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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、創世を知るドラゴン

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590、元貴族の女性

香木を焚いた良い香りが流れて、ここが神殿だという事に気がつく。

静かで、窓から鳥の声がさえずり、目を開けると白い漆喰を塗った壁が目にまぶしい。

出入り口のカーテンの向こうに朝日が差して、ひどく明るい。

眩しさに目を細めて日が当たる廊下を見ると、うっすらと透けて、忙しそうに行き来する神殿で働く人たちの姿が見える。

柔らかで上質な寝具は、自分が良い待遇の部屋にいるのだと教えてくれる。

ライアはベッドから起き上がると、少しめまいを覚えて頭を押さえた。


駄目だな、寝てばかりいると、体力が落ちるだけだ。


コンコン


ノックが鳴って、返事を待たずにカーテンが開く。

綿のドレスにエプロンをした女性が、座っているライアに気がつくと、まあと声を上げて片足を引き、腰を下げて貴族のように挨拶をした。


「失礼しました、起きていらっしゃったのですわね。

お加減はいかが? 朝食を持って参りますわ。

歩けるのでしたら、外で顔を洗っていただいていいかしら?」


「え? ああ、そうか、わかった。」


ベッドから下りようとして、ライアが切られたはずの傷跡に手をやる。

そこには一筋線が残っているだけで、つい先日瀕死の傷を負ったことがウソのようだ。

ただ、出血多量は身体にもダメージが重く、翌日気がついた時に、今から帰るというレスラカーンの供が出来なかった。


翌々日には風呂も入れたが、どうにも身体が重い。

剣の素振りの代わりに廊下にあった棒など振ってみたが、今ひとつ傷跡がつったようにピリピリして、気味が悪い。

小さくため息を付いて立ち上がろうとすると、彼女が首を振った。


「ダメですわ。

そんな気のない立ち上がり方をしたら、倒れてしまいますわ。

今ここには私しかいませんのよ? 

私1人では、殿方を支えきれませんわ。

もっと! 気合いを! お腹の底にためて! 

そんな事では帰れません事よ! 」


「なるほど。」


気を入れて、下腹に力を入れて膝に手をつき、ゆっくり立ち上がる。

なるほどめまいがしない。


「さあ、行ってらっしゃい。ベッドは直しておきますわ。」


そう言って、ライアが外の湧水の洗い場に行くのを見届けると、手際よく乱れたシーツを直し始める。

外に出てわき水で顔を洗っていると、サッと部屋を出て食事を取りに行く姿が見えた。

不思議な女性で、まるで所作は貴族の子女だ。

だが、こんな所に。まして粗末な綿のドレス着て働いているなどあり得ない。


部屋に戻ると、彼女がワゴンに食事のトレイと水差しを乗せてやって来て、サイドテーブルに食事の準備を始めた。


「他にもお世話になる方がいらっしゃるので? 」


「ええ、この辺は重い症状の方ですわ。

だいたい部屋は埋まっておりますのよ。

皆さん、ここを頼って国のあちらこちらからお出でになるそうですわ。」


「あなたは? 失礼ながら、貴族のようだが? 」


早速食事に感謝してスープを一口飲み、パンをちぎって食べながら聞くと、まあ!と派手に驚いて手を合わせた。


「すごいわ! どうしておわかりになるのかしら?!

でも、結婚前に駆け落ちして、相手の家を出てきてしまいましたの。

きっと相手の方に、ここにいるのがわかったら殺されてしまいますわ。

だから私のこと、黙っていらしてね? 」


おっとり微笑む様子は、確かに高貴な方だ。

承知したと、うなずいて食事を続けた。


「お相手の方は? 」


「重いケガをして、こちらでお世話になっていますの。」


「なるほど。」


食事を続けていると、そうっと聞いて来た。


「あなたは、王家にお仕えになっているとお聞きしましたの。

お城はどんなご様子なのかしら? 」


「今は、落ち着いているとお聞きしましたが、私も現状が良くわからないのです。

一週間ほどこちらでお世話になって、万全で帰るようにと言われたのでそのつもりでおります。」


彼女は横で、自分の黙々食べる姿をじっと見て、ウフフと可愛らしく笑う。

どうしたものかと思いつつ、首を傾げた。


「なにか? 」


「きっとね、きっと、 秘密なのですわ。」


「なにがですか? 」


「あなた様の御主君、心配してずっと泣いていらしたから。」


「えっ? そんな事…… 」


あるはずも無い。

気がついた時も、良かったと静かに一言と、他の者に代わりを頼むから、休んで帰るようにと。

先に帰ると素っ気ない物で、大人になられたのだなあと、少し寂しくもあったのだが。


「私のせいだと、それは随分嘆いて後悔されてましたわ。」


ゴクンと、息を呑んだ。

そんな、こと。 仰って いただなんて……


うれしさに、胸が震えた。

ここに来たことも、何も覚えていないけれども、相当ご心配をおかけしたのかと、申し訳ないような気持ちになる。

いや、そうか。

こんな気持ちにならないように、レスラカーン様は気づかってくださったのだ。


「本当に、こちらの方々にはお世話になり…… 」


「いいえ、巫子様方ですわ。」


「え? 」


「黙っててねって言われたのですけども、私は、恩ある方を存じ上げない方が、不幸だと思うのです。

ちゃんとお礼を述べて、何かしらお返ししたいと思うのが、人間の筋道ですもの。

秘密はほどほどにした方が、きっと人の付き合いは上手く回るのですわ。

だからね、私はこちらで独り言を申し上げます。よろしくて? 」


「ええ、 ええ、もちろんです。」


彼女はにっこり、ライアに背を向けると、壁に向けてひっそりと独り言を言い始めた。


「本当に、こちらの方の運が良いこと。

ちょうど、水の巫子様と、赤い髪の火の巫子様がいらしたのですもの。

あのお二人がいなければ、あの血の海ですわ。

今ごろ黄泉に旅立っていらしたんだわ。

本当に、巫子様お二人がいてくださって良かった。」


言い終わると、クルリと振り向いて、何ごともなくニッコリ微笑む。


「水の…… イルファ様が…… リリス様も…… 」


「まあ! 聞こえてしまいまして? 知らない振りをして下さいませね。」


「はい。」


なんて可愛らしくて、聡明な方だろう。

苦笑して食事を済ませると、トレイを彼女が持って部屋を出ようとする。

ふと、足を止めて振り返り戻ってきた。


「あの…… 実は私、お願いが…… あるのですけれども。」


「はい、私で出来ますことならば。

独り言のお返しに。」


ニッコリ微笑み、トレイを横の棚に置いて引き返してきた。


「手紙を、届けていただきたいのです。」


「ええ、そのくらいなら私にも出来ましょう。どちらに? 」


よほど覚悟が必要なのか、一息置いて顔を上げた。


「オブライエン公爵家の当主へ。お爺様にお渡し願いたいのです。」


オブライエン…… 

それを聞いて、この女性が何者かを知り、ライアはハッとした。


「あなたは…… 」


シイッと、桜色の唇に指を立てる。

そうか、彼女は以前、王子の元側近の許嫁だったと聞いたが。

いっしょにいるのだな?

そうか。


「もちろん、もちろんですとも。お任せ下さい。」


元貴族の少女は、その身分を捨てて、粗末な服を着て暗い顔など微塵も見せず、愛する人と生きることを決めたのだ。

なんて強い方だろうと、ライアは胸が熱くなった。

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