け! 」
「ミランダ、この先に鈍色の甲冑に旗が見えたぞ! 敵の頭を取れ! 」
「承知! 」
「ミランダ! 乗れ! 」
後ろから来たミュー馬の騎兵に手を伸ばし、それに飛び乗って女戦士がイキイキと森の奥へと向かって行く。
あちらこちらから悲鳴が上がり、ティルク兵達が殺されて行く。
ティルクに対しての容赦のなさは、この国がいかに隣国から苦しめられているのかの答えだろう。
アトラーナの一行はそれを眺めながら、リリスが寝ていて良かったと心から思っていた。
周囲が落ち着きを取り戻し、森が静けさに包まれた頃。
アウロラが指揮するフェルグ隊と国境警備隊が、死者の確認とアトラーナ隊の保護を急ぐ。
アウロラはすでに鎧の下の分厚い毛皮を脱ぎ、鎧の下の装束は綿の上下に鎖かたびらをして、尻を隠すように山犬の毛皮をベルトに挟み込んでいる。
騎兵らしく部分的に鎧を着けた国境警備隊の隊長と話しながら、アトラーナの一行に手を上げた。
「鳥を飛ばした、後片付けは任せてくれ。」
「まだ残っているかもしれない。
あとの捜索も頼めるか? 」
「大丈夫だ。その方らは護衛を頼む。」
「承知した。」
話が終わると、ガーラントとブルース、そしてレナント隊、ベスレム隊の隊長の前に、アウロラが歩いてきた。
相変わらず歴戦の猛者のような貫禄のある女だ。
皆、思わず姿勢を正した。
「加勢に来ていただき助かった。
多勢に無勢で押されていたので、あのままでは巫子を守れていたか、危うかった。」
ブルースが礼を言い、胸に手を当て頭を下げた。
「いや、もう少し早く来られれば、ケガ人も出なかっただろう。
申し訳ない。」
アウロラが真摯に頭を下げ返すので、思わず感嘆の声が上がる。
皆、とんでもないとそれぞれ声を上げて、固く握手を交わした。
「重いケガの方は? 一人医術師を連れてきたが。」
ブルースと、レナント騎士が顔を見合わせる。
ベスレムの2人の傷が重い。
医術師がすでに止血に手を尽くしているが、若いラッセルという騎士が肩口を切られて息も切れ切れで死にかけている。
壮年の戦士は脇腹を切られ、すでに意識がない。
「ラッセ、ラッセル! しっかりしろ! 寝るな! 目を開けろ! 」
「ルーカス、ルーカス、大丈夫だ、血は止まったぞ。しっかり! 」
必死で2人の意識を食い止めようとする仲間が、涙に暮れている。
「どうだ? 」
ガーラントが医術師に問うと、無言で首を振る。
見た通りだという事だろう。
失意の一同の心が諦めに向かったとき、馬車から聞き慣れた少年の高い声が響き渡った。
「 これは?! これはいったいどういう事です?! 」
「おお、赤様だ。」
「巫子殿! 」 「巫子様! お救い下さい! 」
「皆様! お怪我は…… あっ! 」
馬車からリリスが出てくると、階段を降りかけて足下がふらつき、つんのめる。
後ろからグレンがそれをすくい取るように腕に抱き上げ、馬車を降りるとガーラントたちの元に向かった。




