記録室より
電柱に、紙が貼ってある。
どこの街にもある。
求人、塾、買い取り、鍵の開錠。
その中に、人を探す紙が混じることがある。
手作りのものだ。
写真が一枚、印刷してある。
一つしか無いものを、同じとは言わない。
並べられるときにだけ、その言葉は使える。
並べるまでは、それらは別々のものである。
別の日に、別の場所にあったのなら、なおさらだ。
事案番号〇一二。
記録の種類は、屋外広告物の除却に関する記録である。
撤去票と、巡回の記録と、保管されている現物。
屋外広告物法は、所定の手続を経ずに掲出されたはり紙のたぐいを、市が取り除いてよいと定めている。
簡易除却という。
持ち主に断る必要はない。
見つけたら剥がす。
剥がせば、それで終わる。
終わらなかった、という申し立てである。
剥がしても翌日には貼ってある、と申立人は述べている。
剥がしたのは市ではない。
申立人自身だ。
ファイルの中ほどに、その写しが一枚、綴じてある。
お心当たりの方は、と書いてある。
心当たりというのは、こちらの側にあるものだ。
紙の側には無い。
紙は、訊いているだけである。
書いてあることは、照会に出す。
氏名は住民記録へ、番号は事業者へ、月日は暦へ。
当たれば、同じだと書く。
当たらなければ、無いと書く。
同じ、と、無い。
この二つしか、私は書かない。
机の右手に、湯呑みがある。
伏せた覚えはないが、伏せてある。
底に名がある。
読める。
読めるのに、当てていない。
当てていないのは、これ一つだけだ。
一通目から、順に当てていった。




