586、ケイルフリントへの石橋
ドドドドドド
ニャア! ニャア!
ミスリルから逃れ、引き返す一行が元来た道を一目散に走る。
「どこだ?! 」
「もうすぐのはず! 速度を落とせ! 」
追いついた馬車に、半数が後ろに回り守りにつく。
「どうか? 馬車は通れるか? 」
バッと、グレンが先を見ると、忙しく辺りを見回した。
「いるぞ。何かいる。」
「なんだって? 橋で襲われたらひとたまりもないぞ! 」
「川は深いのか? 」
問われて、併走するトランの1人が顔を上げた。
「深いぞ、腰のあたりまである。しかも流れが速い。
上流が荒らされたから、今までと流れが変わっていると思う。
思わぬ所が深みになっているかもしれない。中を行くのは危険だ。」
ドンッ!
後方で大きな音がして、思わず全員が振り向いた。
「何があった? 」
「倒したのか? 」
グレンの顔を見るが、彼もわからないと首を振る。
「さっきみたいに、浮いて渡るとか? 」
「この人数は無理だな。」
「待て、倒したなら向こうを行った方が早くないか? 」
「確かに。」
結論を急がねばならない。
グレンが顎に手を置き考える。
隣で、ブルースが声を上げた。
「もしかして、精霊がいないってことは、ケイルフリントの方がミスリルが少ないってコトじゃ無いのか? 」
「ああ…… そうか、それはあり得る。」
「ミスリルの力ってのは何が元なんだ?
巫子殿だって他国で消耗した、ならばアトラーナを行くよりケイルフリントの方がミスリル対策としては良くは無いか? 」
併走するレナントの兵が親指立てて手を上げた。
「人なら我らも対処出来る! ケイルフリントを行こう! 」
「俺も賛成だ! ワケもわからず食われては敵わん。」
「このまま行こう! 」
周囲だけでも賛同者が手を上げる。
「わかった、橋を渡ろう。私が先導する。」
グレンが馬車を下りて、横を軽く走り始める。
周囲を警戒する間に、あとからオキビも走って追いついて来た。
彼らが2人いれば百人力だ。
兵達も彼の無事にホッとした。
「何があった? さっきの音は? 」
グレンが並んで左右を警戒しながら小声で聞いた。
オキビは乱れた髪を直すことも忘れ、軽くうなずく。
「あとで、話す。ようやく力が使えた。」
「そうか。最初は使える回数が少ない。頼るなよ。」
「わかった。あの女は兄がいると言った。
それが待ち伏せているのだろう。」
「なるほど、」
「橋だ! 橋が見えるぞ! 」
声を上げた者が指を指す先に、馬上からは遠く、木立の間から川に橋が見える。
あの大きさは、ケイルフリントへの橋だろう。
馬車が通れる幅があるのは、2カ所しか無い。
「我らが様子を見てくる! 」
開けた川への道が見えてきて、先頭の兵たちがスピードを上げて先を行く。
「待て、何か、おかしくないか? 」
トランの道案内が、先を行く姿を見て辺りに視線を走らせる。
「どうしたんだ? 」
「いや、なにか、景色が…… 」
先を行く2人は、橋へ行く道を曲がると辺りをうかがう。
不審な物は見えない。
橋も普通の石橋だ。
後続が追いつく前に、2人がまず飛び出した。
「一気に行ってみよう! 」
「おう! 油断するなよ! 」
安全確認も兼ねて、一気に橋を渡ろうと、率先して馬に鞭打った。
「 待たれよ! 」
トランの1人が声を上げる。だが、それが聞こえないのか2人は走り始めてしまった。
橋に足をかけようとした瞬間、ボンッと火の固まりが目の前を走り、驚いたミュー馬が立ち上がった。
フギャーーーーッ!
「 わあっ! 」
落馬しそうになりながら堪え、足をすべらせながらターンして引き戻す。
「 一体?! 」
「待たれよ、お二方! 」
何ごとかと振り向くと、グレンが駆け寄ってくる。
そして道案内が声を上げた。
「早すぎる! この橋はおかしい! 」
「もっと! 橋はもっと先です! 」
ハッとして大きく目を見開き、声も無くとっさに2人が引き返す。
後ろで橋がぐにゃりと曲がり、巨大な石の手になると後ろを走るミュー馬ごと1人を捕まえた。
「 うわあああー! なんだっ! なんだこれはっ! うわあああ! 」
シャーーッ!シャーーッ!
捕まったミュー馬が怒りに牙を剥いて噛みつくが、相手は石だ。
バッ!
上空からオキビが飛びかかると、その腕をドンッと剣で断ち切る。
ガッ! ドズンッ!
切られた手は土塊に変わると、手首からまた手がニョキニョキと生えてきた。
「早く逃げて! 」
「す、すまん! 」
緩んだ手から、バッと飛び出し捕らえられていた1人がミュー馬で走り出した。
その後を、また手が伸びて追う。
オキビが腰から筒を取り、蓋を指で弾いて石の手に振りかけ、指を鳴らした。
バンバンバンババンバババンッ!
火花が上がって指の3本が破裂した。
「さすが、ゴウカ殿の調合は威力が違う! 」
「オキビ! 」
グレンが駆け寄りオキビの前に出る。
彼は先ほど初めて力を使ったのだ。
恐らく、すぐに同じ力は使えない。先代オキビも、これという時の切り札だと言っていた。
「ここは私が請け負った。
汝は皆と橋に行け! 頼むぞ! 」
「承知した! 」
躊躇無く、オキビがグレンを残し、馬車を追う。
馬の足音も遠ざかり、石の手はするすると川へ下がって行くと、四つ足の石で出来たゴーレムのような物が川を上がってきた。
1本の手が異様に大きく、それが橋を作っていたのだろう。
グレンが辺りを見回し、小さくうなずいた。
「なるほど、そうか。」
長い爪の手をきれいに揃えて横に薙ぐ。
襲いかかるゴーレムが斜めに二つに切られ、一瞬横に切り口がずれた。
しかし時間を戻すように、ゴーレムは瞬時に元に戻る。
その姿は右腕だけが巨大で、それを支えるようにもう片方の腕と両足で支えて3つ足で立っている。
いびつな姿だが、右腕を武器にするという目的の効率はいいのか、思い切り振り回してきた。
ブオンッ!
風切る音が重く、その破壊力を表し一回転すると更に威力が増したように感じる。
ブオン! ブオンッ!
グレンはそれを軽く避けながら、顔の前垂れの前に指を立てた。
2本の指を交差させ、爪を擦りながら小さく声を上げる
「チチチチチチチチチ」
その声が辺りに響き、それに誘われて小さな虫が寄ってきた。
ブーーーン ブンブン ブワンワンワン
次々と、どこからともなくその羽虫が寄ってきて、次第にグレンの上空で真っ黒い固まりになる。
不気味な様子だが、たかが虫だ。
石のゴーレムは構わずグレンに襲いかかった。




