記録室より
前の事案を書き写してから、まだ、ひと月と経っていない。
断っておくと、あの廊下の足音は、いまも消えていない。
私の足音のあとに、もう一つ。
数えれば、二つ。
振り返っても、誰もいない。
もう、いちいち振り返るのはやめた。
まっすぐ、記録室へ戻る。
それだけが、いまの私にできる対処だ。
今度の綴りは、これまでと様子が違った。
現地に赴いた調査員の報告書ではない。
県内のあちこちで、ばらばらに起きた出来事の記録――遺族の証言、電話会社から取り寄せた通話明細、そして、誰かが解析したその一覧が、一つの綴りにまとめられ、机の上に積まれていた。
表紙に、事案番号〇〇二。
共通しているのは、たった一つ。
ある、電話ボックスだ。
██町の外れ、旧道沿いに一つだけ残る、公衆電話ボックス。
電力の供給は十二年前に止まり、引き込み線も撤去され、受話器のコードは内部で断線している。
つまり、鳴らない。
架からない。
架けられない。
そういう電話だ。
これから写すのは、その「鳴らない電話」を巡る、幾通かの記録である。
――この綴りを読み解くうちに、私は、名簿の中に、私自身の番号を、見つけることになる。
だが、それは、まだ、先の話だ。




