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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、創世を知るドラゴン

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585、オキビの力

はぐれミスリルの少女が、表情の無い顔で目を見開いた。

手から長い髪を垂らし、それがムチ状に絡まって地を打つ。

ムチはその細さから考えられない力強さで、地面を割るかのごとく地響きを上げはじめ、一同は恐怖におののいた。



ビュンッ!



ムチの軌道が変わり、女が大きく振りかぶった。

軌道がこちらを向き、皆の髪が逆立つ。

その瞬間、1人が声を上げた。



「戦うな! にげろおおおおお!! 」



「  な?!  」



一斉に皆が馬を切り返し、元来た道を走り出した。

脇目も振らず、馬車の両脇を走り抜ける。

それが、足手まといにならない道だとわかっている。

彼らの相手は人間ではどうにもならない。

ここで死者を出すのは、リリスがもっとも望まないことだ。



「先に行け! 先の橋だ! 」


「「「 おおおおお! 」」」


ドドドドドドド


「なっ! なんですってええ!! 」


肝心の巫子を置いて逃げる行動に驚いて、女のムチが浮き、皆の頭をかすめて風圧に押された。


フギャアアアッ


ニャーッ!ニャーーーーッ!


風が巻き、大型の猫であるミュー馬のいななきが辺りに騒ぐ。


「先に参る! 」


後ろを付いてきた荷馬車は、小型なので先に旋回して他の者と元来た道を走り出す。


「承知! こちらも行く! それっ! 」


御者台のブルースが立ち上がり、前を走るグレンと息を合わせて一気に馬車を方向転換させる。

グレンは右手を大きく一閃し、邪魔な木々を一息に切り倒して道を切り開く。が、馬車がその上を行くのは無理だ。

そう思った瞬間、グレンが大きく手を振り馬車を宙に巻き上げた。


「 はぁっ! 」


グレンの手に操られるように、馬車が浮いて宙を渡る。


「うおおおおお! 」


舞い上がり、猫のミュー馬が驚いて嘶きながら、バタバタと倒れた木々の上を駆け抜けた。


「フギャーーーー! 」


「走れ! 走れ! 落ちるな! 走れ! わあああああ! 」


生きた心地がしない一瞬を、ブルースが必死で馬に鞭打つ。

道に戻って着地すると同時にグレンが飛び乗り、一気に走り出した。


ガチャンッ! ガラガラガラガラ!


グレンが馬車の後ろから姿を現しオキビと目を合わせる。

任せたと、うなずいてその姿は小さくなっていった。


「ばっ!ばかな! 逃げるですって?! こんな馬鹿なこと! 」


アトラーナの誇りばかりを重んじる騎士や戦士が、戦いもせず逃げ出すなど聞いたことも無い。

焦る女があとを追うため踏み出すと、オキビが立ち塞がった。


「 お前の相手は私だ! 」


「 この! 奴隷ふぜいがっ! 」


ビュンッ!


少女が片足を軸にクルリと回って踊るように振り回すと、その場で回転してムチを振るう。

オキビがムチを避け、一気に少女の懐に入る。

気を入れて、ドスンと両手の平でみぞおちに掌底を入れた。

だが、少女はその華奢な肢体から考えられないほどビクともしない。

いや、手応え無くボスッと抜ける感じがする。


「 あははは! 無駄よ! 」


ピュピュンッ! ヒュッ!


瞬時に離れると、腰からナイフを取り、細かい動きで襲ってくるムチを避けて距離を取る。


「お前に構ってるヒマはないのよ! 」


空を切る激しい攻撃に、軽く避けながらオキビは動きを見る。

人の動きと違う。

筋肉の躍動を感じない。


ナイフを逆手に握ると、少女に向けて一気に駆け出した。

少女の動きにはクセがある。

腕の力では無く、主にそれは遠心力だ。

つまり、単調で避けやすい。


ビュンッ!


ビュッビュンッ!


飛び上がるオキビの動きに、そのムチはいきなり容易に向きを変え追従する。

だが、同じミスリルの彼ならば、避けられないものでは無い。


「ハッ!」


少女を飛び越え短剣を縦に振り下ろしたとき、鋭い気を飛ばし少女の背中を切り裂いた。


「 キャアッ! 」


バサバサッ!

切り裂かれた少女の背中から、真っ黒い髪の固まりがあふれ出る。


「ああああ! お気に入りの皮だったのに!

ひどい! ひどいわ! 」


少女は中身が抜けるように、しわしわと張りを無くして次第に地に崩れ落ち、頭が小さくしぼんで行く。

まるで穴の空いた袋から流れ出るように、皮に詰め込まれた髪は、裂け目を大きくして地面に流れ出てしまった。


「髪が本体か! 手応えが無いはずだ。」


今どき随分、異形の度合いが強い。

驚くオキビをよそに、髪は地面を這ってグルグルとひとまとめになると、もさもさと転がる。

どこが顔なのかもわからない。

顔は無いのかもしれない。本体は、髪の固まりなのか、何かから髪が生えているのか。

だが髪女は、髪を伸ばして少女の皮を名残惜しそうに持つと、地面に叩きつけた。


「よくもやってくれたわね! 」


「髪が本体か。身体はあるのか? 」


その言葉にひどく傷ついたのか、ザワザワと髪がざわめく。


「なにさ、あんただって獣人のくせに。

人間と行動を共にしても、仲間の振りをするだけで結局は置いてけぼりじゃないか!

ハハハ、おめでたい頭だよ、仲間なんて思ってるのはあんただけさ!

それとも、ハナから奴隷なのかい? 」


「奴隷だと、そう言われるのも仕方が無いだろう。

アトラーナで毛嫌いされる存在だからこそ、顔を隠しひっそりと隠れて生きるしかなかった。

だが、時代は変わって行くのだ! 」


「知った風な口を! あんたの皮を寄こせ! 」


髪の毛が、大きくうねるとドリルのように旋回してオキビを追う。


「貴様、あの少女を食ったな?! 」


「ほ、ほ、ほ、何きれい事を言う!

弱い者が強い者に食われただけのこと。探しに来た親も丸ごと食って悲しむ者もいない。

後腐れ無く綺麗な物よ。

お前だって手を汚したことはあるだろう?

同じミスリルのくせに、きれい事を言うな! 」


髪が大きくその場で回転すると、細く、鋭いドリルの先をオキビに向けて向かってきた。

回転しながら大蛇のように、逃げる彼を追ってくる。


「くっ! 」


切っても刺しても倒せない相手に、逃げ回るしか手が無い。


こんな時、みんなのように火が使えれば!

自分の火打ち石は、一体どうなってしまったのか?

いつまでも、神官としての力が使えないのは自分だけなのだ。


森の中に逃げ込み、木を盾に逃げ回る。

だが、相手は髪の毛だというのに、木肌を削り、地面をえぐりながら追いかけてくる。


シャーーーーッ! ドガッ! シャッ!


ガッ! ドスンッ! 


「 はあはあはあ 」


オキビが後ろに結んだ髪を指ですき、指の間に挟んだ髪に気を送ってピンと伸びた針にする。


「はっ! 」


ドリルの中心に、それを投げた。


「無駄よ!無駄!無駄! お前の身体を寄こせええーーっ! 」


オキビが木の根に足を取られた瞬間、髪女が髪を網のように広げて襲いかかった。

オキビはとっさに背中に仕舞っている精霊の衣を引き出し、頭上に広げて盾にする。

髪は衣ごと彼に巻き付くと、なんとか身体の中に入ろうと鼻や口を狙ってくる。

だが、彼をすっぽり包み込む精霊の衣が邪魔で思うようにならない。

先に殺そうとでも思ったか、ギュウギュウ締め上げてきた。


「く、く、く、くそ! 」


よろめきながら、傍らの木にもたれて何とか手を考える。


「死ね!死ね!さっさと死になよ。

あんたの皮は、あたしが使うんだから。きっとあいつら油断するわ! 」


ギュウギュウ身体を締め上げられ、息が苦しく身もだえる。

次第に立っていられず、ドサリとその場に横たえた。


こんな! こんな事をしているヒマ!


こんな! 事をしてっ いるから! いつまでもミスリルは!


オキビが精一杯息を吸った。


「生きる者を! 平等に見る、御方が、上に立つ!

これを、どれだけの、ミスリルが、願って、きただろう。

我らが、地上で生きることが、当たり前と、なった、世界を、

悲願を、今こそ叶え、共に、影からではなく、表…… に立って、

この力を、はあはあはあはあ、

生かして、アトラーナ、という、国を、守る、いしずえとなれるならば。


この命、賭けても! あの御方を、守り抜く! 」


絞り出すような、覇気ある声が、髪女を圧倒した。


「うるさい! うるさい! はぐれて生きるしか無い我らの気持ちが、お前なんかに! 」


だからと言って、人など食うから! ミスリルは!


怒りが、身体の中の火打ち石に鼓動し、身体がカッと熱くなる。

まるで、おき火が次第に火力を強くするように、チラチラとオキビの手が光りだした。

身体の中で、火打ち石が火花を散らす。


ボッ!


両手に火が灯り、髪が焼け、千切れて腕のいましめが解ける。

燃える手に目を見開き、グッと拳を作りその手を開く。

心に火打ち石の声が聞こえる。



今こそ、 今こそ、 我が巫子の御為(おんため)に力の解放を!



パーーーンッ!



柏手を打つように、目前で合わせ声を上げた。



「 火打ち石よ鳴れ! 来たれ! 炎雷(えんらい)! 」



カッ! カーーーンッ!



バシッ! バーーーーーーンッッ!!



突然、雷鳴が響き、オキビの手の中でスパークする。

髪女の髪が、ウニのように一瞬広がり、電気を帯びて爆発すると四散した。


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