記録室より
水路の上に、コンクリートの板が一枚、渡してある。
両端は橋台に乗っている。
長さは四メートルほど、幅は二メートル。
これで橋である。
██市が管理する橋は二百一ある。
半分以上はこの種のもので、名前はあるが、誰も名前では呼ばない。
台帳の番号で呼ぶ。
台帳は一橋につき一葉。
位置、水路の名、寸法、構造の形式、架設の年度、点検の履歴。
それだけが書いてある。
架け替えたときは新しい葉を作り、古い葉を抜いて、別の簿冊へ移す。
一つの橋に一葉、と決めたのは市である。
二つ書けないようにしてあるのではない。
二つ書く必要が起きないと思って、そう決めてある。
事案番号〇一三。
ファイルには、同じ台帳番号の葉が二葉、綴じてある。
橋を架けるには、設計があり、契約があり、検査があり、支払いがある。
どれか一つが欠ければ、その工事は無かったことになる。
二つの記録が食い違っていれば、どちらかが誤りである。
誤りのほうを探して、消す。
それが突合という仕事だ。
食い違っていない場合の手順を、私は教わっていない。
二葉は、様式も、記入の欄も、決裁の印も揃っている。
書いてあることは、どちらも現地と合う。
違うのは、いつ架けたか、誰が架けたか、どう架けたか、その三つだけである。
その三つは、互いを否定しない。
年が違えば、二度架けたことになる。
それだけのことだ。
記録は、起きたことのあとに付く。
起きたことが一つなら、記録も一つになる。
ならないことがある、という申し立てである。
橋は一つである。
申し立ては、市の側から来ている。
――一通目は、その聞き取りである。




